辛いもの
ピグナが巨竜に色々と質問している間に
俺たちは遠くまで飛んで行った
荷物やら機材、そしてテントを回収に行く。
数百メートルとか普通に飛ばされているので
皆でかなり苦労しながら、巨竜の頭の入っている
檻から遠くに離してまとめていく。
一時間弱で、ようやく全ての荷物を見つけ出し
「ひと苦労でしたわ……」
ファイナが肩を落として呟く。
向こうではまだピグナが巨竜に
様々な質問をぶつけている。
「あのでかい竜に食わせるなら
もう一回、階段上って調理場から
食材をもってこねばならんのう」
「でも、あいつの味覚がどっちなのか
まだわからないにゃ」
「ピグナが話を終えるまで待とう」
夕食が吹っ飛んだので
それに代わる食事をまた作り始める。
ようやく俺たちの夕飯ができたころに
ピグナはこちらへと駆けて戻り
「分かったよ!何が食べたいのかも!」
巨竜はこちらを仰ぎ見ると
檻から首を出して、そして遥か下方へと
飛んで行った。
「行きましたけどいいのですか?」
「うん。あたしたちが休憩と睡眠取ったら
また来るって言ってた」
ピグナに夕食の皿を乗せたトレイを
ペップが渡しながら
「で、どんな食べ物がほしいにゃ?」
「えっとね、あいつの名前はドナグルザ・ナッハガって言って
すっごい辛い物が食べたいんだって。
味覚は話を聞く限り、普通だね」
「甘いものの次は辛いものか……。
味覚の絶頂は今回は必要ない感じ?」
「そういうのはないって言ってた。
とにかく、体中がビリビリするくらい
辛い物を食べさせてほしいらしいよ」
「シンプルじゃな。とにかく飯を食って
寝よう、一晩経ったら良いアイデアも
浮かんでくるかもしれん」
皆同意したので、用心のために
檻からさらに離れた場所へ
テントを張る。
「そういえば、この空間はどうなってるんだ?」
ピグナに尋ねる。
「大きな島がここから下の空にいくつも浮いていて
そこがドラゴンたちの楽園になってるんだって。
この場所は透明な床と、高い天井に覆われていて
ドラゴンたちは入れないようになってるみたい」
「……同じ惑星なのか?」
「そこまではわかんない。
どこかの閉鎖空間かもしれない。
あの竜は、近くの浮き島に住んでいて
食事の匂いがしたら、檻に顔を入れるように
ある時、頭の中に声がしてやることにしたんだって」
「……凄い嗅覚だな」
こっちから下方に島は見えないので
相当な長距離を飛んできているはずである。
「そうだね、それにその頭の声も
食王とか食王の手下のものだろうね」
「……考え出したらきりがないから
とりあえず、あの巨竜を満足させるものを
明日から作ろう」
ピグナは頷いた。
翌日、
皆で起きだして朝食を食べていると
遠くの檻の中にドラゴンが顔を入れて
「きたぞー」
と気を使った調子で声をかけてくる。
精一杯小さくしているがそれでも結構な大声である。
空はまだ青空のままだ。
どうやらここも前の階と同じく
空の色が変わらないらしい。
ピグナさっそく竜のところに走って行き
色々と尋ねに行く。
そしてこちらへと駆けてきて
「量は多い方が良いんだって。
あと味は辛めでかつ豊かな方がいいってさ」
「注文が昨日より増えてきたのう……待たせたからか」
「竜の子供さんに作ってあげていた
料理の応用が効きますわね」
ファイナを皆で一瞬、見つめる。
「そ、そうか……じゃあ、辛めの
野菜炒めとかでいけるな」
「問題は食材の搬送だにゃ……」
「それはみんなでするしかないね。
あたしは、これから食材を運ぶって言ってくるよ」
ピグナはまた、檻へと駆けて行った。
俺とペップが搬送係ということになり
ファイナとマクネルファーは
その場で調理の準備を始める。
ペップと共に、前の階を行き来して
可能な限りの肉と食材を運び込んでいくが
いくら運んでもまだ足りないような気がする。
そして調理場の食材はいくら
運び足しても不思議と補充されていて
尽きることがなかったので
搬送の無限ループに陥っているような
錯覚を覚えながら
二人で、数百キロ分の食材を
数時間かけて、積み上げ
そして、俺がまず倒れ込む。
ペップは余裕の表情で
「鍛え方がたりないにゃ。あとは任せろにゃ」
さらに速度を上げて、一階とこの場所との
往復を始めだした。
「水飲むかの?」
「ありがとう……」
マクネルファーの差し出した水を飲んで
しばらく休憩することにした。
調理器具の準備はとっくに済んでいるようだ。
やることがなくなったファイナが暇そうに
右手と左手に冥界の炎を点けたり消したりしている。