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28.5.拳聖士マッシュラー

 さて、目の前から放たれるこの殺気。それだけで倒れる者もいるようだが、これ程の相手はいつぶりか。


「意外と最近であったな」


 そう、あの日、あのデミリッチ(当時はスケルトンだった)に出会った日もこれ程の強敵を相手にしていたな。


「いやはや、其方らのお陰か」


『シンリャクシャニレイヲイウカ』


「侵略者?其方らは侵略をしに来たのか、目的を知れたのなら上々。ついでに親玉の事でも教えてくれれば申し分なしだが」


『ワレラガオウヲカタルコトナドセヌ』


 王、か。それぞれ四方を攻められている事からそれぞれが纏め役の王であったなら良かったものを……。これより上がいるのが確定してしまったか。


「無駄話はこれくらいにするか。これから先に言葉など無粋であるしな」


『ソウダナ』


 正々堂々、真剣勝負と言ったが、これは試合ではない。死合だ。開始合図などあるはずがない。


「フッ!」


 半歩踏み出し拳を打つ。この手に纏う『神聖魔法』が拳から離れ、ナイトを襲う。


『アマイ』


「そう簡単にはいかぬ、か」


 手から離れてた『神聖魔法』はナイトの前で停滞したまま消失した。ナイトの手にある刀によって、斬られたのだ。ただ一点、()()()()()()()()()()事を除けばこれは予想していた。


「厄介だな……」


 そういえばデミリッチがあの武器を警戒していたな……。普通の刀ならこうもいかぬ、か。


「相当な業物と見える」


『…………』


 言葉など無粋と言ったのはこちらであったな。さて、言葉の情報が取れない以上、目で見て判断するしかない。


 納刀状態の刀は鞘を見る限り長刀、それも普通の物よりも遥かに長い物だろう。抜刀されている刀は見た目通りなら普通の刀だが、さて。


 デミリッチは素手では無理だと言っていたが、確かに、普通なら無理であろうな。

 素手で刃物に勝れるか、素手で魔法に勝れるか。答えは否であろう。武器の長さ、間合い、速度の違い。それら全ての構成要素から素手では勝つ事は出来ないであろう。頂きを見た事がない者なら、であるがな。


「拳聖士マッシュラー、参る」


 チンッという納刀する音が聞こえる。見るのは刀身ではなくナイトの手、そして腕である。いや、それすらも間違いか。もっとも重要なのは一連の動き。それさえ意識していれば。


「こうも出来るという訳だ」


 ナイトが踏み出して抜刀したのを左で一歩踏み出して地面を転がり避けて、間合いを詰める。次手の斬り払いを()()()()()


「ハアァ!」


 右手に『神聖魔法』の力を集め、解き放つ。距離は既に剣の間合いではなく、拳の間合い。拳聖士に相応しい正拳突きをナイトの鎧に叩き込む。


『グゥ……!』


 ガボンッという音が響き、鎧が凹みナイトが後ずさるが追撃はしない。していれば、死んでいたであろうからな。


「短剣……いや、小刀というのだったか」


 ナイトの手の内に一瞬で出現した小刀。その存在に気付いていなければ喉笛を掻っ切られて死んでいた。気付けたからいいものの、あれはいったいいつ、その手にあった?


 長刀は鞘の中、ならばさっきまであった刀は何処へ?と探しても見つからない。何処かへ投げた訳でもない。そんな動作をしていれば気付く。なら、消えた、と考えるのがいいか。


 離れた距離を再び詰めるべく前へ。小刀のリーチギリギリを維持し、隙を待つ。

 足先でのフェイント、重心の位置、上半身の構え。この3つで誘い、 振るわれるは消えていた刀。小刀のリーチにいた訳だから当然届く訳だが、()()()()()()()()


 先程と同じように前に出て刀を避ける。目の前はナイト、このまま拳を叩き込めばいい訳だが……。

 さらに一歩、左に踏み込む。刀でも小刀でも不得手な超至近距離。踏み出した足を軸に回転し回し蹴りを放つ。


 吹っ飛んでいったナイトの手にはやはり小刀が握られていた。


「拳聖士だからといって拳だけ使う訳ではない」


『ミゴト、ミゴトダ』


 言葉を返してきた、という事は一度仕切り直しという事か?


『ヨクゾコノテジナニマドワサレナカッタ』


「その手の使い手も相手にしてきた。刀で行う輩には初めて出会ったがな」


 別になんて事はない。ナイトは手元の刀を消して、小刀を召喚した、というだけの話だ。

 ヒントはウォーリアーの消え方にあった。光の粒子となって消えていったウォーリアーは送還されただけだ。数が減らなかったのも減るたびに召喚されていただけ。それさえ分かっていれば刀と小刀の仕組みにも気付くというもの。


『デハユクゾ』


「ッ!」


 威圧感を感じ、咄嗟に後方に下がる。ナイトの手から小刀が消え、刀も消えている。鎧のその手には鞘から抜かれた長刀がある。


 鼻頭からツーーッと滴れる血を拭い、正眼の構えを取る。長刀はリーチはあるが取り回しは悪い。前に出れば――


「……なっ!?」


 バランスを崩し、地に手を着く。飛び散る血を『神聖魔法』で塞ぐ。


「……見えなかった、か」


 地面には斬られた左足が転がっている。その足と断面を『神聖魔法』で繋ぎ止め、距離を取る。太刀筋が見えず、距離感も合わない。明らかに長刀のリーチより外にいたにも関わらずこの身は斬られた。何かしらのカラクリがあるはずだが、さて。


 カラクリを解き明かす所から始めなければいけないが、この身はどれほど保つか。

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