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14.75.前を向く為に

昨日書いてた物が全て電子の海に消えなければこんな事には……。

 僕が家に帰れば、弟が必死に弓を射って、的に当てようとしていた。そういえば、最近の弟は遊ぶ事より弓を弄る事の方が多くなった気がする。


「弓、やってるのか」


「お兄ちゃん!うん!」


 矢は僕と姉の稼ぎで買った物をずっと使い回している。だからか、もうボロボロだった。弓の方も初めから綺麗じゃなかったが、弦が少し緩くなっている。僕も姉も弓の事には詳しくない。きっと弓も矢も買い換えた方がいいのだろう。


「なあ、何で弓やってるんだ?」


 単純な疑問だった。普通なら子供なんて遊びたいものだ。お貴族様みたいに勉強なんて出来ないし、先生に剣を習うなんて事は出来ない。かっこいい冒険者に憧れるにしてもまだそんな歳じゃない。楽しい事を優先してやりたがる年頃な筈だ。


「助けてもらった時に貰ったの。だから、今度は僕がこれで助けてあげたいんだ!」


 笑顔でそう言う弟は、僕にはとても眩しかった。僕が父に剣を習っていた理由は何だったろうか。冒険者をしていた父がかっこよかったから、そんなありきたりなものだった気がする。


「……新しいの、買ってやるよ」


 僕は浅ましい自分を隠す為に、弟に優しくする。そして、こんな自分のようにはなってほしくないから、今のうちから頑張って欲しい。


 弟を連れて、ギルドにある武器所に行く。正直な話、ギルドに近付きたくなかったが、武器を買う以上ここを利用しない手はなかった。


「ん?」


「……」


 さっきの事があったのに、いきなり会うのがフードの男というのは、僕の運はどうなっているんだろうか。


「あれ?お前、あの時の洞窟にいた子供か?」


「えっ?お兄さん、誰?」


「あー、そっか、分からないか。あの時のスケルトンだよ。弓あげただろ?」


「えっ!?あの時の!?ありがとうございます!あ、僕の名前はヴィクトリアです!」


「俺の名前はカイトだ。あぁ、なんかちゃんと会話してるって感動的だな…」


 弟がフードの男と話している。知り合いなんだろうか?……情けない僕はフード男を見ずに分からない弓と矢を選ぶフリをしている。ほんと、情けない。


「へぇ……。ヴェルヘルミナ君の弟なのか」


「うん!お兄ちゃんはすっごく強いんだよ!」


 やめてくれ。俺はそいつに負けたんだ。実力だけじゃなく心ですら負けたんだ。


「さっき戦ったけど、確かに強かったな。特に最後なんかは凄かった」


「でしょ!お兄ちゃんの剣は何でも斬っちゃうんだ!」


 勝った奴が何を言う。僕よりも強い奴が。僕のなんてあの人の真似をしてるだけの紛い物だ。


「なあヴィクトリア君。君から見たヴェルヘルミナ君ってどんな人だ?」


「僕から見たお兄ちゃん?うーんとね、ヒーローかな!」


 ヒー、ロー?


「へぇ!ヒーローって悪い奴をやっつける凄い奴だろ?」


「そうだよ!カイトさんは賢者さん!アリーさんは剣士さん!それで、お兄ちゃんがヒーローなの!3人が一緒に戦ったらどんな魔物でも絶対倒せると思うんだ!」


 俺が、ヒーロー?


「なぁ、ヴェルヘルミナ君?そんなヒーローがこのまま腐るのか?」


「俺、は……」


 ヒーローなんて、勇者となんの違いがあるっていうんだ。結局、必要なのは勇気で、力で。想いでどうにかなる事なんて……。


「少なくとも、ここで腐ったら一生後悔するとだけは言っておくぞ」


 そう言って、フードの男は去って行った。あいつは、俺に何を期待しているんだ。弱い、俺に……。


「お兄ちゃん?」


「……悪いな。ちょっと、1人にさせてくれ」


 不器用な作り笑いで、弟にそう優しく告げる。手に弓と矢を買える金を持たせて、俺もその場から去る。


「確かめないと、な……」

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