徒労
螺旋階段を登った先にある
次の階は何もなかった。
そのままさらに十五階ほど上がり
一旦休憩する。出発してまだ三時間ほどだが
かなり疲れている。
軽食を食べて、そして再び出発する。
さらに延々と何もないフロアを
通り過ぎ続け、三十階ほど上がると
いい加減、昼食にしようということで
ファイナに冥界の炎を灯してもらって
鍋に火をかけて、野菜スープを作り始める。
「思ったよりスカスカじゃのう」
「めちゃくちゃ高いからね。
毎回色々と無くてむしろ助かったと、あたしは思ってるよ」
「上がればいいんだよな?」
「そのはずだね」
「だったらいいんですけどねぇ……」
いつの間にかバムが
調理している俺たちの
背後に立っていた。
全員でバッと振り返ると、いつもの格好のバムは
ニコッと笑って
「徒労に終わらないように気をつけてくださいね」
と言うと、スッと消えた。
「なっ、どういうことじゃ……」
ペップが両腕を組んで
「わかったにゃ、つまり、こういうことだにゃ」
真面目な顔で説明しようとし来たので
皆で注目すると
「バムちゃんはこういいたかったにゃ。
エッチばかり追い求めると疲れると……それで徒労……」
残りの四人でペップを見ないようにして集まって
「徒労って言ってたよな。無駄な苦労ってことだよな?」
「そうじゃよ。しかし徒労とは……」
「何かヒントをくれたんだと思いますわ!」
「だろうね。バムちゃん、節々であたしたちを
助けてくれてるし、罠じゃないと思いたい」
「そうかのぅ。むしろ信用させて、一気に裏切るというのも
作戦の常套手段じゃからな」
悩んだ顔の三人が、一斉に俺を見てくる。
決めろといいたいようだ。
少し考えてから
「信じよう。バムを信じて罠に嵌るなら
仕方ない気がする」
ピグナが頷いて
「次は、バムちゃんを信じるとして
その言葉の意味を考えないとね」
「徒労ですか……わたくしたち
直前に、上がる会話をしていましたわよね?」
「だな。ということはこのまま塔を
登り続けることが、無駄な苦労になるってことか?」
俺がそう言った瞬間、ピグナが自分の開いた口を
右手で抑えた。
「そっ、そうか……危ないところだった。
もしかして、さっきのあの悪魔……」
「悪魔って、下に居た悪魔だよな」
「うん、あいつ、料理の審査員なんかじゃなくて
挑戦者の戦闘力の計測係だったんだよ。
普通は、あたしたちみたいに強引に突破できないでしょ?」
俺も言いたい意味が分かってしまった。
「そ、そうか……あいつを強引に突破するくらい強いと
延々と何もない塔を登り続けるはめになるのか……」
確かにペップとファイナの二人は
魔術と武術の達人なので、総合的には
俺たちは相当な戦闘能力である。
「本当なら、恐ろしい仕組みじゃのう……」
ピグナは、険しい顔で床を見ながら
「無理難題を言うあの悪魔に
止められた挑戦者は考えるよね。
一体、あれはなんなのかと。ワールド料理カップを
突破するような猛者たちだから、あの理不尽さにも
何らかの意味を感じ取るはずだよ」
ペップがそっと俺たちの輪に入ってきて
「にゃあ、もしかして行くべきは下かにゃ?」
軽い調子で言ってくる。
ピグナは頷いた。
「そう、この塔は大穴から上に延々と伸びているんだよ。
天まで伸びる見た目に騙されずに
よくそれを思い出せば、下にも延々と伸びていると
分かるはずなんだ」
「そして入ってきた階には、下への階段が無い」
「それに続く手がかりを探せということじゃな」
ピグナは深く頷いた。
昼食が終わると、俺たちはいそいそと
階段を下へと降りていく。
数時間かけて、最初のフロアまで戻りきると
今度は、何もないその階の隅々まで探し始める。
「あったぞい!」
端の壁を探していたマクネルファーが
壁にうっすらと隠れていたボタンらしきものを
発見した。