ファイナ・エルディーン
夕食を食べると、二人とも
すぐに眠ってしまった。
夢を見ることも無く、目を覚ますと
閉められた窓の戸から光が差し込んできている。
まだ朝早いな。と思いながら
寝袋から出ようとすると
隣に何と昨日の金髪の貴族エルフ女が
入って寝ていた。
普段はかなり余裕がある寝袋が
今日は何か狭いと思ったら……。
そっと寝袋のチャックを開けて
外へと出て、ベッドの上でまだ寝ている
バムを静かに起こす。
「……!」
俺の寝袋の中で気持ちよさそうに
寝ているエルフ女を、バムは目を丸くして見つめて
「あ、あの……もしかして……」
俺を疑惑の眼で見つめてくる。
「ち、ちがう。断じて違う。
何もなかったよ!ないって!」
思わず大声を出すと、
エルフ女がパチリと目を開けて起きてしまった。
そして寝袋からいそいそと出てきて
「あ、おはようございます。
私、今日から、ゴルダブル様と従者バムの
お供を務めます。ファイナ・エルディーンと申します」
パジャマ姿で長い金髪を揺らしながら頭を下げてくる。
恐らく、俺たちの名前は料理大会の名簿で調べたのだろう。
二人で口をあんぐりと開けながら
ファイナを見つめる。
「いや……あなた、今日の決勝も審査員ですよね?
こんなとこで何してるんですか?」
「それに、エルディーン家の血族だったのですか……」
バムは困った顔で俺を見てくる。
「もう良いのですよ。審査員は昨日でやめました。
女の私には王位継承権も無く
いずれ他国へと、王家の言われるがままに嫁がねばならぬ身。
ならば、信じた方たちと共に、自分から国を出て行ってやる。
そう、決めたのです」
ファイナはドヤ顔で胸をそらして言ってくる。
得意満面な彼女から、物凄い世間知らず臭が漂ってきて
俺とバムは困惑を深めていく。二人で小声で
「い、いや待て、この人、味覚おかしいよな?」
「そ、そうですね。一緒に旅は無理だと思うのですが……」
そんな俺たちに構わずに、ファイナは目の前で
パジャマを脱いで着替え始めた。
一瞬、その美しい曲線美に見惚れると
すぐにバムから、両手で両目を塞がれる。
「ダメです。神聖なる修行中の身です」
「はい……」
見たかった……かなり、見たかった。
ファイナが旅装に着替え終わると
バムは俺の眼から手を離して、小声で
「朝食作ってきます」
と言って、部屋から出ていった。
「バムはどこ行ったのですか?」
ファイナはさっそく俺に近寄って尋ねてくる。
その美しい顔に至近距離で見つめられながら
「いや、トイレですかね……」
「そうですか。ゴルダブル様は朝ごはんなどは
どのようなものをお召し上がりに?」
「……は、はは。朝ですか?
ま、まあ見てのお楽しみですよ」
ファイナは実に楽しそうな顔で
ベッドの脇に座った俺の横に座り、
腕を絡めてきた。
ドキドキしながらしばらく雑談をしていると
バムが持ってきたホカホカの朝食を見て
ファイナは顔を顰める。
「な、何と言う……酷い匂い、そして形と色……」
この人にとってはそうだろうな。
という感想しか出てこない。
同行は無理だと気づくなら、早い方がいい。
二人で顔を顰めて部屋の隅に逃げた
ファイナを無視して、黙々とその美味い
山菜煮込み汁のような料理を啜って
黙々と二人で中の具も食べていると
ファイナは恐る恐る近づいてきて
「わ、私も、一口よろしいでしょうか?」
「どうぞ」
バムが小皿に分けた料理をファイナに渡す。
ファイナは顔を顰めて、鼻を摘まみながら
必死に山菜煮込み汁を啜ると
その場にそのまま気絶して倒れ込んだ。
慌てて、二人でベッドにファイナを寝かせる。