召喚
全員で上の階の調理室から
食材をこの空間の檻の近くまで
運び出し始める。
今度は人手が多いので
気持ち的には楽だ。
作る量は先ほどの倍にしようということになったので
運搬に時間はかかるが
巨竜が来るまではしばらく時間あるはずなのて
ゆっくりやろうということになった。
ファイナとマクネルファーが食材を抱えて
一往復する間に
ペップは七往復位している。
ピグナは時々、調理場の隅でサボっていて
見つかると
「へへへ、見つかったぁ?」
と笑って、悪びれずに運搬に戻る。
半日近くかかって
ぐったりとなって、
約二千キロの食材を檻の近くに積み上げた。
相変わらず元気なペップと
サボりまくっていて余裕があるピグナの
二人が雑談をしながら夕食を作り始める。
俺とファイナとマクネルファーは
横たわって休息をとる。
もう一歩も動けない。
夕食を食べたら、即寝ようと思いながら
いつまで経っても変わらない青空を
仰向けに転がって眺める。
どこまで青空である。
不思議なのは太陽が見当たらないことだ。
どこから明かりが来てるんだろうな。
と考えようとしてやめた。
たぶん、ここも異常な空間なのだろう。
二人が作ってくれた夕食を
ボソボソと食べてから
すぐに寝袋に入って寝てしまう。
ペップとピグナは何かを
話し込んでいるようだが
疲れで話を聞くどころでは無かった。
深く眠り込んで
目を覚ますと、すでに他の全員は起きていて
朝食と、巨竜に食べさせる料理の下準備を
二手に分かれて作っていた。
「あ、起きた?」
ピグナがニコニコして近寄ってくる。
「手伝うわ」
「いや、いいよいいよ。
ゴルダブルは、ファイナちゃんに魔力を
あげるために休んでてよ」
「もしかしてヘルファイアクラッカーって
大したものなのか?」
ピグナは曖昧に笑って料理に戻った。
何となく不安を覚えながらも
ボーっと座って休んでいると
みんながニコニコしながら
俺の周りに料理を運んできてくれる。
……妙に優しいな……と思いつつ
「ありがとう」
と感謝しつつ食べ終える。
片づけようとすると
「いいよいいよ。ゴルダブルは座ってて」
ピグナが怪しい笑みで、さっと
食器を持って行った。
いよいよ怪しい。食べている皆の顔を見ようとすると
みんな一様に顔を伏せる。
……なんか絶対隠してるだろ。
と思いながらも、一応仲間を信用して
座って休息する。
結局全く手伝わずに
時間が過ぎて、ファイナがいそいそと
魔法陣を描き始めた。
俺はそれを眺めていると
ピグナが近づいてきて
「あのさー……あたしが計算したんだけど
予想より消費魔力が大きいみたいなんだ……」
「ああ、俺の負担が激しいんだな」
「うん……悪いけど、堪えてくれる?」
「ああ、任せろ」
というピグナはようやく安心した顔をした。
そしていよいよ召喚が始まった
魔法陣の前に立つファイナの背中に
ピグナが右手を当てて立ち
そして左手は俺の胸に当てて
俺とファイナを繋ぐようにしている。
ファイナは長い詠唱が終わると
「出でよ!珍奇なる魔界の種!
魔王草の子種たちよ!」
と両手を掲げて、空へと叫び
同時にあたりが暗くなり、パチパチと
電気が魔法陣の上に渦巻き
それと同時に、俺の胸から
ピグナの左手に、何かが吸い出されていくのがわかる。
吸い出されるほどに俺は虚脱感に苛まれ
そして目の前が真っ暗になりかけ
倒れそうなところを踏ん張る。
その状態が五分ほど続くと
魔法陣の上に山盛りの何かが
積まれていた。
「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ……」
と飛び跳ねて、いるように思えるそれらを
薄目で確認するのと
同時に俺は意識を失い
その場に倒れ込んだ。