22.東地区防衛戦6
「ところでさっきの『神盾縛』ってのはなんだったんだろうて?」
「なに、別に魔法を使うのに球状のを飛ばすだけじゃないってのに気付いてな。適当にそれっぽく言ってみただけだ。気にするな」
本当はカオリとの模擬戦の時にカオリから教えて貰った事だ。これによって俺はあの『神盾縛』を開発し、アンデッドに対する防御・反撃手段が増えたのだ。その為にヴェルヘルミナ君との模擬戦で好感触だった盾を泣く泣く置いて、剣を取った。
そういえば、ヴェルヘルミナ君は大丈夫だろうか……。あの『剣技』を用いたスタイルはそれなりに強い。だが相手にもよる。俺が倒したアンデッドメイルなんかには不利どころか完敗だろう。無事ならいいんだが……。
「ふぅ……。追い込めましたぁ。人形による人海戦術はやっぱりいいですねぇ!」
「その代わりガンテツの服が酷いことになったけどな……」
狙撃手を追い詰めるにあたり、俺たちは人形による追い込み漁を行った。実行に移す際、それなりの糸が必要になった訳で……。ガンテツには犠牲になっていただいた。勿論、俺とガンテツでじゃんけんをして勝負した結果だ。
「ドワーフは上裸など気にしないだろうて!それより、何処に追い込んだんだろうて?」
「それがですねぇ……。これはこっちも予想外というか、完全に利用されたというかぁ……。あのアンデッドメイルがいた鍛冶屋ですねぇ」
俺たちが狙撃をどうにかしてやり過ごそうと目をつけていた鍛冶屋か……。
「鍛冶屋って窓とかあるっけ?」
「あの鍛冶屋は空気穴があるだけで窓はないだろうて。侵入口は入り口一つ。防犯も兼ねた構造になってるだろうて。それが今は利用されたんだろうて」
うげ……。面倒くさい事この上ないぞ……。
「どうするよ?入り口から入ればあの威力の矢を正面から受ける事になる」
「そうですねぇ。入り口を人形に見張らせて、私達は一旦引くのはどうでしょうかぁ?」
「奴の目もまだ分かっていないだろうて。それもありだろうて」
「目についてなら、推測がある。矢だ」
「矢、ですかぁ?」
「あぁ。あいつが矢を撃ってくるタイミングは矢の雨が降ってから少し後、矢の雨の速度に対してあの矢は速度が速い。だから少し遅れて撃った矢が雨と一緒に刺さる」
矢の雨はそこまで速度がある訳ではない。斜め上に向かい、弧を描いて下に落ちていく。だからそこまで速度が出ない。ただ、あのスナイプだけは違う。他のと速度が段違いだ。俺は『弓技』によるものだと思っているが。
それでどうやって矢が目をしているか、だが。
「矢の雨による上からの補足。そんで地面に刺さった矢による横からの補足。この二点で俺たちの位置を正確に把握して矢を撃っているんだと思う。ただ、これには確証がない」
「聞いてる分には十分だろうて。何で確証がないだろうて?」
「俺たちは戦闘している時に常に頭の上を狙われていた。もし俺のこの推測が正しいなら、奴は俺たちの位置を確認しながら、俺たちの動きを読み切って、俺たちが数秒先にその位置にいると確信して矢を撃っている事になる」
一度放たれた矢は修正が効かない。勿論、出来なくないのは知っている。もし出来るのなら、曲射の能力があって、正確に狙いを変更出来ると言っているものだ。しかし、それもあの矢の軌道ならこちらの動きを見越した軌道修正が必要な訳で。
「何にしろ、俺の推測が正しければ、奴はこっちの動きを見越した読みがある。今、あいつが鍛冶屋に立て籠もった事で俺たちが追い詰めた筈が攻めに出られないように、な」
だが、まあその読みも戦闘に関する事だけだろう。盤面すらも読み切れるとしたら俺たちがまだ生きているのが奇跡な訳だし。
「と、まあ俺の推測はこんなもんだな」
「なかなか頭もキレるんですねぇ」
「もっと単純に奴が遠くを見る事が出来る力がある、とかの場合もあるけどな」
その場合視線を通して見るのか、視線が通ってなくても見えるのか、でめんどくささが変わるけどな。
「今の推測が正しいと考えるなら撤退はあまりいいとは思えないだろうて」
「ああ。この東地区のアーチャーはもうあらかた片付けた筈だが、それでも矢は残ってる」
アーチャーが残した矢が目になるなら外に出ればずっと監視されている状態になる。そんな状態で俺たちが退けば奴は多少強引にでも鍛冶屋から出て体勢を立て直しーー。
「それだ」
「どれだろうて?」
「これは俺の考えでしかないが……」
俺は俺たちが取る行動で奴がどう動くかの予想を口にする。さらにその予想が的中した際の俺たちの動きも。
「どうだ?」
「いいだろうて。そうならなくてもこっちは戦力を揃えられるだろうて」
「やってみましょうかねぇ」
俺の読みは当たるのか、勝負といこうか!




