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五回戦での告白

競技場の控室へと行って

試合開始を全員で作戦の打ち合わせや

器具の点検などをしながら待つ。

キクカがとにかくよく動いてくれて

器具の点検はあっさりと終わった。


審判員が呼びに来て

いよいよ五回戦の開始である。

もう観客の歓声にも慣れた。

主将の挨拶で俺が一人中心へと出ると


そこにはウサミミを生やし

ぽっちゃりとした体に黄色の戦隊もののスーツを着た

中年手前くらいの丸坊主の男が立っていた。

なんかイメージと違うな……。

もっとこう、ペップみたいに

どっちかと言えばかわいい女子を想像していた。

しかも主将は赤じゃないんかい。

戦隊もののリーダーは赤だろう……。

相手チームの窯の前では

腕を組んだ色とりどりの四人組がこちらを見つめている。


手を伸ばして握手を交わすと

「がんばろうっ!」

低めの声でいきなり挨拶される。

「ええ……がんばりましょう」

そうとりあえず返して、にこやかに

その場をやり切った。


こっちのチームの調理器具が

ある場所へと戻ると

変装したキクカが駆け寄ってきて

俺の両肩に即座に塩を撒き

何か呪文のようなものを唱える。


「よし、祓った。呪法が多重にかかってた。

 あの黄色、手慣れてる」

「ほんとに……?」

「うん。気を抜くとやばいぞ。

 作戦変更して、私が一気に潰すか?」

「いや、作戦通りで行こう」

キクカの力は守るために使うと決めてある。


俺は即座に調理を始める。

今回は防御役はクェルサマンとキクカである。

調理助手はピグナだ。

今回の料理はあえて鍋の下に

油を敷かないで造るカレーだ。

そうするとどうなるか、俺は知らなかったが

一度造ってみて驚いた。


カレーが出来上がるころに

下で焼けて真黒にこびりついた具材が

上へと上がってきて、カレー全体を真黒にして

全てを台無しにするのである。

味も最悪だが、教えてくれたキクカによるとこれが

この世界の人たちには極上の味らしい。


できるだけ腐りかけた野菜を使って

火にかけた鍋の中でカレーを作っていく。

その間にもキクカが透明な亡霊たちに

「お前、ここだ。お前はここな。

 今日はディフェンスだ。いいか。

 気合入れて守れば天国も近いぞ」

と指示を与えている。

クェルサマンは消えたまま、様子を見ているようだ。


そんなこんなで

向こうからの妨害も無く

順調に具材を煮込む所まできた。

ピグナがボソッと

「あのさ……最近、ちょっと思うんだけど」

「うん。どうした?」

「あたし……必要?」

噴き出してしまう。最近少し影が薄いと思っていたら

弱気になっていたらしい。


ピグナは顔を真っ赤にして鍋の火加減を見ながら

「笑わないでよ……」

「いや、人間みたいなこと考えるんだなって」

「でもやっぱり考えちゃうよ……クェルサマンと

 キクカって優秀でしょ。あたしが

 居なくてもゴルダブルはもう大丈夫なんじゃないかって」

恋愛漫画みたいなベタなセリフ吐くんだな。

と思いながら、真面目な顔で

「お前は帰りたいのか?」

「いや、そうじゃないけど……」

「じゃあ、居たらいいんじゃないか。

 ピグナが俺たちを助けた場面も沢山あっただろ?」

ピグナは耳まで真っ赤にして頷いた。


とにかくひたすら料理をし続けて

不味いカレー粉とスパイス各種をぶち込んで

鍋の底からかき混ぜると

下から焦げた灰が浮かんできて

鍋中が真黒になる。出来上がりである。

凄い、妨害が一切なかった。

まるで普通の料理大会のようだ。


俺は手を挙げて

審判員たちに試食をしてもらう。

全員悶絶して旨がっていた。

俺は食べる気は起きないが、喜んでくれたなら

良かったなと思いながら

ようやく余裕が出来たので

相手チームを見ると、何か全員が

慌てふためきながら必死に料理をしている。


キクカが近寄ってきて

「作戦通りにいかなそうだったから

 ノルノルに言って、相手の神を名乗る七体の亡霊たち

 全員成仏して貰った」

「……それ、大丈夫なのか」

「うむ。あの五人には一切手出ししていない」

「それで今さら必死に料理をしているのか」

「妨害に拘って、料理舐めてたツケが来た」

ピグナは何故かため息を吐いて

「もうやめようかなぁ……また自信なくなってきちゃった……」

などといきなりヘラりだした。


またか……と思いながら、一応慰めようとすると

キクカが近寄っていき

パァァァン!とピグナの頬を思いっきり叩いた。

「いった!なっ、なんだよ……」

キクカを睨んだピグナに

「想いを告げろ。中途半端だから苦しむのだ」

と言うと、颯爽と器具の片づけを始めた。

ピグナは意を決した顔で


「ゴルダブル、好きです。付き合ってください!」

と俺に言ってきて

俺は混乱の大波の中に一気に飲み込まれる。

あっ、悪魔から中学生みたいな告白された……。

こんなの一発で拒否するに決まって……。

い、いやまだ試合中だ。まだダメだ。

ここは一旦、置いといて

後日に……。


頭をフル回転させて考えていると

いきなりピグナが気絶して倒れる。

透明なクェルサマンが冷静な口調で

「まだ試合中ですからね。あとでやってください。

 向こうのチームの審査が始まりますよ」

と近くから声をかけてきた。寝かせてくれたらしい。


向こうのチームの様子を眺めていると

ウサギ戦隊の作った料理を食べた審査員たちが

その場で盛大に吐き出して

審判員に毒を盛ったということで、即座に退場になっていく。

いや、ここまで勝ち上がってきたんだから

審査員を納得させる料理位つくれるだろ……。

唖然としていると

「料理も守護神頼みだったのでしょう。

 妨害ばかりに秀でていても、どうしようもないですよ」

クェルサマンがため息を吐いた。


なんかもうよくわからんが

とにかく俺たちは勝った。

あと二勝で、いよいよ優勝である。

こちらへと駆け付けてきた審判員たちから

右手を高く掲げられながら、

ホッと一息つく。

ピグナの告白のことは忘れることにしよう。

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