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撤去

沈黙したまま、夕食が出来上がり

四人で輪を作って食べる。

「……」

近くには瓦礫の山である。

正直、完全に間違った気がしてならない。


黙って食べ終わり、そして皆黙って

テントへと入った。マクネルファーが居ないのに

結局俺は外で寝袋である。

どうしてなんだ……。

変わらない青空を眺めていると

なんとなく眠くなって、いつの間にか

眠り込んでしまう。


「瓦礫を退けてください」


バムの声が微かに頭の隅に響いて

そして目がパチっと覚めた。

近くでは早く起きたらしい

ペップとファイナが雑談しながら

朝食を作っている。


俺は寝袋から出て

「あの、今バムの声で瓦礫を退けろって……」

二人に近づいてそう言うと

首を傾げられた。

「私にはきこえてないにゃ?」

「そうですわね」

「幻聴だったのかな……」

俺も食事を作るのに加わって

できたころにピグナが起きてくる。


食べながら、ピグナにもバムの声について話すと

「……他に策も浮かばないし

 とりあえず瓦礫を退けてみようか」

と頷いてきた。

ファイナとペップも同意したので

朝食を食べ終わって、片づけると

皆で、城の瓦礫跡を撤去し始める。


九割ペップが動かして

五分俺で、残りの半々が

ファイナとピグナという感じで

瓦礫を脇に撤去すると

その建っていた場所の中心部に

円形の大穴が、透明な床に開いているのが分かった。

当然ながらその下はどこまでも続く青空である。


「ああ、塔が下まで伸びていた場所だね」

ピグナがのぞき込みながら言う。

「他には、気になる場所とかものとかないよな?」

「瓦礫にはなかったにゃ」

「飛び降りろということでしょうか?」

「……分からないな」

しばらく四人でその穴を覗き込んでいると


「ここが正解です。あとの穴は冥界に通じています」


バムの声がして咄嗟に全員で背後を振り返る。

そこには誰も居なかった。


「あとの穴ってなんだにゃ?」

ピグナが気付いた顔で

「……あ、そうか、巨竜が顔を出していたのも穴だった」

「ということは、他の囮も

 透明な床に開いた穴から出ているということか……」

「つまり、ここから落ちればいいんだにゃ?」

「そういうことになるよね」

「塔が無くなりましたが……」

「無くてもいいんじゃない?」

俺が真面目な顔で

「バムを信じよう」

と言うと、ペップは

「そうだにゃ。バムちゃんなら間違いないにゃ」

とすぐに頷いて、あとの二人は

いきなり俺に詰め寄ってきて

「あ、あのさ……バムちゃんだから何でも信じるって

 良くないと思うよ……」

「そ、そうですわ。普段は居ないのに、い、いつもいつも

 良い所だけ出てきて、ずるいと思います!」

「あの、もしかして、バムに嫉妬してる……?」

「違うよ!」「違いますわ!」

嫉妬しているらしい。

ペップはチラッと二人を見ながら

「ふむ……青臭いにゃ。ただの女としての本能だにゃ。

 エッチとはまだ違う……これの進化系が昼メロか……」

なにか意味不明なことをブツブツ一人で呟いていた。怖い。


その後、三十分くらい準備をした後に

意を決して飛び降りることにする。

とりあえず荷物は俺とペップが背負って

四人でせーのでいくことになった。

「せー……のっ!」

他の三人は足から上手く飛び降りられたが

俺は一人足が引っかかって

バランスを崩し、頭から落ちていく。


真っ青な空の中をどこまでも落ちていきながら

ああ……これ死んだわ……。

もうダメだわ……。

短い人生だった……。

と走馬灯が過ぎりだす。


中学野球部の練習試合の記憶だ。

田坂だか、松島だか名前をよく覚えていない

三番の奴が、めちゃくちゃ変な体勢で

むりやり相手のシンカーにバットを当て

さらに四番の筋肉バカの山口がツーベースヒットを打ったのだが

三番のアホが本塁への走塁を踏んぎれずに

二塁三塁となり

その日、監督の気まぐれで

何故か五番を打っていた俺に打席が回ってきた。

「へいへいバッタービビってるー!」

いきなりベンチから、いつも大量失点するクソピッチャーが

チームメイトである俺を何故か煽ってきて

他の選手全員から小突かれまくった末に監督から

その場で説教されだしたのを横目に

俺はネクストバッターズサークルから

打席に入り、そして集中する。

打てる。大丈夫、打てるさ。

三番と四番のアホどもとあのクソピッチャーにだけは見下されたくない。

その一心で俺はバットを三度

渾身の力で降って、そしてツーストライクに追い込まれた

三度目に相手のストレートに掠って、打球は舞い上がり

キャッチャーフライでその打席は終了した。

ベンチに戻ると、同情した顔の監督が

スポーツドリンクのペットボトルを渡してきて

隅で黙って飲むと、妙に旨かったのを覚えている。

クソピッチャーは、監督に気づかれないように

中指を立て、俺にファックサインを出してきて

他のチームメイトに即座に見つけられて

また小突かれまくった末に、監督から正座させられて説教をくらっていた。

無茶苦茶な弱小チームだったけど、楽しかったなぁ……。

青春だった……。



「おっきろにゃああああああ!」



気持ちよく走馬灯に浸っていると

「ぶぼっふぁああああああああ!」

頬を思いっきり叩かれて、俺は

ゴロゴロと横に吹っ飛んでいく。

顔に当たる雨と、頬の痛みに起き上がると

レインコートを着たペップが

「起きたかにゃ。呼吸が止まりかけてたにゃ」

ファイナとピグナも近寄ってきて

「ペップさんの闘気を注入したのです」

「これでじいさん以外はみんな見つかったね」

見回すと辺りは、

曇天から小雨が降り注いでいる荒野だった。

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