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学園編-3



「やぁ、待たせたね」

タイミングよく教会の扉が開かれ、神父が顔を出した。

その手には、掌サイズの革の袋がにぎられていた。

神父はしっかりと教会の扉を閉めると、その革の袋をそっとグローディアに手渡した。


「何ですの?これは?」


手にもった瞬間にその袋から色濃い魔力が伝わってくる。

ここまで濃度の高い魔宝具はモルガン時代にもなかなかお目にかかることができないくらいの感覚だ。

神父はイタズラに口許へ人差し指を当てウインクをした。


「君には神の加護より此方の方が向いている気がしてね、精霊の加護を帯びたナイフだよ。お守りとして持っていきなさい」


「まぁ、神父様がこんな贔屓してよろしいの?」


袋を開けると、グローディアの手にも収まるくらいの小さな装飾の付いたナイフが出てきた。


神父は腰にてを当てて笑う。


「私がこの村に赴任して初めての出立者なのだから、これくらいの贔屓は神も許してくださるだろう」


そういってグローディアの手の上から自分の手を重ねてナイフを握らせた。


「薬草や手紙の封を切るのにも使えるから持っておきなさい、君の未来に幸多からんことを祈っているよ」


そういって雪も熱で溶けるような微笑みを向けられてはグローディアも無下にはできない。


「…それでは、ありがたく」


グローディアが遠慮がちに微笑むと、神父はウンウンと頷きながら手をもったいつけて放した。


「ではヴェイン卿、またお会いしましょう、グローディア嬢もお元気で」


そう爽やかに言い、神父は教会の奥へと姿を消した。

残されたグローディアはまじまじと手に握ったナイフを改めて観察する。


神父が精霊の加護と言ったように、ナイフからは濃いマナを感じる。

マナというのは魔力の根源であり、燃料のようなものだ。

ナイフからは、まるで魔物に匹敵するくらいの力が宿っているといった感じで、たしかにお守りとして何かしら機能してくれるような、そんな安心感があった。



「母さん、それ変なもんじゃないよね?」


ヴェインが心配そうにナイフを持つグローディアを覗きこむ。

グローディアは、ナイフを袋にしまいながら軽く頷いた。

「あぁ、本当に『精霊の加護を受けたナイフ』だろうよ、ただしあやつの魔力の匂いが強すぎるのお…、

元の加護を施した者の魔力の匂いが微々たるものしか残っておらぬ故、何かを二次加工したものかも知れぬが…今の妾の体ではそこまでしか感じとれぬ、なに、悪いものでは無かろうよ」


よりによってあの「人たらしの神父」が好意で譲ってきたものである、グローディアはありがたくもらっておこうと、袋にしまったナイフを小脇に抱え歩き出した。




「遅いぞ三白眼女」


「…あいかわらずガラが悪いわ、そんなんだからいつまでも好い人ができないのよガラハット」



屋敷に着くとすぐに飛んできた文句に、グローディアは肩をすくめて買い言葉で応戦した。


罵倒した相手、ガラハットは長い前髪の隙間から覗く顔を存分にしかめて、踵を返して馬車の扉を開けた。


「そりゃお互い様だな、いいから早く乗れ陰険女、入学式に遅れるぞ」


「というか、何故ガラハットが一緒なのですかお父様!聞いてないのですけれど!」



じっとりと睨みをきかせて、斜め後ろでニコニコ笑うヴェインへ質問を投げ掛けると、

ヴェインはグローディアの背中を撫でてたしなめた。


「パーシヴァルの奴が今王都に詰めっきりでな、代わりに送り出して欲しいと頼まれたんだ、あいつも適当な男だが…なに、ガラハットとは幼馴染みだろう、道中仲良く行きなさい」


寂しい思いをさせないようという、パーシヴァル卿らしい配慮だ。

グローディアはフンと鼻をならすと仕方なく開けられた馬車の扉へと歩み寄った。



「ガラハット、学都に着いても我が娘をよろしく頼んだよ、仲良くしてやってくれ」


「お任せくださいヴェイン卿、仲良く…はグローディア嬢次第ですがね」



ガラハットは一丁前に左胸へ手を当てると、意味深にグローディアへ視線を投げ掛けた。


「グローディア、学都でも健やかに過ごせるよう祈っているよ…いってらっしゃい」


ヴェインがグローディアの額にキスを落とす。

グローディアはニコッと笑い、頬にキスを返した。


「行って参りますお父様」


そう言うとグローディアは馬車に乗り込んだ。

続いてガラハットが乗り込み、扉が閉まる。


外から「出しなさい」というヴェインの声がかかると、馬車が動き出した。




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