南下
夜の森の中を進んでいく。
明かりは俺が持っているカンテラの光だけだ。
頭上の爆発と閃光はいつの間にか聞こえなくなった。
「ロボット捕まえられたのかにゃ?」
「落下音きこえとらんからそうじゃろうな……」
「みなさんご無事で良かったですわ」
「バムちゃんのお陰だけどね……」
ピグナは言い辛そうだ。
そのまま二時間ほどまっすくに数キロ南へと進んで
もういいだろうということで
荷物から……あ、そう言えば
「荷物をもって飛び降りた記憶ないんだけど」
今気づいた。
「バムちゃんが降ろしてきたんだろうね……」
「ピグナちゃん、何を凹んでるにゃ?」
「……目配りの仕方が凄いなぁと……」
ファイナが肩を叩いて
「気にしないでいいですわよ。
ピグナさんには、ピグナさんの良いところがありますから」
「ありがと……あたし、頑張らないと」
ピグナはそう言って一人でテントを組み立てようと
し始めたので、皆で慌てて手伝う。
そしてマクネルファーも居るので
当然のごとく全員はテントに入れずに
さらに当然のごとく、俺が外で寝袋で寝ることになった。
他は老人と女性なので、仕方ないが
いつもこれである。顔まで覆って
やぶ蚊の襲来と寝苦しさに耐えながら
何とか眠りにつく。
翌朝、ペップから起こされて
既に出来上がっていた朝食を皆と食べる。
「ゴルダブルだけ外だったからさ
あたしが皆に、朝食調理は免除してあげようと……」
ピグナが照れながら言ってきて
ファイナがすました顔で
「みーんなのアイデアですわ。ピグナさんだけじゃありませんことよ」
俺は苦笑いしつつ、みんなに感謝して
温かいスープと、麦飯を頂く。
朝食を食べて、荷物をまとめて
俺とペップが背負い、そして森の中を南へと歩き始める。
「これから百十数キロも歩くのかのぅ……」
マクネルファーはうな垂れている。
ピグナが首を横に振り
「どこかで列車に乗るよ。ただ、じいさんは
顔は隠しといてほしいけど」
「皇帝が血眼で探してるんじゃないかにゃ?」
「いや、でもそれだったら
俺たちも巻き込まれてると考えた方がよくないか?」
「……だとしたら列車ダメかもしれない……それどころか街も」
「あ、飛竜はどうですの?親子が乗せて行ってくれるのでは?」
「あたしたちの場所を見つけられるか……またしばらくかかるんじゃないかな……」
どうやら人目を避けながら歩くしかないらしい。
森を抜けると草原が広がっていたので
そこをまっすぐに南下していくと
テントが立ち並ぶ、行商たちのバザーのような
場所が見えてきた。
一応用心のために変装をして
売り買いの人々で賑わう、その中へと
皆で紛れ込んでいく。
屋台が大量に並んでいるが、もちろん食べ物は買わない。
このバザーを見つけた時点で俺たちの目的は、一致していた。
移動手段である。
ピグナが悪魔センサーで馬車や馬などを販売している
行商の場所へと俺たちを先導して
そして皆で良さげな、移動手段がないか
探し始める。
「馬なんてどうですの?」
「いや、この人数乗る馬車を引くなら
二~四頭くらいは必要だよ」
「一頭で、十分な馬力をもつ生き物か……」
探し回っていると、ペップが
「おーい、見つけたにゃー!」
と俺たちをある生き物の前へと連れていく。
そこには、紫色でワニの様な皮膚をした
カバみたいな巨体の生物が伏せて眠っていた。
体長は五メートルほどで、やたらでかい。
「こいつがいいにゃ!」
「……ズパーか……」
ピグナが渋い顔をする。
「だめにゃのか?」
「いや、ダメじゃないけどこいつは肉団子しか食べないんだよ」
「食糧費がかかるんだな」
「ここに肉団子も販売していると書かれていますわ。
全部買っていきましょう!」
ファイナがわくわくした顔で言う。欲しいらしい。
「……まあ、仕方ないかなぁ」
もみ手をしてくる商人に鉱石で代金を払い
さらに荷車を買って、ズパーに連結して
そしてそこにありったけの肉団子を買って乗せる。
準備が出来たので、俺たちはズパーや
連結されている荷車の上にそれぞれ乗って
バザーを出ていく。
ズパーに時折肉団子を食べさせながら、草原の中を南へと進んでいく。
背中に乗って揺られているとゆったりしていて眠りそうだが
明らかに人間の歩く速度よりは進行が速いので楽ではある。
「ふぁーあ……ねむいのぅ」
「もっと早く走れませんこと?」
「んーできないこともないけど、それには
肉団子に興奮剤とか入れないダメだね」
「ろくなことにならなそうだから、それはやめておこう」
そんなこんなで一日約二十キロほどのゆったりとした
速度でズパーに乗って南へと進んでいく。
山道や街を避けての進行なので
直線距離でいくよりも余計に時間がかかりながら
一週間ほどかけ、ようやくワールドイートタワーが見える
荒野へとたどり着いた。
天空へとどこまでも伸びていく塔の周辺には
どこまでも暗雲と稲妻が渦巻いている。
簡単には近づけなさそうである。
「あとどのくらいだにゃ?」
停止させたズパーの口に肉団子を放り込みながら
ペップが言う。
「三十キロくらいかな。早ければ二日で行けるよ」
「帝都での豪華な食事が恋しいのう……。
マリーとわし用に味も調整されていてな……」
「今更、帰りたがらないでよ……なんで
逃げて来たんだよ……」
「そうじゃな。わしもあの塔に登るぞい!」
「いや、じいさんそれはたぶん無理だにゃ。
じいさん用のキーはないにゃ」
「そ、そうなのか?では何のためにここまで……」
ピグナが仕方なさそうに
「……何か手を考えてみるよ」
「頼むぞい」
俺たちは荒野をズパーに乗って
さらに南へと進み始める。