捧食会
翌日にはペップは回復して
ピグナや、ファイナと共に
捧食会への献立を考え始める。
皇帝の味覚がこちら寄りというのは
確かな話らしいので、皇帝のために
普通の味の料理を練習しようということになった。
ワールドイートタワーの話もピグナにしたが
「まだ考えない方がいいよ。
とりあえず捧食会を無事に終えよう」
と言われたので、全員でそうすることに決めた。
ファイナは少し離れながら見守りつつ
時々、勇気を出して味見をして
トイレに駆け込んでいく。
やはり、この世界の人の味覚には
俺たちの料理はきついらしい。
戻ってきたファイナに
「ファイナちゃん、無理しないでいいにゃ。
お部屋で休むか、お出かけとかどうにゃ?」
ペップが心配して尋ねるが、ファイナは首を横に振り
「いえ、ゴルダブル様のこと、もっと知りたいのです」
「……ふむ。学術的探究心にゃね。
恋愛の臭いはかがなかったことにするにゃ」
なんとペップがエッチなのはいけないにゃ警察を
ひっこめた。本人的に微妙なラインが
あるのかなと思いながら、俺たちは料理作りを続ける。
さらに翌日には料理が決定して
そして、明日に迫った捧食会のために
本格的に練習を始める。
俺たちの調理力でも作れて
それなりに旨いものにした。
オムライスもホットケーキもカレーも
候補には上がったが、それは一応大会で
作ってしまったのでやめることにした。
俺とペップとピグナが作っている間に
ファイナが街を回って明日に使う
食材を買い出しに行ってくれて
非常に助かった。
そして捧食会当日の朝となった。
早起きして朝食を食べ、食材と調理器具をチェックしていると
ホテルマンが呼びに来る。
ロビーに迎えが来ているらしい。
四人で準備を完璧にして出ていく。
物腰の軟かそうなスーツを着た紳士が
俺たちを見るなり頭を下げてきて
「ご参加ありがとうございます。
運転手のババエルでございます。
これからご案内いたします」
と外へといざなっていく。
全員で大きめの蒸気自動車に乗り込んで
帝都のまだ人もまばらな大通りを進んでいく。
窓から外を眺めていると
「そういえば、捧食会の場所、貰った紙に書かれてなかったけど
今年はどこでやるの?」
とピグナが運転しているババエルに尋ねて
「今年は帝都郊外の皇帝陛下の別荘で開催されます」
「へーそうなのかー。じゃあ、あんまり
人呼ばないんだね」
「側近の方々と、そしてゴルダブル様たちで
今年は行うとのことです」
「よくわかったよ。ありがとう」
どんな状況だろうが、とりあえず
俺たちは料理を作るだけである。
捧食会さえ終われば、あとは
ワールドイートタワーへと向かうだけだ。
郊外の高めの山に作られた別荘への広い坂道を
蒸気機関車は力強く登っていく。
広大な庭園に囲まれた
四階建てのちょっとした城の様な
屋敷の玄関の前で自動車は止まり
俺たちは降ろされる。
屋敷の奥の中庭がよく見える食堂へと
メイドたちに案内された。
「こちらで捧食会が行われます。
今回、料理を食べられるのは陛下の他に、側近の方々十名です」
「あにゃ……陛下だけじゃないにゃ?」
「あ、これはいけませんわね」
「いや、二種類作ればいいだけだよ。
今まで普通にやってきたことだろ?
大したことじゃない」
俺の言葉に全員が頷いた。
ファイナを連れてずっと旅をして暮らしてきたので
二種類の味の料理を作ることは苦でもなんでもない。
何かここに来て、今までの苦労が活きてきている
ことが多くなったなと思いながら
メイドたちから、広い調理室へと案内される。
さっそく俺たちは、昼食に合わせて開かれる会に向けて
二種類の料理の仕込みなどの、準備をし始めた。
やがて昼前になり
メイドたちが
「そろそろお時間です」
と告げに来る。いよいよである。
確か、この場で何か結婚がどうこうとも
言っていた気がする。
まあ、それはともかく、俺たちは
料理を皿に盛りつけてトレイに乗せて
食堂へと四人で静かに向かっていく。