深夜の死闘
明日、本格的な表彰式があると審判員たちに
聞かされて、俺たちは
ホテルへと戻っていく。
身内だけで祝勝会をやろうかという
話にもなったが、やっぱり疲れているので
止めようということになり
ホテルのそれぞれの部屋に別れて
入り、そのまま女子たちは寝室へ
俺はいつも通り寝袋へと直行して寝た。
夜中、なんとなく人の気配を感じて
目を開けると、ファイナとピグナが
俺をのぞき込んでいた。
「どうしたの?」
へやの電気は点いていて
二人とも少し頬が赤くなっている。
「……わたくしたち、話し合って決めましたの」
慌てて寝袋から出ながら
「な、なにを……?」
「あのさ、ゴルダブルってあたしが
悪魔だから嫌なんでしょ?」
「……?」
「なので、わたくしが提案しました」
窓際のテーブル脇の椅子に座らせられて
その両隣を二人が囲んでくる。
「二人そろって、ゴルダブル様の愛人になりますわ」
ファイナが衝撃的なことを言ってくる。
「もー我慢できないんだよ。
この気持ちをゴルダブルに受け取ってもらいたいのに
今まで、上手くできなくて、それで
ファイナちゃんと話したら……」
「別に二人同時でもいいんじゃないかという
結論に至りましたわ」
「あ、あの……ペップは……」
恐る恐るペップが寝ているであろう寝室を見つめると
「ん。ファイナちゃんと合同で寝室に強固な封印魔方陣張って
その中に高密度魔力で厳重に封印してるから
朝までは出てこれないよ。さ、ゴルダブル……」
ピグナは真っ赤な顔をしながら俺の手を取った。
ファイナも反対側の手を取って
立ちあがらせて、寝室へと俺の身体を向ける。
ちょ、ちょっと待て、これって所謂
複数でってことか!?お、おい……それはさすがに
い、いや、待てピグナはともかくファイナが居るし
ピグナも今夜だけは悪魔だと忘れれば
もしかすると色々と捗るのでは……?
よ、よーしよしよしよし、俺も男である。
やってやろうじゃないか。
大会で優勝したご褒美だな。
完全に幸せな気分に浸って
三人で寝室へと入る。禁欲してきた俺にも
とうとう、幸せが巡ってきそうだ。
などと、上着から脱いでいく二人を幸せな顔で
見つめていると
隣の部屋から
「……いけないにゃ……」
と、ペップの声が聞こえてきて
三人でビクッと震えて、壁の方を見つめる。
しばらく見ていても、何も変化はなかったので
「たまたまみたいだね。よしっ、続きをやろう」
ピグナとファイナは、俺に同時に近寄ってきて
上着を脱がせようとしてきた。
ニヤニヤしながらされるがままにしているとまた
「……いけないにゃあ……」
という声が今度は天井からしてきて
三人で咄嗟に上を見る。
そこには、真っ白な天井しかなかった。
ホッと胸をなでおろして
「共同幻聴ってやつかな?みんな
ペップちゃんにやられてるからなぁ」
ピグナがそう言って、再び俺の上着に手をかけると
「エッチなのはいけないにゃのことかああああああ!!」
という物凄い雄たけびと共に
隣の寝室のこちらの間の厚い壁が破られる。
全身を虹色の闘気に包まれたペップが
無表情な顔でこちらを見て、口を開け
「エッチなのはいけにゃい心を持ちながら
隣室の激しいエッチの波動により目覚めた
ハイキャッターの戦士、ペップだにゃ」
何故か自己紹介をしてくる。
「くっ、魔法陣は完璧だったのに……ど、どうして」
「こ、こうなったら、魔界に封印を……」
高速で呪文を詠唱しはじめたファイナの背後に
ペップは残像を残して周りこみ
トンっと首筋をたたいて気絶させる。
「これで一人……」
「なっ、なんて力だ……」
ピグナは恐れおののきながらも
手元に棍棒を出現させて、迎撃の体勢を
取ろうとした瞬間に、ペップから瞬時に
目の前に詰められて、手元の棍棒をあっさり取り去られ
そして
「エッチなのは……いけないにゃ……二人目」
耳元に囁かれると同時に、首筋を叩かれて
気絶させられた。
俺は動けない。動けるはずがない。
ペップはゆっくりと俺の前まで近寄ってきて
「……貴様も……エッチにゃのか?」
無表情で言ってくる。怖いので
必死に首を横に振ると
「……エッチなのはいけないにゃ……いけにゃ……い」
といきなりペップは闘気を消して
その場に崩れ落ちた。
「お、おい……」
心配になって抱き起すと
どうやら寝てしまったらしい。
一体何なんだこれ……決勝戦の後だぞ。
と、とにかく三人を、ベッドに……。
床に伏せたピグナ達も含めてベッドに寝かせてから
壁の穴から隣の寝室を恐る恐る見つめると
鈍く発行する紫色の呪文で描かれた
円形で立体型の魔法陣の一部が
引きちぎられたようになっていた。
ペップはあれから脱出してきたのか……。
しかし、酷い目にあったな。
と思いながら寝直そうとリビングへと戻ると
腕を組んだバムが少し怒った顔で立っていた。
「……よう、久しぶり」
急な来訪だが悪い気はしない。俺はまた会えてうれしい。
「ちょっと話しませんか?」
俺たちは窓際のテーブル脇の椅子に並んで座る。
「まずは優勝おめでとうございます」
「ありがとう。大変だったよ」
「……」
そこからしばらく二人で無言の時間を過ごす。
バムが沈黙を破り
「……えっと、一言だけいいですか?」
「どうぞ」
「いま、欲望に負けてはだめです」
「もしかして、さっきの見てた?」
バムは頷いて、少し怒った顔で
「もう少しで、ワールドイートタワーに手が
届くところですよ?」
「う、うん……なんか、すいません」
「……私だって……」
と呟くと、バムは黙り込んでしまった。
「バムは味方なの?敵なの?」
「……さあ、どちらでしょうか。
とにかくおめでとうございます」
バムは軽く頭を下げると、そのまま消えた。
何だったんだろうか。まあいいか。
とにかく、寝袋に入って朝まで寝ることに俺はした。