一階
「お、押すぞい?」
マクネルファーは振り返って俺たちに
確認してくる。残りの四人で頷くと
黒い壁に殆ど同化しているボタンを
意を決した彼は勢いよくは押した。
何も起こらない。
「なんだ外れかにゃ?」
全員で広いフロア全体を見回していると
いきなり床がすべて消えて
真黒な床下へと全員で落ちていく。
「うわあああああああああ!」
「にゃあああああああああ!」
「ああああああああああ……」
罠だったか……と諦めながら
全員でかなりの深さまで落ち込むと
いきなり落下スピードがゆっくりになり
そして柔らかい土の地面へと着地する。
見回すと、夕焼けに照らされた
荒廃した広大な街の跡だった。
延々と遥か彼方まで、崩れた廃墟が並んでいる。
五人で呆然としていると
いつの間にか近くに立っていたバムが
「"一階"へようこそ。ここから真のワールドイートタワーの始まりです」
といきなり言ってきて
「あっ、おい!」
俺が声をかけようとすると消えた。
「一階とか言ってたにゃ……」
「そうだね……」
「なんで地下なのに太陽が差しとるんじゃ?」
マクネルファーが訝し気に空を見上げた。
「あの空、止まってませんこと……?」
ファイナがそう言って、五人でしばらく見回すと
確かに、夕暮れのまま
点在するちぎれ雲も一切動いていない。
「……閉鎖空間だ……」
ピグナがボソッと言ってから
「たぶん、この空間の中のお題をクリアしないと
次へと進めない構造になってるはずだよ。
冥界で昔、同じような迷路を見たことがある」
「お題をこの中から探せと……」
地上の見える範囲全て廃墟である。ヒントもなさそうだ。
とりあえず俺たちは固まって
廃墟の中を探索し始める。
次第に分かっていくのは
この廃墟の元の街の文明レベルは恐らく中世程度
であるということと、やはり夕暮れの空は
いつまで経っても、一切変わらないということだ。
さらに言うと、ピグナの悪魔パワーも
一切使えない。お手上げである。
数時間、何かヒントがないかと
廃墟の中や外を探索し続けて
疲れ果てて、夕食を食べようということになる。
本来の時間ならば、そろそろ夜に差し掛かるはずである。
ファイナの指から出す冥界の炎で
鍋を温めながら、料理を作り始める。
煙を吸収するための穴すら宙には出ないが
広い空間なので問題ないのだろう。
気にせずに二種類の味の料理を作り終えて
皆で食べはじめる。
「ヒントすらつかめんかったのう……」
「うーん、廃墟の中にも目ぼしいものはなかったね」
「どうしましょうか……」
「地面を私とファイナちゃんのパワーで
破壊してみたらどうかにゃ?」
「たぶん、ダメだね……即座に元の状態に
修復されるだけだと思う」
特に何の答えも出ずに、そのまま夕食を食べ終わって
俺たちはしばらく休憩をする。
夕陽を見上げながら考える。
閉鎖空間だとピグナは言った。
どうやら時間が止まっているようだ。
だが、俺たちは腹も空くし
ファイナは我慢していたらしい
トイレのために、先ほど近くの廃墟へと駆けこんでいった。
俺たちだけ時間が動いているのか……。
試しに近くの廃墟の瓦礫の欠片を
近くの壁に向けて投げつけて
しばらく様子を見ると、投げつけた石が
こちらへと飛んできて、元の落ちていた場所へと
戻った。ピグナの言う通りだ。
元の状態に修復されている。
「……」
何となく面白いので小石を遠くへと投げて
元の場所へ戻す遊びをしていると
ペップが寄ってきて
「元に戻るのかにゃ?」
興味津々に尋ねてきた。
「そうなんだよ。どうやらどこでもそうみたいで」
「ふむふむ。でもさっき戻らない場所
あったにゃ」
「そうなのか?」
「うん。みんなで、おっきな調理場の跡
通ったにゃ?そこの椅子を間違って
蹴り倒してしまったけど、倒れたままだったにゃ」
「……そこじゃないか?そこに何かあるんじゃ……」
皆に告げに行くと、即座に
その調理場跡に向かおうということになった。