良い休日
翌朝、起きると俺は何故かピグナの隣で寝ていた。
「……なにこれ」
呟くと、ピグナはパチリと両目を開けて起きて
「全身の関節を外して抜け出したんだ。
ごめん、覚醒してない脳の機能を無理やり使って
喋ってるから……また寝る……ぐー」
「……」
何が何だか分からないが
ベッドから出ようとすると、パシッと
両目を閉じたピグナから腕を掴まれる。
異様に強く握られていて、振り払えない。
少し考えて、ベッドへと戻ると
掴んだ手は離された。
もう一度試そうと、ベッドから出ようとすると
同じようにピグナから腕や足を
条件反射の様な感じで掴まれる。
三回繰り返して理解した。
つまりそういう風に動くように身体を
自動プログラムしてるんだな。
俺を逃さないつもりか。
ふーむ、ならばこちらにも考えがある。
自分のシャツを脱いで
ピグナの両腕をそれできつく縛る。
そしてベッドから抜け出すと
簡単に、出ることができた。
ホッと一息吐いていると
ピグナが芋虫の様に縛られた両手と
全身をウネウネと動かして
ベッドからずり降りて、さらにこちらへと迫ってくる。
冷静に寝室を出て、扉を閉めると
逃れることができた。
リビングへと出ると
寝ぼけ眼のペップが朝の光に照らされて
お茶を飲んでいた。
「ぐっもにだにゃ。なんかにゃー。
こう、目覚めが悪いにゃ」
昨日のことを言うわけにはいかないので
三回戦の疲れだろと答えると
「そうだろうにゃ。今日は休むことにするにゃ。
にっど寝だにゃー」
ウキウキした声で、寝室へと向かおうとするので
「ピグナが中で寝ながら暴れてるから
あとにしたら?」
咄嗟に止める。
「んにゃ?それはいかんにゃ」
ペップは迷うことなく中へと入って行って
パタリと扉を閉めると
「なっ、なんだにゃー!大丈夫かにゃ!
悪霊成仏!悪霊成仏!はっ!セイントフラッシュディザスター!」
中で何やら、激しい打撃音が響いて
固唾を飲んで見守っていると、寝室の扉が
パタリと開かれた。
「ふぃーピグナちゃんがおかしくなって芋虫みたいに這ってたから
ゾンビとか悪霊に効く秘拳を叩き込んだにゃ」
鼻血を激しく流していて
右腕が変な方向に折れ曲がったピグナを
背負ってペップは出てくる。
「中身が悪魔だから、それダメなんじゃ……」
「気にするにゃ。たぶん大丈夫だにゃ」
ペップはグキッと嫌な音をさせて
ピグナの右腕を直すと、顔の鼻血を噴きとって
寝室へと運んでいった。
しばらく待っても出てこないので
どうやら二人で寝たらしい。いやピグナは
生きてるのかすら怪しいが、悪魔なので気にする必要はないだろう。
俺は朝食を食べていると
ファイナが別の寝室から出てきて、朝食を食べ始め
今日は二人で食材の買い出しに
行こうという話になった。
そのまま夕方まで、食材の買い出しという名のデートを
街で楽しんで、ホテルの宿泊室へと戻る。
もちろん一線は越えなかった。二人とも
どこかでペップが
「エッチなのはいけないにゃあ」
といきなり出現するのを恐れているからだ。
とは言え良い休日になった。
リラックスして、メンタルが回復した感じが凄い。
部屋へと戻ると、朝のままでどうやら
ペップとピグナは二度寝から覚めなかったらしい。
日が暮れても出てこないので
二人で寝室の中へと入ると
ピグナが床で、ペップに後ろから抱きつかれて
羽交い絞めにされて、泡を吹いて寝転がっていた。
どうやらペップは寝ているらしい。
「えっえっエッチなのはいけないにゃあ……」
などと小さく寝言を言っている。
「ど、どうしましょう……」
「悪魔だからいいよ。放置で」
俺たちはパタリと寝室の扉を閉めて
ホテルの調理室を借りて、それぞれの味覚の
料理を二人で協力して作り
宿泊室に戻って食べて、
ファイナと同じ寝室の床で、
寝袋で寝ることにした。
良い休日だったな。
四回戦まであと二日である。