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君たち全員を食べたい

「あぶなかったね」

ピグナが城を見ながら言う。

「じゃな。あのまま気づかなかったら

 延々と時間つぶしをさせられておったかもしれん」

「もう迷うことないにゃ」

「そうですわね」

俺も頷いて、まっすぐに城を目指して歩いていく。


一時間ほど歩いていくと

全貌が見えてきた。

なんと、城の下には延々と下へと伸びていく塔が続いている。

「近づいてたら、急に見えてきたってことは

 何らかの呪法で隠してたわけか」

「確かにそうじゃな。遠くからでも

 塔の部分も見えないとおかしい」

「ワールドイートタワーに入ってから

 悪意とまやかしだらけだにゃー」

「まっことそうですわ。酷いことばかりです」

ファイナは少し怒っている。


とにかく透明な床を青空を上下に見ながら

歩き続けて、塔がいくつもある巨大城の城門の前へとやってきた。

閉まっている鉄門を皆で見上げる。

「開いてないな」

「城門乗り越えはできるにゃ。

 でも今まで様子を見てると……」

「やらないほうがよさそうじゃなあ」

どうするか話していると、ファイナがスッと前に出て

「たのもー!わたくしたちが来ましたわ!

 早く門を開けなさい!」

するといきなり、ぐにゃあと城の塔が

まるで生き物の触手のように曲がって

先端でこちらを差してきた。

さらに城門がゆっくりと左右に開いて


「久しぶりの冒険者だねぇ……久しぶりだぁ」


パカパカと嬉しそうにまるで口が喋るように

低く落ち着いた大声で話かけてくる。

「無機生命体か……あんた、張りぼてじゃないよね!?」

ピグナがグニャグニャと何本も塔を動かしている城へと

尋ねると


「もちろんそうさぁ……デコイは幾つ壊した?

 楽しかっただろ?」


のん気に答えてきた城にファイナが顔を真っ赤にして

「楽しくありません!そんなことより次の階へ

 わたくしたちは行きたいのです!」

プリプリと指をさして怒り出した。

「やっぱり時間稼ぎのデコイだったのか……」

ピグナは納得した顔で頷いている。


「通してもいいけどさぁ。

 一つやってもらいたいことがあるんだけどー」


「なんなのですか!?もし理不尽な要求だったら

 許しませんことよ!」

激怒し始めたファイナを俺たちが押しとどめていると


「んとさー。君たち全員を食べたい。

 あーもちろん、かみ砕いたりはしないけどー。

 味付けはきっちりして欲しいかな」


城の意味不明な要求にしばらく全員で固まる。

必死に考えたピグナが

「えっと、つまり、下の階に行きたかったら

 あなたに食べられろと?」


「そうだよおー。僕が飲み込んでー

 下の階に排泄したら、いけるよぉ。

 でもねー不味かったら吐き出すから、それはごめんねぇ」


「は、排泄とか言っとるぞ」

ピグナは城の下に延々と伸びている塔を指さして

「あれが人間でいう胃腸だと思えば

 納得がいくよ。つまりこの城の中に入れれば

 自動的に塔を下りて行って、そして途切れた先で排泄

 つまり、下の階に排出されるんだろうね」

「どうするにゃ?まずは私が行ってみるにゃ?」

ペップが俺たちを見回す。

「確かに、ペップならこの中で一番強靭だし

 何かあっても、抜け出せそうだな」

俺がそう言うと、皆も賛成した。


ペップは荷物をその場に降ろして、スタスタと門の前まで行って

「まずは私を食べろにゃ!」

と仁王立ちして言った瞬間に左右に開いた鉄門の中から

ぐにゃあっと曲がった真っ赤な舌に絡めとられて

城の中へと消えて行った。

唖然として、皆で眺めていると中から

「そっ、そこはだめだにゃあー」

「あっ、あっ、ああーっ」

「やめろにゃあああああああああ!」

「エッチなのはいけないにゃああああああああ……あふん……」

という声でペップが完全に沈黙した。


しばらく何も起こらずに

「……やばいよね?」

「生きてますかね……」

「なっ、なんかこれ、かなり大変な気がするぞい」

俺も唖然として押し黙っていると

ポンッとした音と共に、一糸まとわぬペップと

着ていた全ての服が別々に門から吐き出された。


「不味いね。まず着ている布が要らないよ。

 それに、味付けが汗の味だけでしょっぱかった。

 ちゃんと自分の肉の味にあった調味料振りかけてよ」


城の不満げな言葉を聞きながら

吐き出されたペップに駆け寄ると

傷は無いようだ。ただ気絶しているだけである。

服に破れもない。

「唾液のようなものもついとらんな」

ファイナがペップに服を着せている間に

残りの三人で後ろを向いて

「どうしようか……」

「これ、裸で身体に調味料塗りたくれってことだよな。

 それで気に入られたら飲み込まれて、下まで行けると」

「完全に狂っとるな……」


しばらく三人で沈黙した後に

マクネルファーが意を決した顔で

「よし、若いもんばかりに無理はさせられん。

 マリーから逃れさせてもらった恩もあるし

 わしが実験体になろう!」

「じいさんからぁ?」

ピグナが微妙な顔で見つめるが

「まずは老い先短いわしがよいじゃろ。

 上手くいったら次は男のゴルダブル君じゃな。

 それで上手くいったら

 女の子たちがいけばよい」


マクネルファーの決意は固そうなので

とりあえず、パンツ一丁になった

彼の痩せて枯れた体に、ピグナと調味料を塗り付けることになった。

ファイナは気絶したペップの介抱をしている。

まずは城に味の好みを訊こうとピグナが言ってきたので

俺が恐る恐る尋ねると


「んー辛い方がいいかなぁ。でも

 素材によっては、甘みが多少出た方がいいね」


などと無茶を言ってくるので

荷物から出した金属製のボウルに

唐辛子のような真っ赤な香辛料と多少の甘い蜜を混ぜて

そしてマクネルファーの身体に二人で塗ることにする。

「ぐあああぁぁぁ……皮膚呼吸がぁあぁぁ」

「きっ、きくのぅ……目が開けられん」

マクネルファーが辛そうなので

急いで塗りまくり、そして髪まで全身真っ赤になり

さらに蜜の匂いもする謎の老人が出来上がった。


目が開けられないので手を握って

城門の前まで連れて行って

「この老人を食べてよ!」

と距離をとったピグナが城へと叫ぶと

先ほどと同じく、真っ赤な舌が左右に開いた

城門から出てきて、マクネルファーをさらっていった。


「ああああああああ……」

「そっ、そんな……」

「はぅ……」

マクネルファーの声がしなくなってしばらくすると

ゴクンッ!という大きな飲み込む音がして


「ぷはぁー……旨かったぁ。水分少なめの身体に

 ピリリッと辛いスパイス、そして、蜜でバランスをとってるのか。

 中々やるねっ君たちっ」


上機嫌の城から何か褒められる。

とにかくマクネルファーは無事に飲み込まれて

次の階へと行ったらしい。

「よ、よし、上手く行った。次はゴルダブルの番だね!」

なぜかピグナが頬を赤らめて言ってくる。

怖いが、ここは堪えようと

俺は覚悟をする。

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