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自虐風自慢とマクネルファーの疑問

暗雲と電が渦巻く塔を目指して、一日ひたすら進み続けて

夜になったので、岩場の陰にテントを張り、火を焚いて

夕食と共に、ズパーに食べさせる肉団子を作り始めるようとする。

食材は一応、ピグナが変装し近くの街から買い込んできた。

「無くなっちゃったからねー。仕方ないよ」

作るからには味を再現しようと

残った肉団子の一つを、まずはファイナがペロリと舐めて

その場に唾を吐き出して、ペップから自分用の水を貰う。


「わ、わたくしでは駄目ですわ……」

代わりに俺が舐めてみる。

「旨いわ……」

なんてことだ……家畜用のものが旨いとは……。

ペップやピグナも、そしてマクネルファーも恐る恐る舐めると

全員、同じ意見だった。

俺たちと同じ味覚ならば、作るのは容易い。

夕食ついでに、ササっと全員で作ってしまい

伏せているズパーに食べさせると、旨そうに咀嚼し始めた。


「あと十キロ切ったね」

夕食を食べ始めると

「そうだな」

「わたくし、ちょっと気になっているのですけど」

ファイナが真剣な顔で皆を見回す。

「追撃されていませんよね……」

ピグナも頷いて

「もう少し進んだら、みんなに言おうと思ってたんだけど……」

「なんじゃ?」


「ワールドイートタワー周辺に大量の帝国兵が配置されているよ」


マクネルファーが青くなって震えだして

「ま、マリーが……わしを探しているというのか……」

「さすがに日数経ってるから気づいてるのが普通じゃない?

 あたしたちと同行していると推測したら

 当然、先回りしてワールドイートタワーを張るよね」

「なっ、なななななんとかしてくれ……もう嫌じゃ……」

マクネルファーは頭を抱えはじめた。


ピグナがニヤリと笑いながら

「何をされたんだよー。ちょっと話してみてよー」

「聞きたいですわ!どんなロマンスを楽しまれたのですか?」

「エッチだったのかにゃ?違うよにゃ?」

マクネルファーはうな垂れながら

皇帝との二か月の日々を話し始めた。


「朝、宮殿のベッドで起きるとな……必ず

 マリーがわしの顔を見ているのじゃ……」

ファイナが羨ましそうに

「そ、それは……素晴らしいですわ」

「まだエッチではないにゃ……まだ焦る時間ではにゃい」

「それでな、起きた後の朝食はマリーがわしに

 スプーンで口まで運ぶのじゃ……わし、とっくに人生を折り返した

 ジジイじゃぞ?ありえんじゃろうが……」

「あらあらあら、まぁ……素晴らしい愛の光景ですわね」

ファイナは頬を赤らめている。

「皇帝の仕事はどうしてるにゃ?」

「そこから、わしの手を引いていって、執務室へと向かって

 わしが、本を読んだりお菓子を食べている間に

 午後までに終えてしまうのじゃ……」

「マリアンヌ帝は、超有能だからねー」

ピグナが頷きながら、スープを飲む。


「そして昼食じゃ……帝都の絶景を塔の特別室で見ながら

 マリーと隣り合って、いくら食べても太らぬ

 完璧にカロリーコントロールされた様々食事を食べさせられるのじゃ……」

自慢だよな。どう考えても自虐風自慢だな。

と思いながら、俺は黙って夕食を食べながら聞く。

「昼食が終わると、マリーと共に運動をするために

 宮殿の中庭へと連れて行かされてな……。

 そして健康のために様々なスポーツに興じるのじゃ……」

ファイナが興奮した顔で立ち上がって

「ご、ゴルダブル様!もうわたくしたちの帝国を

 建てましょう!そして、毎日同じことをするのです!」

ペップが

「うーむまだエッチではないにゃ。ギリギリセーフだにゃ」


マクネルファーは

「そして昼の三時になるとな……」

「何があるのですか!?」

「マリーと共に、お昼寝タイムになるのじゃ……。

 そして添い寝されたわしが眠ると、マリーは昼の仕事に出るのじゃ……」

「くぅぅ……理想的ですわね……されてみたい」

「夕方にわしが起きると、またマリーが

 わしの顔を見つめておってな……そして

 毎日やたら旨いフルコースの夕食を食べさせられるわけじゃ……」


「よ、夜はどうなの?」

ピグナが興味津々の顔で尋ねてきて

ペップがピクッと片耳を震わせる。

そして首を横に振った。まだ突っ込むべきところではないらしい。

「うむ……マリーは毎晩せがんでくるんじゃが……。

 わしは、枯れててなあ……それで……」

「それで?」「それで!?」

ファイナとピグナが両目を輝かせて聞いてくる。


「色んな薬草やら、薬やら興奮剤などを勧めてはくるのじゃが

 もう、そういうのは若いころ試し尽くして

 とっくに飽きておってなぁ……」

「エッチなのは……いや、まだだだにゃ……」

一度立ったペップはまた座った。


「それで、毎晩断るんじゃが、マリーは

 じゃあせめて隣で寝かせてくれと

 わしの身体をギュッと抱きしめて眠るんじゃよ……。

 わし、抱き枕じゃないんだがのぅ……」

ファイナとピグナは上気した顔に羨望の眼差しで

マクネルファーを見つめている。

ペップは首を横に振って

「エッチではないにゃ……片方が完全に枯れてるにゃ」

残念そうにテントへと入っていった。


いや、凄い自虐風自慢だったなと思いながら

食べ終わった食器を片付け始めると

「全部、わしの望みではないことじゃ……。

 わしは、実験だけをやりたい。

 味覚の妥協点を探らねば、このままでは

 死んでも死にきれぬのよ……」

「それはゴルダブル様が食王になって

 解決してくれますわ!」

「そうだよ!爺さんはそのまま

 皇帝の夫で良かったんだよ!」


「……本当に食王になれば、全て解決するんかな……」


マクネルファーはポツリと呟く。

ファイナとピグナは同時に

「当たり前ですわ!」「そうに決まってるよ!」

「うーむ、悪魔のピグナちゃんが言うなら

 そうなんかのう……」

マクネルファーはむりやり自分を

納得させているようだった。


ワールドイートタワー周辺に張っている

帝国の兵士の話はそのまま出ずに

俺たちは眠りについた。

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