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提案の結果

ファイナの提案を聞いた俺はしばらく

考え込んでしまう。

「それ、審判員は無事で済むのか?」

クェルサマンが微妙な顔で

「まあ、九割大丈夫です。

 消化されて血肉になる前に、消えるはずですから」


ピグナは少し辛そうに

「まあ、仕方ないね。

 たぶん、それしかないと思う。

 やらない方が良いとは思うけど」

「冥界法違反にもならないと思います」

「ギリギリだね。キクカの守護神の死神長が変な裁定下さないことを

 願うよ」

「……やっていいんだな?」

二人に尋ねると頷いたので

さっそくファイナに控室に小さな魔法陣を描いてもらい

俺たちはあるものを召喚して

それを俺とピグナのポケットにできるかぎり

詰め込み、新しい作戦を

すばやく打ち合わせながら

そして魔法陣を跡形も無く消した。


審判員が試合再開を告げに来たので

競技場へと全員で戻る。

窯も器具も新しいものに変えられていて

元の状態に戻っている。


ペップとファイナには元の様に

魔法陣と、俺たちの周囲の警戒を頼んで

そして俺とピグナは調理器具へ

近寄ったが、近くに突っ立っているだけで

一切料理を放棄した。


最初はファイナの造った境界線付近の

透明な魔法壁に、透明な亡者の群れぶつかる音がしていたが

次第にそれも止んで、静かになった。

相手側も俺たちが、何かおかしいことに気付いたらしい。

向こうではキクカが料理の腕を止めて

ジッとこちらを見つめている。


これも作戦のうちである。

そのまま俺とピグナは防御手段だけは確保して

制限時間の五分前まで、一切動かなかった。

途中で魔法力を使い切ったファイナが倒れて、医務室に搬送されたが

魔法壁も消えたが、相手も俺たちの出方を

見ていたらしく攻撃はされなかった。


終了五分前に、ペップが

「よし!いいにゃ!」

腰を低く落として相手側に構える。

俺とピグナは、ポケットの中から

大きな木の実や小さな果実を十個ほど出して

包丁で皮を必死に向き始めた。


どうやら俺たちの作戦に気付いたらしい

キクカがこちらを見つめて

指さしてくる。同時に構えていた

ペップが見えない大量の亡者の群れに

「はぁぁぁぁあぁぁ!!!!!ハイキャッター拳奥義!

 セイントスターアロー!!」

と激しく叫んで、ど派手な黄金の闘気弾を打ち込み

即座に失格になって

審判団から両腕を抱えられて連れていかれる。


計算通りだ。俺たちは剥き終えた果実などを

すばやくスライスしていると

いきなり辺りの空気がかまいたちとなって

俺たちの手元の果物だけへと正確に襲いかかった。

しかし、果物はまったくの無傷である。

風圧に揺らぐことすらない。


そうなのだ。

この特殊な果物や木の実は、ある場所で育ったもので

魔法の類で傷つくことは無い。

もちろん魔法力で増幅された炎で

燃やされることもない。

不味いトッピングを全力で果物や木の実に振りかけまくり

そして制限時間終了の笛を聞いた。


審判員たちが駆け寄ってきて

俺たちの皿に盛られた料理を

試食し始める。

「うっ……」

審判員の一人が呻いて、一瞬心配になるが

「……ますぎる」

つまり旨すぎると言いたかっただけらしい。

胸を撫でおろした。


審判員たちは、審査の時間も設けずに

即座に俺たちにその場で勝利が告げられた。

圧勝だったようだ。

負けを告げられたキクカが不満気に走り寄ってきて

そして皿の上にある即席料理を見て

息をのんだ顔をする。

「……考えてもやらないぞそれ。アホだな」

彼女はそれだけ言って立ち去って行った。


何とか勝つには勝ったが

満身創痍である。ペップは武術技の不正使用で

一試合の出場停止を言いつけられて

ファイナは、得意でない魔法を

使用し続けた後遺症で五、六日は動け無さそうだ。


寝入っているファイナを俺が背負って

夕暮れの競技場を出ていく。

もう次の試合が始まっていて、観客たちは

そちらに大歓声を上げている。


「冥界の食べ物なんて食べて

 ほんとに大丈夫かな……」

そうなのである。ファイナの提案は

冥界の植物ならば

魔法の影響を受けないと聞いたことがあるので

それらの果物や木の実だけを召喚して

料理をしてみたらどうか

ということだった。


「見た感じ大丈夫だったよ。

 ルールで禁止もされてないし。いいでしょ?」

ピグナはニッコリ笑って微笑んだ。

毛の無い頭をハンカチで拭いながらクェルサマンが

「しかし、二人の欠員は痛いですね」

「ごめんにゃ……派手にやりすぎたにゃ」

ペップはうな垂れる。

「いやあれが無かったら多分

 やられてたよ。二人が出られないことの対策は

 ホテルに帰ってから立てよう」

ピグナがそう励ました。


ホテルへと帰り、ロビーへと入ると

何故かキクカがロビーのソファに座って

待っていた。近寄ってきて

「話ある。ちょっとお前らの部屋に案内しろ」

と言ってきた。

お礼参りとかだったら嫌だなと全員でビビりつつ

丁重に宿泊室へと連れて行くと


「お前らのせいで、連れてきた亡霊たちがまだ

 成仏していない。責任を取ってもらう」

「せ、責任って?」

「私もお前らのチームに加えろ」

「そ、それはルール違反なのでは?」

俺がそう言うと、クェルサマンが首を横に振って

「この方は特例で、無理が効きます。

 何せ、ワールド料理カップの

 大スポンサーの一人ですので」

「そ、そうなのか?」

「ああ、もちろん公的には秘密だが

 そいつは天使だから分かったんだろう?

 つまり、多少は無理が効く。もちろん偽名と偽装はする」


ピグナやクェルサマンと顔を見合わせて

どうするか眼で確認し合っていると

ファイナを寝室で寝かせたペップが戻ってきて

「あんた、私たちの目標は優勝だにゃ。

 そこまで付き合う気はあるんかにゃ?」

と尋ねるとキクカは

「入れてくれるのならば

 付き合っても良い。どうするんだ?」

ソファにふんぞり返って逆に尋ねてくる。


ペップも何故か偉そうな態度になり

「あんた、うちのチームに興味が沸いたんだにゃ?

 正直に言ったらどうにゃのかにゃ?」

ビシッとキクカを指さす。

「……当たらずとも遠からずだ。

 とにかく入れてくれると助かる」

態度を少し軟化させてきたキクカにピグナが

「いいよ。ゴルダブルもいいよね?」

と決めてしまう。

仕方なく頷くと、キクカは無表情で

立ちあがって頭を深く下げて

「ここの宿泊室とってくる」

出ていった。

仲間になったらしい。

大丈夫なんだろうか……。

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