やけ酒
翌朝、寝袋からモゾモゾと起きだして
寝室の様子を見行く。
女子三人は仲良くベッドで横たわって
スヤスヤと眠っていた。
起こさないように、そっと出て
朝食を窓際のテーブル脇の椅子に座り食べる。
昨日のことを思い出しながら
食べたり、服を着替えたり
洗面所で顔を洗ったりしつつ
一時間程すると、次々に女子たちが
起きてきた。
「お、おはようございます。昨日は……」
顔を真っ赤にするファイナに
「いや、忘れようよ」
と言って、荷物の整理などをして
「昨日はごめんね……」
謝ってくるピグナに
「気にすんな」
と一応フォローしてやり
「あにゃー何か知らんが、全身筋肉痛だにゃー湿布とかあるかにゃ?」
というペップに湿布を渡してやったりして
午後まで、ダラダラと過ごしていると
クェルサマンとキクカが部屋の扉を叩いて入ってきた。
「おはようございます」
「今日の夕方から帝都の宮殿で表彰を兼ねた
パーティーがあるのは聞いてるな。準備しろ」
キクカはそっけなくそう言ってくる。
クェルサマンが苦笑いしながら
「キクカさんは、招待客として出席します。
私もメルレンゲ侯国の従者として行きます」
「服とか買わないといけないにゃ?」
ペップが発言すると、ファイナとピグナが
ビクッと体を震わせた。
「どうしたにゃ?二人とも震えて」
夜中のことは覚えていないようだ。
ファイナたちはホッとした顔をする。
夕方までにパーティーに相応しい服を
皆で帝都に買いに出たり
キクカから宮殿で失礼のない
礼儀作法を習ったりしていると
瞬く間に時間が過ぎる。
パーティーへと向かおうというその時
キクカがピクリと空を見上げる。
「ああ、このタイミングか……
しょうがない、あたしが行ってくるよ」
「もしかして、竜が食べ物もらいに来たにゃ?
私も行くにゃ。堅苦しいパーティー苦手でにゃあ」
「では、わたくしは、ゴルダブル様と二人で……」
「あんたも来て!」「行くにゃ」
ファイナは残念そうな顔をして
二人に引っ張られて、親竜が降り立った
ホテルの屋上へと去って行く。
結局俺は、一人でパーティー会場へと
迎えの蒸気自動車で送迎されていく。
なんとなく不安だが、まあ、礼儀作法は
しっかり覚えたし、何より優勝者である。
モテモテだな。ペップも居ないし
ここはちょっと、色目を使ってくる女子を
引っ掛けるくらいは役得としてありだろう。
よーし!やる気になってきた。
宮殿内の中庭駐車場で停止した蒸気自動車の扉が
外から開けられて、意気込んで出ると
そこにはなんと、ドレスで着飾ったバムが待っていた。
髪型も何か長髪で艶やかである。
まるで貴族のようだ。と一瞬見惚れていると
「ゴルダブル様、皇帝陛下から案内役を承りました。
アンジェラと申します」
ウヤウヤしくバムは挨拶してくる。
「ば、バムなんでここに……」
バムはとぼけた顔で
「アンジェラでございますよ。まぁ、ご冗談が
お好きなんですね」
スッと俺の横に回って、腕を回し
他の華やかな客たちが歩いている宮中を
エスコートしていってくれる。
今度は小声で
「なんでここに居るんだよ」
と尋ねると、バムは微笑んで
通りがかった他の貴族たちに会釈しながら
「さあ?でも、一人よりは楽しいと思いませんか?」
「……」
とりあえず俺はバムのエスコートにより
煌々と豪華なシャンデリアが幾重にも照らす
明るく広い大広間までたどり着いた。
たどり着くなり、ヒラヒラのついた
貴族服で金色の髪をカールさせた
中年の男が近寄ってきて
「アンジェラ様、エスコートご苦労様です。
ゴルダブル様でございますね。お仲間は?」
「ああ、後から来ると思います」
「では、表彰式はお一人で受けていただきますね」
「……わかりました」
「では、会場案内を私が」
バムが微笑みながらそう言うと
「はい、お任せします」
男は他の客を見つけてそちらへと近づいていった。
会場の整理係みたいな人らしい。
バムは、会場中の嫌な色と臭いの料理の並ぶ
テーブルを眺めて
「食べられませんよね。お酒でも飲みますか?」
「飲める味のものはあるのかな?」
「ええ、厨房から安いものを貰ってきます。
会場を少し歩いていてください」
バムと離れて会場を見回ろうとすると
すぐに貴族らしき着飾った美しい女性たちに囲まれて
質問攻めにされる。
お、おおお……つ、ついに俺の人生に
本物のモテ期が……よ、選り取り見取りだこれ。
上目遣いで胸の谷間を強調してくる人もいる
女性たちの質問に答えていると
酒瓶を抱えたバムが早足で戻ってきて
「申し訳ありません。ゴルダブル様はお疲れです」
サッと俺を女性たちから遠ざける。
「お、おい……」
「……飲みましょう」
バムは何も言わずに会場隅に並んでいる椅子へと
俺を引っ張っていって座らせ、素早く
コップを渡してくる。
「……どうぞ」
注いでもらった酒を飲むと何とほんのり甘みと苦みが
溶け合っていて、旨い。
「なんだこれ……こんなの飲んだ事無いぞ」
「庶民が飲む安酒です。味覚が逆転しているので
価値のないお酒ですよ」
バムはそう言いながらグイっと飲み干した。
赤ら顔になったバムは
「あのですねーダメですよ?誰でもっていうのは」
「う、うん……」
「男なら、これという女一人を選ぶ。
これがかっこいいんです」
「……あの、もしかして早くも酔ってる?」
「そんなことはありません!」
そう言いながらもどう考えても
バムは酔っぱらっている。
そう言えば旅をしていた時にバムが
酒を飲んでいたところを見たことないな……。
それに何も胃に入れずに飲むと
酔いが回るのが早いのだ。
ちょっとでも飲んだことのある人間なら常識である。
もしかして、バムってアルコール初心者なんじゃ……。
俺はチビチビと飲みながら
「ゴルダブル様はもっと骨のある男だと
私は思ってるんです。ダメですよ!誰でもってのは」
男女関係について俺に説教をしながら、
次々に酒瓶から酒を注ぐバムを見つめる。
止めるべきだろうか……。
いや、ピグナによると神みたいな存在かもしれないと
いうことなので、何か深い考えがあるのかもしれないなと
放っておくと、そのままバムは
泥酔して酔いつぶれてしまった。
……なんだこれ……。
場末のバーの酔いつぶれたOLみたいな感じだ。
何度か目撃したことがある。
もしかして、やけ酒だったのか……?
などと思っていると
先ほどの貴族服の中年男が近寄ってきて
「表彰式が始まります。さあ、どうぞ」
と俺を大広間の奥へといざなっていく。