調理場跡
全員で荷物を整理して背負って
ペップの言う調理場の跡へと向かう。
天井が崩れてなくなっている
かなりの広さの調理場だ。
建物の構造的にレストランの一部だったのかもしれない。
皆でその調理場廃墟内の
小石や、朽ちた椅子の跡などをずらしたり
移動させたりするが、確かに元に戻らない。
「ここはちょっとおかしいね……。
周囲と朽ち方は同じなのに
修復機能が働いていない」
そう言ったピグナが調理場の床に
落ちていた瓦礫の欠片を
崩れた壁から外へと放り投げると
調理場と、外とのちょうど境目で
欠片は止まって、落ちた。
「やっぱりここだけ、空間の構成要素が
違うみたいだ」
ペップが首をかしげながら
「料理をしろってことかにゃ?」
「かもしれんなぁ。ワールドイートタワーじゃしなあ」
「だとしても何を作ればよいのでしょうか……」
皆で色々と話しながら調理場跡を探し回っていると
「あ、隠し扉があるね……」
ピグナが床に敷かれていた
腐った皮のシートを退けて
姿を現した扉を開いた。
全員で中を覗き込むと、階段が下へと延々と
続いている。
「この下かなぁ……」
「じゃろうな」
ジャンケンに負けて
恐る恐る俺が足を踏み入れると
まるで透明なバリアが張られているように
扉の中へと入れなかった。
「……これは……」
「やはり、この調理場で何かをしろということかのぅ」
「力づくでバリア破壊するかにゃ?」
「いや、無理だと思うよ」
五人で話していると、背後がいきなり光って
「よくここをみつけましたね!
わたくし!一階の管理人を務めさせて頂いているものです!」
といきなりバニーガールの格好をしたバムが両手を広げて出てくる。
頭にはうさ耳のバンドをつけて
胸と股間のラインを強調した黒い水着のような
際どい服装である。
「バムちゃん……何してるにゃ……」
「バム……誰の事ですか?」
バムはすっとぼけるが、ファイナが近寄って行って
「ペップさん……これの格好はエッチなのでは?」
指をさして振り向く
ペップも近寄り、マジマジと頭のうさ耳から
服装と、つま先まで見回して
「うーむ……どう見てもエッチだにゃ……。
しかし、本人から性的な波動を感じない……。
どういうことだにゃ?」
バムは戸惑った顔で
「あの……話を進めてもよろしいでしょうか?」
ピグナとマクネルファーと俺が頷くと
ホッとした顔で
「皆さんにはここで、旨さで味覚が快感の絶頂に達する料理を
作っていただきます!」
「……」
「ペップさん……快感の絶頂とか言いましたわよ?」
「うーむ、どう考えてもエッチだにゃ……だが
そういうニュアンスが希薄だにゃ……セクシャリティが
ないにゃ……小娘以下だにゃ」
バムは顔をヒクヒクさせながらも
「とっ、とにかく!調理器具と食材はいくらでもご用意しますので
私が味覚の絶頂に達する料理を作ってください!」
「バムちゃんに食べさせるにゃ?」
「バムとは誰のことか分かりませんが!
とにかく私に食べさせてください!」
バムは逆ギレ気味に顔を真っ赤にして
そして後ろを向いた。ファイナがその後姿を指さして
「服のお尻のところにウサギの真っ白な尻尾がついていますわね……。
これはエッチなのでは?」
「むむむむ……肝心の尻がなんか違うにゃ。
力が入ってて固いにゃ、男みたいだにゃ……」
バムは後ろを向いたまま、フルフル震えている
堪えているようである。
まだバムに絡んで好き勝手批評している二人は放っておいて
三人で輪を作ってどうするか話始める。
「バムちゃんの味覚って、狂ってなかったよね?」
「そうだな。好物を食べさせたらいいんだろうか」
「味覚での絶頂とか言ってたぞい……」
「バムちゃんの好物って何?」
「砂糖をまぶしたパンとか甘いものが好きだったな」
「甘いもの好きなの……?」
「わりと、そうかもしれない」
「調理器具と食材は用意するとか言っていたのう。
とりあえず菓子パンでも作るかの?」
「そうしようか」
ペップとファイナに散々好き勝手批評されて
それにプルプル震えながら耐えているバムに近づいて
「料理したいんだけど、調理器具と食材用意してもらっていい?」
と尋ねると、救われた顔をして頷いた。