悪魔の作戦
次の日からは、延々とお菓子作りの日々が始まった。
ありとあらゆる、お菓子や甘いものを作っては
バムを呼び出して、食べさせていく。
しかしバムは中々、味覚の絶頂とやらには達しない。
仕舞いにはピグナが俺の記憶をスキャンして
和菓子を見よう見まねで作り
そして俺が試食して、限りなく本物の味に
近づけて、食べさせてまでみたが
「んー甘さの強調されたお菓子で素敵ですけど
でも、違いますねー」
とバムはニッコリして消えた。
ここまでですでに一週間経っている。
ペップが空に向かって
「なんなんだにゃ!エッチな格好はしないし
いくら作っても絶頂にも達しないしなんなんだにゃああああああ!」
吠えて不満をぶちまけた。
「まっことそうですわ!何回言っても
最初の格好で出てきてくれませんわ!」
ファイナもプリプリと怒っている。
ピグナが仕方なさそうに
「魔界から召喚した麻薬成分のある実とか
お菓子に入れてみる?方向性は違うけど」
「……やめてくれ。それやったら
取り返しのつかないことになりそうなんだが……」
さすがにダメだと思う。
バムが激怒しそうである。マクネルファーが真面目な顔で
「バムちゃんを拘束して、全身をもみほぐして気持ちよくさせながら
ゴルダブル君がお菓子を、口移しで食べさせるとか
どうじゃろか……違う器官の絶頂に頼るとかは……」
「マクネルファーさん……疲れてるだろ?」
「うむ……一週間はながかったのう……」
「エッチなのはいけないにゃあ……」
トボトボと近寄ってきて注意してくるペップも元気がない。
「味覚の絶頂に達するような甘いものか……」
ピグナは腕を組んで考えてから
「あっ、そうか……じいさんのアイデアはいいかもしれない……」
「どういうことじゃ?性的な興奮に頼るのか?」
「エッチなのはいけないにゃー……」
「バムちゃんに外部的な刺激を与えて、味覚を絶頂に達するんだよ!」
「何を言ってるんですの?エッチなのはダメですわよ?」
ファイナもすっかりペップに似てきた。
「あたしたちの作ったものを食べたということは
身体はちゃんとあるよね?ということはストレスも
脳で感じるわけだ」
「そうじゃろうな。あっ、そうか……
つまりバムちゃんに強いストレスを与え続けて
そして、最高に美味しいものを食べさせれば
脳が快感を感じやすくなるか……」
「つまり味覚の絶頂に達する可能性が高くなる!」
「いいのかよそれ……」
俺が呟くと、全員がこちらを見て頷いた。
「どうせ神だから気にしないでいいんだよ!
さ、決まったからにはやるしかないね!」
「いや、どうせって……」
俺は皆に流される形で、バムにストレスを
与える作戦会議に加わる。
二時間後、作戦が決まった俺たちは
まず、俺とピグナとマクネルファーが
最高に旨いお菓子を作る係
そしてファイナとペップが
バムにストレスを与える係になった。
作戦内容はこうだ。俺たち三人が本気で
旨いお菓子を研究試作している間に
ファイナとペップがバムを無駄に呼び出して
冷蔵庫から出して解答した生肉や
くず野菜を食べさせつつ
セクハラを繰り返す。さらにそれを一週間ほど
続けて、バムが疲弊した所で俺たち三人が完成したお菓子を
食べさせる。
その日から一週間は凄まじかった。
十五分に一回、ファイナとペップが
バムを呼びだして、料理だと言いながら
食材を素のまま食べさせ
そして、エッチの境目について
バムの身体を指さしながら熱く語るという地獄が
近くで繰り広げられる。
初日は怒っていたり、反論していたバムだが
二日目には鬱っぽくなってきて、三日目には
頬がこけてきた。そして四日目には
無表情になって、五日目には完全に無反応なってしまった。
しかし呼ばれたら、必ず出てくるのが
律儀と言うか、生真面目である。
副作用として、それを近くで見ながら
お菓子を作っていた俺は後ろ頭に小さな円形脱毛症ができて
ファイナとペップは次第にエッチの境界についての
極意を掴んできてしまったようだ。
「つまりサイドラインのヒップのエロチシズム角度が違うにゃ」
「そうですわね。体脂肪率がつまりエッチ関数の……」
などと呼びだした無表情のバムに生肉を食べさせながら
専門的な用語で語り合っている。
見ていられないので
必死にお菓子作りに邁進すると六日目には
完璧な甘さとパイの柔らかさが調和した
シュークリームが完成した。
いよいよ、これでバムを救える。
と思いながら、俺はそれを皿にのせて
「できたぞ!来てくれ!」
と必死に呼びかけた。
「……」
無言のバムがいきなり目の前に立っていて
俺の手に持った皿からガっと
右手でシュークリームを奪い取り
そして一口齧ると
「美味しい……」
一すじの涙を流しながら俺に抱きついてきた。
その瞬間、調理場全体が発光し始めて
そして、床下への階段の入り口に
張られたバリアがパァン!と音を立てて
はじけ飛んだ。味覚の絶頂に達したようだ。
「やった!」
ピグナはガッツポーズをするが
マクネルファー、ペップ、ファイナは
まずバムに近づいて謝りに来る。
「ごめんにゃ……やりすぎたにゃ」
「謝罪しますわ……作戦とは言え、失礼でした」
「すまんのうバムちゃん、他にやりようを
思いつかなくてのう……」
バムは俺に抱き着いたまま頷いて
そしてスッと消えた。
「悪魔の作戦じゃったな……」
ひとり嬉しさを爆発させて飛び跳ねている
ピグナをマクネルファーは見る。
「……そうだな。二度はしたくないもんだな」
「そうだにゃ……」
「そうですわね」
俺たちはうな垂れながら
次の階へ向かう準備を始める。
食材は調理場から、好きなだけ持って行けそうなので
詰め込んでいく。
ここまでで既に、
ワールドイートタワーに入ってから
約半月の月日が過ぎている。