妙案
少し休んでから、食材の搬送に
再び加わる。ペップ一人でやらせるわけにはいかない。
ファイナとマクネルファーも
無理せずに持てる範囲で、肉や野菜を
運んできてくれた。
千キロを余裕で超えるであろう
食材を積み上げて、巨竜と話して
待たせていたピグナに駆け寄って
搬送が終わったことを教えると
「待たせたねー!今から作るからねー」
巨竜に手を振って、俺の手を引いて
食材の場所へと駆けていく。
「もっと近くで作らんと
盛れる皿はないぞい」
「そうだにゃ。鼻息で飛ばさないように
注意していてほしいにゃ」
「わかった。じゃあ、その食材を
檻のすぐ近くに移動させて」
ピグナは頷いて
肉や野菜を背負って
すぐに檻へと駆けていく。
俺たちもさらに食材の移動に時間をかける。
今度は近くだったので一時間ほどで
何とか全て移動させられて
皿が無いので、巨竜の鼻先で作ることにした。
ピグナによると、料理が完成すると
遮っている檻の一部が消えて、そこから舌を伸ばして
食事を食べられるようになるらしい。
「鼻息でとばすにゃよ!」
ペップは背後の巨竜に注意しながら
大鍋に肉と野菜を放り込んでかき混ぜていく。
その野菜炒めに、全員で全力で
塩やら、辛い香辛料やソースを何種類も振りかけて
かき混ぜて出来上がったら、ペップが
巨竜の顔の前で大鍋をひっくり返して
床にぶちまける。
ひたすら数時間以上それの繰り返しである。
千キロ以上の食材を使い切って
巨竜の鼻先に香ばしい匂いの
野菜炒めの大山が出来上がると、ペップ以外の
全員がその場に倒れていた。
もう半日近く、料理にかかりきりで
体力が残っていない。
唯一元気なペップが
「できたにゃ!食えにゃ!」
ビシッと檻に入った巨竜の顔を見上げて
指を差すと、巨竜と俺たちの間の檻が
スッと消えて、嬉しそうな顔の巨竜が
長い舌で千キロ以上量のある野菜炒めの山を一気に
口の中へと放り込んだ。
「一瞬か……」
皆で唖然としていると、巨竜は
旨そうにそれを飲み込んで
「ぜんぜん辛くないぞー?またそのうち来る」
と満足げに呟いて、スポッと檻から顔を出して
下方へと飛んで行った。
「……」
全員で言葉もなく固まる。
「あの……騙されたのでは?」
「いや、そうだったらあたしなら分かるけど……」
「と、とにかく、休もう。
俺たちも何か食べないと」
「私に任せろにゃ!旨いもん御馳走するにゃ!」
体力にまだ余裕のあるペップが
俺たちの遅めの昼食を作ってくれて
ふるまってくれたので
何とか、落ち着きを取り戻し
これからどうするか、作戦を練り始める。
「つまりじゃ、単純に辛さが足らんかったと思うがの」
「そうですわね。余裕の顔で食べていましたわ」
「上の階の調理場の食材で、あれ以上辛い組み合わせは
ないにゃ」
「うーん……ファイナちゃん、あとでいいから
魔界から、ヘルファイアクラッカーを
できるだけ召喚してくれる?」
「そ、それは、食べさせても大丈夫なのですか?」
「なんじゃそれは。爆竹か?」
「いや、木の実だよ。食べると炎が出る辛さで
あ、みんなは、素手で触れたらダメだからね。
触っただけで死ぬから」
「お、おい……あの竜を殺す気なのか?」
ピグナは首を横に振って
「いや、そうじゃないよ。
強靭な竜の口内で、しかも辛いもの好きで
辛い物に慣れてる。ならあたしが知ってる
一番辛いものでも、たぶん大丈夫だよ」
「確実ではないなら、賭けじゃな」
「九割勝てる賭けだと思う」
その後も少し皆で考えて、他に妙案は出なかったので
ピグナの案で行くことにした。