質の悪いぽっと出の新人
翌日から五回戦への特訓が始まった。
ファイナはまだ静養が必要なので無理だが
キクカと回復したピグナ
そして、出場できないが手伝いたいと言ってきたペップも入れて
首都の中央公園で、練習をしていると
瞬く間に人だかりに囲まれた。
いよいよ俺たちも
勝ち進んだことで有名人になったんだなと
これから大変だな、思っていると
キクカに一斉に人々は寄っていき
サイン攻めにし始める。
どうやら練習の時点で変装が必要なほど
知名度が高いようだ。
どうやら他の俺たちは人気はまったくないらしい。
ある意味助かったと、気持ちを切り替える。
ある程度人だかりが減ったのを
見計らって、クェルサマンとピグナの案内で
今度は街はずれの廃倉庫で、練習を始めることにした。
天井が崩れ落ちていて
青空と光がそこから差してくる明るい倉庫の中で
次回戦に向けてのフォーメーションと
作戦内容を詰めていく。
五回戦に勝てれば、いよいよ準決勝なので
後三勝で優勝まで手が届くのである。
競技場で観衆が居る様子を
再現しようと、キクカが練習している俺たちの周囲に
数百体の透明な亡霊を呼び出してグルっと囲ませた
俺たちにはまったく見えないが、雰囲気がもう凄い。
あらゆる角度から視線を感じる。
若干ビビりつつも、程よい緊張感が生まれたので
気合を入れて練習を続けて
そして午後からホテルに帰ってからは
調理場の一角を借りて
全員から色々とアドバイスを貰いながら
俺の不味い料理を作る特訓である。
今まで何年も一人で、大会を勝ち抜いてきた
キクカの意見はかなり貴重だった。
不味い料理の特訓ついでに
そろそろ竜が食料を取りに来るはずなので
子竜のための食料も皆で大量に作っていると
キクカとクェルサマンとピグナが
同時に上を見て
「来た」「来ましたね」「来たよ」
と言って、三人で手分けして作っていた食料を
ホテルの屋上へ持って行った。
その後食事休憩などもはさみながら
深夜までペップに見守られて
不味い料理を作り続けた。
三人は深夜まで帰ってこなかったので
恐らく俺の代わりに、食料を届けに行ったんだろう。
半日の不味い料理特訓の後に
疲れ果てて宿泊室へと帰って
そのまま寝袋に入って
俺は眠り込んでしまう。
その翌日もそんな調子で
午前午後に分けて特訓を続けて
そしていよいよ、五回戦当日がやってきた。
ウサギ戦隊への対策は万全である。
七人の神への対処も
キクカを交えてやるつもりだ。
急遽メンバー登録を済ませて
黒装束と黒頭巾にサングラスで変装したキクカと、ピグナ
そして俺、さらには透明になってサポートしてくれる
俺たちの加護存在役のクェルサマンの四人で
競技場へと向かう。
ファイナは静養を続けて、ペップはその面倒を
今日は見ることになった。
「それ疑われないかな?」
如何にも怪しい恰好をしたキクカに尋ねると
「悪いが、ゴルダブルたちのチーム人気ゼロだ。
反則すれすれというか、反則を上手く使って
無理やり勝ちあがっている
質の悪いぽっと出の素人チームだと思われている。
一人くらい黒ずくめの新人が入っても気づかれない。
難癖はつけられるかもしれないが」
「やっぱり人気なかったのか……」
公園での俺たちへのスルーっぷりは
おかしいと思っていた。
しかし質の悪いぽっと出の新人か……。
いや、何か悪い気はしない。
実際は俺たちより、今まで戦ったチームの方が
遥かに悪質だった。
実質料理大会という名の殴り合いである。
もはや武闘大会と言ってもいい。
審判に気付かれずに、如何に守護者の力や
格闘術の能力を使って
相手を潰すかというのがこのワールド料理カップの本質である。
今のところ、相手からの攻撃をすべて防いで
純粋に料理の力で勝っている俺たちだけが
唯一、まともに大会参加しているともいえる。
しかし、観客の見方は逆のようだ。
面白いな。そうか、質の悪いぽっと出の新人か。
ニヤニヤしていると
競技場が見えてきた。いよいよ五回戦だ。