プロローグ1
よろしくお願い致します。
民衆の投げる石の痛みはとうに感じなくなった。
「王よ!悪しき魔女に裁きを!!」
「恐ろしい、気味が悪い顔をした女だ」
「反逆者の女だ!この売女め!」
こぞって悪態を吐く国の役人どもの顔も、もはや醜い土塊にしか見えぬ。
「母様…だめだよ…こんなことって…」
嗚咽混じりの声が聴こえたような気がする、可愛いガレス、妾の『息子』
王を恨むことが出来ぬ、妾にしては出来すぎた息子だった。
「ガレス『姉様』だ、お前はこの国の太陽の下で生きていける、発言には気を付けろ」
ヴェイン、お前は私にそっくりに作ってしまった息子だ、苦労をかけるだろうがお前は頭が良いからやっていけるであろう。
きしむ木の階段をゆっくり上っていく。
最上部の見張らしは良い、まるで城のバルコニーから民衆を見下ろしているようだ。
聖職者の祈りの声を聞きながらその眺めを堪能すると、向いの屋敷の窓に見覚えのある金色の髪を見つけた。
ほう、と思わず声が漏れる。
「罪人よ、最後に懺悔があるのならば今ここで聞こう、その言葉は他言せぬ」
聖職者の言葉に、再び妾は民衆へと視線を戻した。
懺悔、悔いか
罵詈雑言を飛ばされることも、石を投げられることも、元婚約者にこれから殺されることも仕方のない運命なのだと受け入れていた。
しかし、こんな結末にどうせなるなら『わたし』がそう選択しなければ良かったと、後悔することが1つだけある。
死ぬと分かっていて、救ってしまったもう一人の息子。
あの子の最期を見たものはこの国の王だけ、今どうなったのかすら誰も知らない反逆の騎士を思い浮かべ、今まで築き上げてきた気丈な態度が少しだけ緩んだ気がした。
「すまぬモードレット、妾のことは許さなくてよいからな」
視界が暗くなる、麻袋を被せられたのだろう。
さてサヨナラだ世界よ、今度の人生も短いものであった