16.5.副ギルド長として
私、エンヴィーはそれなりに頭が働く人間です。初代ギルド長から副ギルド長の役職を任されるくらいには。ただ、初代ギルド長の言いなりになるのは良くないと、傀儡になるのは嫌だと反発した結果、ギルド長と組む事になりました。
だが、それが失敗だった。自分一人で事を行うなら事前調査から事後調査まで全て一人で、勝算が低ければ途中で手を引くという選択肢も取れたはずです。しかし、ギルド長と組んで何かを為せば必ずと言っていいほど初代ギルド長が関わってくる。そして、初代ギルド長が関わればこっちの計画は全て無に帰すのです。ああしなさいこうしなさいと強権を行使して。
「私の方が頭が回るはずなのに……」
初代ギルド長の行う事はかなり無駄が多い。省略して良い部分を省略しなかったり、逆に省略してはいけない部分を省略したり。初代ギルド長は組織運営に向いていない。私が後から手を加えている事にすら気付いていないのですから。
この前の手紙だってそうです。知性のある魔物がいたら知らせろ?保護しろ?今回は友好的でしかも協力的でしたが次からはどうだか……。基本的に友好的な魔物なんていない。だから私は今回、本当なら彼を利用しようとしていた。いや、今も利用しようとしていますね。だからこそ、一番被害が出そうな東地区を頼んだのですから。
「それで?ギルド長は何をしているんですか?」
「はっ!荷をまとめているに決まっているだろう!」
私はギルド長が何を言っているか理解出来なかった。
「何故そのような事を?」
「逃げる為に決まっているだろう!リッチに襲われているのだ!この街が助かる筈が無いだろう!」
「……」
クズだカスだと思っていましたけどここまでとは思いませんでした。
「聞いたぞ!リッチがドラゴンを倒す程だと!そんなリッチに敵う筈がない!」
ドラゴンを倒す程、ですか。ですが、それは元から知っていた話。それを基に対策を立てるのが私達の仕事でしょうに。
「私達には初代ギルド長がいますでしょう」
「あんな小娘に何が出来る!ドラゴンを単独で倒せなければリッチには勝てないんだぞ!」
確かに我々は単独でドラゴン討伐を成し遂げた事はありませんが、それでも複数人での討伐なら過去に事例がいくつかあります。詰めが甘く、無駄が多い初代ギルド長ですが、やらないといけない事をやっていない筈がありません。
「増援が来る筈です。それまでに戦況を整えましょう」
「増援が来ると決まった訳ではないだろう!それにここで仕留めきれなければ甚大な被害が出るのは確定的だ!ならば誰かがこの状況を即刻伝えなければいかんだろう!」
この耄碌は何を言っているのだろうか?私には全くと言っていいほど理解が出来ませんね。
「ギルドからギルドへ連絡を送れる通信装置で状況は連絡済み。ギルドがない地域にも特使を既に派遣しています。今この状況になってから動くなんて事ないんですよ」
初代ギルド長から情報が齎された時点で既に特使を派遣し、通信装置も爆音が聞こえた時に直ぐに起動、伝えるべき事は伝え終えているのです。
「ぬっ……」
「グリアスギルド長、いい加減覚悟して下さい。私達の街は私達で守るべきです」
「街と命は変えられんだろう!」
「住んでいる人の命だって、変えられるものではないでしょう!」
「儂の命と住人の命どっちが大切かなんて分かりきっているだろう!」
「ええそうですね!街の人達の方が大事ですよ!貴方みたいな無能よりも確実にね!」
この物言いだけには頭にきました。この耄碌に何を言っても無駄でしょうね。でも言わなきゃこちらがスッキリしない!
「分かりますか!?今の状況が!襲われてるんですよ!街が!人が!私達は何のためにギルドで働いているのですか!こういう有事の際に動かないでどうするんですか!」
「街も人も儂が知るところではない!」
「ああそうですか!ならさっさと何処へでも行ってください!指揮の邪魔になりますので!」
ああもう!こんな事なら初代ギルド長の側に付くべきでした!あの人は別に悪い人ではないんですから!必要だと思った事をやってるだけで!サポートさえすればこんなのを抱える必要も無かったでしょうにねぇ!
「皆さん!この件の元凶であるリッチは初代ギルド長が絶対に倒してくれます!私達はそのサポートです!ですが、無理無茶無謀だけはしないように!」
冒険者が私の言葉に応えて声を上げる。もう忘れましょう、耄碌の事は。
「被害のある場所から避難誘導を!特に被害の多い西地区を人数多めに!散開して下さい!」
彼が東地区でどれだけ抑えてくれるか……。初代ギルド長のお墨付きなんですから頑張って下さいよ。




