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キクカ

その日は、とりあえず皆で

風呂にでも入りに行こうということになって

俺は小さめに混浴の風呂屋があるというので

そこがいいと主張したのだが

即座にペップから却下された。


結局、クェルサマンと共に男風呂に

浸かることになる。

「あー気持ちが良いですなぁ。肉の身体も

 やはり悪くはありません」

隣のクェルサマンがお湯に顔を上気させながら

言ってくる。


周りに人が居ないので

「天使なんですよね?普通は身体とか無いんですか?」

「んー難しいですね。今日使った冥界の果物の様に

 こちらへと具現化すると、物質として存在することに

 なると言った感じですか。まあ上級者になると

 使い分けるのですが」

「つまり天使なので天国?では身体は無いんですか?」

「向こうでも一応ありますが、この様な

 肉の身体とは違うのですよ」

「そうなんですか……」


風呂からあがり脱衣場からから出ると、

ロビーで女子たちが全員待っていて

「ちょっと買い物でもいってくるにゃ」

「俺は先に帰るよ」

「私も侯国関連の仕事があるので」

男女で別れた。

クェルサマンと人通りがまだ激しい

夕焼けに染まるの道を歩いていく。


「やはり、楽しいですな」

「何がですか?」

「こうして、人と共に歩むことがです」

「……正直なところ、俺たち優勝できると思いますか?」

クェルサマンはツルツルと頭を撫でながら

「願って、努力しなければ何事も叶いませんよ。

 きっとできると信じてみてください」

と優しげに言ってくる。


クェルサマンと別れてホテルの部屋へと戻ると

何故か、キクカが

窓際のテーブルで優雅にお茶を飲んでいた。

「飲むか?」

と言ってきたので丁重に断りつつ

荷物の中から作り置きを取り出して

同じテーブルで食べ始めると


「そうか……思っていた通りだ、反動で

 お前が送り込まれたのだな」

テーブルに並べたおにぎりを一つ、手に取って

止める間も無く、自分の口に放り込む。

「ふふ、百年前の味だ。懐かしい」


俺たち用の食料を

何の躊躇も無く食べるキクカに

「食べられるのか?」

と尋ねると、コクリと頷いた。

「どちらもいける。今の廃棄物のような味も

 過去の食物の味も悪くはない」

「体壊さない?」

「私は、普通の人とは違うからな」

とキクカは立ちあがり、縫合跡だらけの

継ぎはぎの腹を見せてくる。


「どっ、どういう……」

「今、説明するまでも無いだろう」

キクカはまた座って、優雅に紅茶を飲み始めた。

話しかけづれぇ……。

ドギマギしながら俺が夕食を食べ終わると

「中々悪くないな……」

と呟いて、スタスタと部屋から出ていった。


何が悪くないんだよ……そもそも

何でホテルの俺らの部屋に

勝手に入れたんだ。

大丈夫なのか、あいつを仲間にして……。

などと半ば混乱しかかっていると

女子たちが帰ってきて、

街で何があったとか、買い物が楽しかったとか

そろそろ疲れたとか喋りだして

その気持ちは有耶無耶になった。


その夜、ペップとは寝られないので

リビングの床に寝袋で寝ていると

何かから覗き込まれた気配で目を覚ます。

俺の目の前には何と、クェルサマンと

王冠を被って、まるで王様が着るような

煌びやかな貴族服を纏い、そして赤いマントを羽織った

肉も皮も無い、骨格標本みたいな骸骨が居た。


「あ、すいません。起こしましたか」

クェルサマンがにこやかに言ってきて

隣の骸骨がカチカチと歯を鳴らしながら

「かかかかか……試合では驚かせてすまんなぁ。

 怪我をさせんように、これでも気をつこうたんや。

 許してーな」

いきなり謝ってくる。


「だっ、誰?」

「ああ、死神長さんです。キクカさんと

 仲良くして欲しいと頼みに来られたので

 お部屋へと通しました。ご迷惑でしたか?」

「い、いや、それはいいんですけど……?」

「夜分に申し訳ない。わしら、夜中が仕事時間なんや。

 魂は満月に照らされて夜空へと昇る。

 別に昼でもええんやけど、まあ死神の美学やな」

「えっ、えっと、キクカを守護している死神長の方ですか?」

控室で説明を聞いたときは、大神だとピグナは震えていた。

なんかイメージと違うが。


「バ……いや、今はちごうたな。

 クェルサマンちゃんとは

 昔馴染みでなぁ。実は仲いいんやわ」

「すいません。試合に私情を持ち込んでは

 ならないと黙っていました」

クェルサマンが頭を下げてくる。

「そ、そうなんですか?」

「はい。とにかく、これでもうご挨拶は良いですよね?」

死神長はケタケタと笑ってから

「ああ、充分やな。とにかく、あの子

 人付き合い苦手でなぁ。頼むわぁ」

そう言って、俺に骨だけの両手を合わせて

拝むように頭を下げると、スッと消えた。

クェルサマンは苦笑いしながら

「では、ごゆっくりお休みください」

と普通に、扉から出ていった。


「……」

寝られるかあああああああああああああああ!!!!!

寝袋から飛び起きて、とりあえず

部屋の鍵を閉める。

いっ、一体何なんだ。キクカと関わってから

ここ数時間で、何かがおかしい。

窓際のテーブルの椅子に座り

悶々と寝られない夜を過ごす。

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