快勝
主将挨拶では、相手の真っ白なコック帽を被った
白髭を生やした背筋の伸びた温和そうな老人が
手を差し出してきた。
握り返して、自チームの調理場所へと戻る。
今回は妨害に気を使わなくて良いので
気持ち的にはとても楽である。
とはいえ、一応キクカと透明になった
クェルサマンが警戒はしてくれている。
ファイナは今回も大事を取って欠場である。
料理への妨害が無いのはわかっているので
調理は今回は俺だけでなく
ペップ、ピグナと三人がかりだ。
三人で五種類ほどの不味いオムライスを作って
キクカに全て試食してもらい
そして一番できの悪い……いや、
この世界の味覚的にはできの良いものを
審判員に提出するつもりである。
一時間ほど妨害も無く
料理を続けて俺たちは三種類のオムライスを
とりあえず完成させた。
毒々しい色と、臭ってくるやばいフレーバーの混合物だ。
相手の様子を見ながら、ゆっくりと近寄ってきたキクカに
小分けにしたものを試食をしてもらうと
首を傾げて
「なんか、違う。もう少し頑張れ」
と元のポジションへと去って行った。
凹んでいる暇は無い。
即座に残りのオムライスの調理へと
取りかかる。
今度はできるだけ丁寧に
二種類のオムライスを不味く作り上げていく。
さらに一時間半後、見るも無残な
青い斑点が緑の下地についた
これは果たしてオムライスなのか？
という謎の料理と、ピグナがあえて火加減を
強くし過ぎて、裏側が黒く焦げて
真っ赤な香辛料と、黄色の臭いソースの
かかったこれも果たしてオムライスなのか？
という悍ましい何かが皿の上に二つ並べられた。
キクカがゆっくりと近寄ってきて
丁寧に小分けして片方を食べ、深く頷いて
もう片方も食べて、また深く頷いた。
そして次の瞬間には、テーブルの金属製のボウルの中に
その二つの皿に乗った何かを
ぶち込んで、そして料理箸でかき混ぜ始めた。
「お、おい……」
キクカはかき混ぜながら冷静に
「いいか……人には人、神には神、鬼には鬼
そして悪霊には悪霊をぶつけるんだよ。
これ、万物のセオリー」
「う、うん？」
「つまり、混沌には混沌を混ぜ込むと
さらに熟成して良いということだ」
「何を言ってるのかわからんが
もうキクカに任せるわ」
ペップとピグナも頷いた。
キクカは何と十五分もオムライスもどきを
ぐちゃぐちゃと混ぜ込んで
灰色の何かよく分からないものを作りだし
そして右手を高く上げて、審判員たちを呼ぶ。
俺たちからスプーンを渡された三人の
審判員たちは、ボウルの中の灰色の物体を
すくって食べると、悶絶して
手足をジタバタさせだした。
や、やばい……これはとうとう失格か。
とビビっていると
審判員たちは涙でグチャグチャになった顔で
俺たち全員の両肩を叩いて
そして去って行った。
「……」
しばらく唖然としていると、キクカが
「勝ったな」
と呟いた。
審査を待つ間に一度控室に戻る。
汗をかいたクェルサマンが姿を現して
「相手からの攻撃は一切ありませんでしたよ」
「ゴルダブルたち、なんだかんだ言って
料理を作って勝ってきた積み上げがある。
それが活きたな」
キクカが褒めてくる。
明るい雰囲気で、皆でねぎらい合っていると
審判員たちがニコニコしながら入ってきて
競技場へ来るように促してきた。
そしてあっさりと審判員は
俺の手を掲げて
「チームゴルダブルの勝利！」
と競技場中に響く声で宣言し
大歓声に包まれ、俺たちは準決勝を突破した。
あまりにすんなりと進んだので
夢でも見ているのかと
頬を軽くつねってみるが痛い。現実の様である。
「次は決勝ですね」
クェルサマンが汗を拭きながら言ってきてピグナが
「早かったなあー。でもキクカちゃん入ってくれて
良かったよ。ほんとに」
「気にするな。亡霊たちのためだ。
きっと優勝すれば彼らも気が晴れるだろう」
「そう言えば亡霊を使う暇なかったけど今回はどこに居たんだ？」
「観客席から観戦させてた。今は全員後ろについてきている」
「そ、そうなのか……」
気付かないうちに背後に居たらしい。
そこから俺たちはホテルへと戻って
それぞれの部屋へと帰る。
宿泊室で休んでいたファイナに勝ったことを報告すると
「決勝にはぜひご一緒させてくださいね！」
と言ってきた。その後、あまりに快勝過ぎて
体力や、やる気に余裕がある俺たちは
結局、夜更かしして、カードゲームや
雑談などに勤しんでしまい、
寝たのは明け方だった。
ちなみに男女のハプニング的なことは
一切起きなかった、ペップが最後まで
目を光らせていたからだ。
朝の光を見ながら俺は寝袋で
悶々として寝ることになる。
いつものパターンだが、慣れないものは慣れない……。
