難敵
火加減も丁度良い感じで
ジワジワとパン粉も卵も付けていない
海老もどきを揚げていると
いきなりフライパンの下の火が
凄まじい勢いで燃え盛り、天まで届くような
大きな火柱がフライパンの根元から立って
そして、一瞬でフライパンと料理ごと
俺の手元にある者すべてが消し炭になった。
「……」
いや、俺が火傷しない体質じゃなかったら
一緒にこれ死んでたよな……。
唖然としていると、審判が笛を吹きながら
こちらへと走ってくる。
しばらく魔法の不正使用じゃないかと詰問されて
違うと、何が原因かは分からないが
器具の火が暴走して、俺も危うく死ぬところだったと
上半身の服が全て黒焦げになって
剥げている自分の上半身を指さしながら
必死に弁解していると、何とか認められて
審判は走って去って行った。
危なかった。一瞬で失格になりそうだった。
やばいな。と思っていると
俺たちのチームと向こうのチームの居場所の
半分辺りで、何か大量にと衝突し始める音がしだす。
そちらの方を見ようとすると
「料理に集中してください。どうやら見えない亡者の群れが
ファイナさんの張ってくれた透明な魔法壁に
一気に突進し始めたようです」
クェルサマンの声が教えてくる。
黙って小さく頷いて、とにかく
不味い飯だけでも作り終えようと
窯から取りあげようとすると
窯の下部から炎が噴射されてきて
俺の服から手元の飯盒から
全てが灰になってしまった。
「お、おう……」
相手は本気らしい。
本気で潰しに来ているようだ。
再び審判が笛を鳴らしながら駆け寄ってきて
今度は何か言われる前に俺が逆ギレして
何なんだこの設備はと文句を捲し立てると
そこで一旦試合は中断となった。
控室へと全員で戻る。相当な難敵だった。
「ふぃー何とか侵入はされなかったにゃ」
競技場内では目を閉じて俺の近くでずっと構えていたペップが
控室のベンチで汗をぬぐう。
ファイナは消耗が激しいらしく他のベンチに
横たわりクェルサマンから介抱されている。
ピグナは……あれピグナは……。
控室内を探し回ると
部屋の隅で膝を抱えて震えていた。
「どうしたんだ?」
「ごっ、ごめん……怖くてたまらない。
死神長の魔力すっ、すごい……」
「……あの炎は、それがやったのか?」
ピグナは黙って頷く。
ファイナの介抱を終えたクェルサマンが近寄ってきて
「あきらかに、ゴルダブルさんではなく
その周辺の調理器具や、設備を狙ってきてますね。
全力で魔法を使っても、ゴルダブルさんが負傷しないと
知った上でしょう」
「悪質だな……」
「いや、善意だよ」
ピグナの言葉に首を傾げていると、クェルサマンが頷いて
「そうですね。こちらに手間をかけさせずに
負けさせようとする、大神の御慈悲でしょう」
「……何かムカつくな」
慈悲になってない。
象が蟻をさっさと踏み潰そうとする感じだ。
「とにかく、器具や設備を今後も狙いつつ
透明な亡霊の大群で詰めてくるはずなので
作戦の立て直しをしないと」
ピグナがフラフラと立ちあがって
「クェルサマンさんは、ファイナちゃんの介護をして。
あたしが、ゴルダブルと作戦を考える」
クェルサマンは頷いて、ペップも誘って
ファイナの介抱を再び始めた。
「どうするんだ?設備まで灰にされたら
何もできないぞ?」
「ゴルダブル、ここはもう
プライドを捨てよう」
「……プライド?」
「まともな味覚の人基準で料理をするから
いけないんだよ」
「つまり小石とかをまた入れろと……」
ピグナは頷いた。
「終了間際に、芝生を引き抜いて皿に雑に乗せて
その上にトッピングを雑に垂らして
灰でもかけてれば多分勝てるよ」
「いや、それは勝てるとしてもやらない。
ちゃんと料理対決をしている形で勝ち進みたいんだ」
ゴミを審判員に食べさせるわけにはいかない。
それはバムとやらないと決めた。
ピグナはしばらく黙って
「……バムちゃんとの約束?」
「そう言うことになると思う」
ピグナは苦しそうな顔で
「それは忘れられない?」
「最初の大会でやって、凄く嫌な気持ちになったからな。
約束だからしたくないってわけじゃない」
「……分かった。じゃあゴルダブルのために
それはやらないよ」
ピグナは理解した顔で頷いてくれた。
二人で良いアイデアが出ずに
しばらく考え込んでいると
クェルサマンとペップに支えられたファイナが
こちらへと近づいてきて
「私に、良い考えがありますわ」
少し辛そうな顔で言ってくる。