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15.悔い

 結局、カオリとの模擬戦には負けた。いや、ずるいって。手札の数が違い過ぎる。で、そのせいで俺はなんとヴェルヘルミナ君の面倒を見なければいけなくなったのだ。いや、後出しで賭けを持ち込むのはずるいって。受ける方も受ける方だが……。


 で、そんな訳でどうしようかなーと考えながら武器を見てたらなんと、あの時、あの洞窟で助けた少年が。ヴィクトリア君というらしく、なんとヴェルヘルミナ君の弟らしい。いやぁ、これは運がいいとヴェルヘルミナ君の事を聞くと大絶賛。ギルドの職員にもヴェルヘルミナ君の事を聞いたら、あの言い合い以外は至って真面目で、困っている人がいたら助けるくらいだとか。さすが自称勇者様。まあ聞くに別段悪い奴って訳でもないし、あの戦闘スタイルは見ていて面白いから、少しだけ口を出しておいた。まあ、あれでこの後どうするかはヴェルヘルミナ君次第だな。


「ちょっと、待ってくれ」


 俺が振り返るとそこにはヴェルヘルミナ君がいた。まさか後を追いかけてくるなんてな。


「なんだ?」


「一つ、確認させてくれ。一生後悔するって、どうして言えるんだ?」


「ヴェルヘルミナ、お前は力が無くて理不尽な目に遭った事はあるか?」


「……ある」


 言いづらそうに答えるヴェルヘルミナ。まあ、俺に対して動きが悪くなった事を考えれば、アンデッドと何かしらの因縁でもあるんだろう。


「俺もある。これから言う事は話半分にでも聞いておけ。とある日のとある場所で、そうだな、短剣を持った男がいたんだ」


 話半分と言いつつも、わかりやすく伝えようと思いはする。ここがヴェルヘルミナの分岐点だから。


「その男は自分の欲求の為に人を殺した。女の子を2人に、そして、俺を」


 その後の被害は分からない。もしかしたら俺が死んだ後にすぐに警察が来たのかもしれないし、さらにあの場にいた人を殺したのかもしれない。


「俺は、1人の女の子が殺されてからその場所に着いたんだ。そして、その男は更にもう1人の女の子を殺そうとしていた」


「その子も……?」


「あぁ、死んだよ。俺がその子の代わりに短剣で刺された。だけど、そんなんじゃその男は止まらなかったんだろうよ。結局助けようとした子すら死んで、俺は何も守れなかった」


 俺は本当はカオリにあんなに崇拝されるべきではないんだ。本当は、何も守れなかったんだから。


「俺は後悔したよ。死んでから後悔してんだから一生ではないかもしれないけど、後悔した。もしあの時今の力があればって思った事もある」


「だから、お前は……」


 今なら、あんな男くらい簡単に倒せるだろう。あの世界とこの世界は全くの別物で、この世界はあの世界よりも生きるのが難しいのだから。


「俺は、今度はそんな事がないように、そう思ってる。自らの身の可愛さに力を求めた事もある。でも、俺が俺らしいのは、人を助けてる時らしい」


 この世界で始めた辻ヒールも、俺が前世でやってた人助けも、俺は俺の為にやってた事だ。


「なら、俺はその為に力を付ける。とりあえず目下の目標は自分が死なないようにする事だけどな」


「僕に、そんな話をして、どうするんだよ……」


「お前はもし、自分の力不足で死人が出たらどうする?」


「それは……」


 この問いに答えられる奴なんていないだろう。俺だって答えられない。


「弟、ヴィクトリア君だったな。あの子もアリーがいなかったら死んでた。アリーも俺が助けに入らなきゃ物量でどうなってたか分からなかっただろうよ」


 ヴィクトリア君が生きていたのはアリーがいたから。アリーにはヴィクトリア君を守る力はあっても、攻めに出れる力はなかった。


「お前に力があれば、助けに行けたんじゃないのか?」


「……」


 ヴィクトリア君が単身であの洞窟に入れないのは、見張りという存在がいたという点から分かる。ヴェルヘルミナと同伴でも入れるかどうかは分からないが。そして、そのヴェルヘルミナが洞窟に入るかと言われれば、悪いが否としか思えない。


「少なくとも、アンデッドの恐怖に負けてなければ、あの洞窟内にはお前がいたはずだ」


「俺は……」


「勇者様よ、リッチに挑むなら俺からカオリに頼んでもいい。カオリに聞いた話だとリッチを倒せなかったらあの洞窟から出て来て、まずこの街を壊すらしいぞ?」


「っ……」


 ヴィクトリア君がこの街にいる以上、ヴェルヘルミナと一緒にこの街で暮らしている筈だ。街が壊されれば暮らす場所がなくなるし、まず、生き残れるかどうかも怪しくなってくる。


「アンデッドなんかに負けてる場合か?」


「それ、は……」


「お前の家族が死ぬかもしれない。この街が滅びるかもしれない。お前はそれを指を咥えて見ているだけか?抗いはしないのか?ヒーローは助けに行けないのか?」


 ここで折れれば、ヴェルヘルミナはもう無理だろう。自分を慕ってくれている弟すら支えにならないなら、支えられるものなどもうないのだから。


「俺、は……」


『キャァァァァァァァァ』


「!?」


 ドォンという爆発音と共に悲鳴が届いた。もくもくと煙が立ち上り、爆発が起きた場所がはっきりしてくる。


「あの、方角は……っ!」


「ちょっ、おいっ!」


 ヴェルヘルミナが煙が立ち上る方角へ走り去って行く。俺も追い縋ろうとするが何故か追いつけない。どんどん距離を離され、とうとうヴェルヘルミナを見失ってしまった。


「いったい何が……。いや、待てよ……?」


 今さっき自分は何と考えていた?見張りがあるからヴィクトリア君は洞窟に入れない?確かにそうだ。見張りがよっぽどの無能じゃない限り、ヴィクトリア君を見逃す筈が無い。ヴェルヘルミナと一緒に入った?なら、なんであの場面でヴェルヘルミナが何処にもいなかった?いくらアンデッドに因縁があるとはいえ、弟が襲われていて助けに入らないほどクズじゃない。そんなクズなら聞いた話と食い違い過ぎる。


 なら、いったい、どうやって、ヴィクトリア君は洞窟に入った?俺はヴィクトリア君が探検であの洞窟に迷い込んだと思っていた。だが、見張りがいる以上は迷い込むなどあり得ない。


 だが、もし、見張りがいなかったら?


「まさか……」


 ドォンという音がまた聞こえた。それも、最初に爆発が起きた方角とはまた別方向から。


「まずいぞ……」


 俺は危機感を覚え、早足でギルドへと向かった。

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