ストレス解消
しばらく唖然と立ち尽くした後に
俺はもうバムと会ったことから
ペップによく似た化け物が出てきたことまで全て
疲れによる幻覚だと思い込もうと決めた。
あんなのが現実なわけがないし
現実だとしても、俺にはどうすることもできない。
寝袋に入って目を閉じてしばらくは
先ほどのフラッシュバックに悩まされながらも
幻覚だ、こんな幻覚を放置していては
俺は本格的に狂ってしまう
どうしても寝なければと念じていると、ある瞬間に
スッと気持ちが軽くなって
そして眠ってしまう。
起きると、窓際のテーブル脇の椅子で
女子三人が何事も無かったかのように
朝食を食べていた。
「あ、ゴルダブル、起きたんだ」
「あのあと、パーティー会場に行ったら
いらっしゃらなくて、探したのですよ?」
ペップだけは何故か疲れた顔をして
朝日の差し込む窓を見つめている。
俺も寝袋から起きだして、朝食の輪に加わると
「おはよーにゃー……」
ペップは寝ぼけ眼をこすって挨拶してきた。
「ああ、おはよう。疲れてる?」
「なんかにゃー疲れてるんだよにゃー」
昨日のことが過るが、恐らく幻覚なので
考えないことにする。
「今日は褒美と共に、ワールドイートタワーへの
キーが届けられる日だよ」
ピグナがニッコリ笑って言ってくる。
「キーなのか?鍵?」
「うん。古代の特殊な技術で登録した本人にしか
使えないキーだね。昨日のパーティー会場で
透明な天使たちが、あたしたちの使ったコップを
採取していたよ」
「遺伝子情報とかを登録してるのか?」
「そのための祝勝会でもあるんだよ。
四本は届けられると思う」
「……キクカやクェルサマンは?」
「パーティー会場で会ったけど、満足してたにゃよ?
亡霊たちも優勝の瞬間にみんな昇天したらしいにゃ」
「モルズピックに帰ると言っていましたわ」
「クェルサマンもここまででしょ?
昨日パーティー会場で別れの挨拶されたけど?」
「どっちとも会わなかったわ……」
たまたまなのか、バムが遮っていたのかは分からない。
しかし、これで二人ともお別れなのか。
パーティーでバムと会った、アンジェラという
仮名を使っていたと言う話をすると
ピグナが眉間にしわを寄せて
「やっぱりバムちゃん帝国にも繋がりが深かったか。
ってことは……大神の可能性が高くなったなぁ……」
「ふ、二人きりで何かしませんでしたか?」
ファイナが恐る恐る尋ねてきて、笑いながら
「いや、話してたら酔いつぶれてたよ。
特に何もなかった」
ピグナとファイナは安どの表情を浮かべる。
ペップはふらふらと立ち上がり
「疲れが抜けないので寝るにゃ。
今日は一日放っといてほしいにゃ」
寝室へ去って行った。
昼前までホテルの部屋でゴロゴロしていると
扉が叩かれて、ホテルマンが
四つの封筒と、大きなブリーフケースを届けに来た。
受け取って、部屋の中で中身を確認すると
封筒の中には大きめの緑色の鍵が
俺たちのそれぞれの名前付きのタグと共に入っていて
ブリーフケースの中には札束と捧食会の日付が書かれた紙が入っていた。
「捧食会って、皇帝に優勝者が料理を食べさせる会だよ」
ピグナが紙を読みながら言ってくる。
「なんか献立考えないとな」
「三日後らしいですわ。まだ時間はありますわね」
しばらくはゆっくりできるらしい。
ブリーフケースの中身を見ながら
「案外、受け渡しはあっさりしてたな」
鉱石によって資金の心配は要らないので、札束を見ても心が躍らない。
ピグナは札束の数を数えて
「一億くらいだね。どうしようか、ホテルの窓から撒く?」
「ショッピングにいきませんこと?」
「そうしよっか。ゴルダブルも行く?」
「ああ、行こうか」
ブリーフケースから適当に札束をポケットに
入れられるだけ詰め込んで俺たちは街へと出る。
そこからはもう好き勝手色んなものを
買いまくった。宝石から時計から
食べ物以外の全てを気の赴くままに買って
昼前くらいまで、ストレス解消すると
それらをピグナの悪魔センサーで探した
帝都のいくつかの孤児院へと
均等に分けて、残さずに寄付してから帰ってきた。
「あーいいストレス解消でしたわ」
すっきりした顔でファイナが言い
ピグナが頷きながら
「なんか人間らしいことした気がする」
「そうなのか?」
こういうことをする人の方が希少な気がする。
俺も初めてである。
「まあ、ゴルダブルは乙女心を弄ぶ鬼畜だから
分かんないかもしれないけどねー」
「まっこと、本当にそうですわ!」
ファイナとピグナはお互いの顔を見て
頷き合っている。
「いや、いつでも俺は……」
と言いかけると、背後からさっきを感じて
すばやく振り返る。
背後では寝室の扉を少しだけ開けて
その隙間から具合の悪そうなペップが
こちらへと目を光らせていた。
怖い。具合が悪くても
エッチなのはいけないにゃ警察の仕事は
平常運転らしい。