14.5.ヴェルヘルミナ
遅くなりました。
今回はヴェルヘルミナ君視点での13話前から13話後までの話です。ここのヴェルヘルミナ君の事は書いておきたかったんです。次の話も申し訳ないのですが、ヴェルヘルミナ君視点になります。
僕の名前はヴェルヘルミナ。サングリアに姉と弟と一緒に住んでいる冒険者だ。父は冒険者をしていたが行方不明に、母は父のいなくなった穴を埋めるように働き詰めた結果、過労で亡くなった。冒険者の行方不明は死んだのと同じだ。だから、僕は父と母が亡き今、2人を支えようと冒険者を始めた。
「ヴェル君、あんまり危険な事はしないで…」
「お兄ちゃん、あの、その…」
僕は冒険者だった父から少しだけ剣を学んでいた。だから討伐系の簡単な依頼をずっとしていた。
姉はそんな僕を支えようと内職をしながら毎日少しずつお金を稼いでいる。弟は残念ながらまだ働く事は出来ないから遊んだりしてもらっている。そんな2人から、心配されるような事が起きたのは、1年前だろう。依頼でヘマをした。
パーティーを組んでくれる人がいなかった僕はサングリアの近くにある蔓延る死の洞窟でスケルトンを1人で相手していた。その時、スケルトンの異常発生が起きてアーチャーやウィッチ、ナイトが大量に出現して僕は襲われた。
気がつくと僕はベットの上に寝かされ、包帯などの簡易的な処置がなされていた。痛む身体を何とか動かす。
「おっ、目が覚めたか!」
そんな僕に声をかけてきた人がいた。
「あなたは……?」
「あー、訳ありでな。名前は言えない。まあ俺は勇者ってやつだ!」
「勇者……?」
「おう!勇気ある者、勇ましい者、そして、強い者!そんな人達の事を勇者って言うんだぜ!」
その言葉は、自然と僕の中に響いてきた。それから僕は、勇気を出して、勇者として、2人を支えていこうと決めた。
そんな出来事があったのに、僕は、また、何も出来なかった。弟が、魔物に襲われたという。それも、僕が知らない時に、知らない場所で。そして、知らない人に助けてもらったのだという。そんな弟は、助けてもらった人に弓を貰って来ていた。
僕は、勇者じゃなかったのだ。姉にとっての、弟にとっての勇者じゃなかった。それでも、僕は、あの人のように……。
そう思って、頑張ろうとして、そして、みんなの勇者になれるチャンスが降って湧いてきた。だから、僕は……。
「リッチ討伐に貴方のランクは不十分です」
「だから!僕ならその程度楽勝だって言ってるだろ!」
絶対そんな事ない。僕は、あの人じゃない。あの人みたいな強さがない。
「ならばランクを上げてください。楽勝ならランク程度すぐに上げられるでしょう?」
「その上がる時間が勿体無いと言ってるんだ!今にも被害が出たらどうするんだ!」
そう、そんな時間はない。そして、そんな実力も。自分でもよく分かってる。
僕が、自分の心の内で思っている事とは真逆な事がどんどん言葉として外に出ていく。
「僕は最強の勇者だ!誰が相手だろうと絶対に負けない!」
何が、最強だ。何が、勇者だ。何が、負けないだ。自分には何一つ相応しくない。負けた僕が負けないなんてどうして言えようか。ただあの人の真似をしている僕が、どうして勇者なんて言えようか。実力もない僕が、どうして最強なんて言えようか。……僕は、弱い。
「ふんっ!お前なんか5秒とかからずに叩きのめしてやる!」
声で男だと分かるが、フードを被った顔もわからない相手。そんな相手と模擬戦をして勝てばリッチ討伐に加えてくれるらしい。でも、きっと僕より強い。だって、僕をリッチ討伐に加えるはずがないから。
闘技場に案内された僕とフードの男。審判は初代ギルド長直々に務めてくれるようだ。僕の方には木剣が沢山用意され、フード男の方には様々な武器が用意されていた。
「それでは始め!」
初代ギルド長の合図で模擬戦が開始される。僕は、本来の、勇者を名乗るようになる以前の戦闘スタイルでフードの男との模擬戦に臨んだ。
一番得意な上段振り下ろし。冒険者だった父から唯一及第点を貰えた自分を支えた技。フードの男が剣を構える。その構えは僕の知らないものであったが、関係ない。僕はただ振るだけだ。そうして振るった剣は、フードの男の剣を崩すだけの力があった。フードの男に剣以外の武器はなく、その剣は今、打ち付けた。
勝負に絶対なんかない。それは知っていた。でも、その時は勝利を確信した。だから、警戒を怠った。
「とどめだ!」
「それは早いぞ!」
フードの男の左手がローブの中、腰の辺りへ向かい、それが引き抜かれた。それは短剣であり、僕がとどめにと思って振った上段振り下ろしの軌道上にしっかりと置かれていた。
「なっ、短剣!?」
「おいおい、驚く暇なんかあるのか?」
僕の上段振り下ろしは力強い左手の短剣に受け止められる。そして、僕の目には下から僕の横腹へと向かう剣が見えていた。剣で受けようにも腕は上がっている。どうやっても、間に合わない。避けようと、足を動かそうとした。だけど、動かなかった。動かせなかった。自分が、その剣に恐怖してしまっていたから。
「ぐっ……」
強烈な一撃だった。痛い、痛い痛い痛い。やられた箇所を手で押さえて蹲る。右横腹はダメだ。他の場所ならまだ耐えれた。だけど、そこだけは他の人よりも痛むのだ。古傷が痛む。あの人と出会うきっかけになったスケルトンの異常発生。その時の傷がそこにある。
「模擬戦じゃなかったら今ので腹を裂かれて終わりだったぞ」
その言葉に、俺は頭をガツンと殴られたような衝撃を受けた。そう、一年前、確かに僕は助かった。あの人のおかげで助かった。だけど、それは本来ならありえない事だ。普通なら見殺しにでもして手持ちの物を売る。だけど、僕を救ってくれたのは、あの人は、勇者だから。だから、僕を助けてくれたんだ。
「まだ、だ!」
僕は、強くなりたい。だから、ここで負けられない!僕がフード男の剣を如何に攻略しようか頭を巡らせると同時に、フード男はその両手から片手剣と短剣を両方とも手放した。
「馬鹿にしてるのか!」
僕は頭にきた。痛みを一瞬忘れる程に。そして、その怒りは僕の動きを単調にさせた。上段振り下ろし。最も信を置くそれは、しかし、痛みを思い出した身体が僅かなズレを作る。そして、そのズレは力を集約する上段振り下ろしにとって致命的だった。
明らかに不慣れだとわかる斧に押し返された。僕の、上段振り下ろしはもうきっとフード男には通用しない。そう、思ってしまった。
追撃が来る!と身構えていたのに、フード男は後退し、また武器を変える。今度は杖に。
「っ、また!」
「今の上段、あんまり力が乗ってなかったからな。俺からのプレゼントだ。『治癒魔法』」
フード男の杖から飛んできた『治癒魔法』は的確に僕の右横腹を癒していく。ああ、確かに痛みは引いていく。どころか古傷も少し癒えている。完全じゃないけど、治っているのがわかる。だけど、納得がいかない。
「何なんだよ!何で治した!」
「手負いとやっても俺の意味がないだけだ。やるなら俺にも利がないとな」
それだけで僕は察した。僕は下に見られていた。初めから僕は練習相手でしかなかったのだ。だから、フード男の方には沢山の武器種が置かれているんだろう。なんで、そうなった?僕が弱いからだ。冒険者にとって、強くない事は罪だ。怪我をするし、行方不明にもなる。最悪の場合、死が待っている。僕は、そんなでいいのか?
「ほら、来いよ勇者様。誰よりも強いんだろ?」
「このっ……!後悔させてやる!」
勇者。勇気ある者、勇ましい者。今の僕を煽るのに最も適した言葉だろう。自分から勇者と名乗っておいて、全くそうではないのだから。だから、僕は今から変わる。僕から勇者へ。勇気ある者へ。
僕は剣を投げる。僕とはおさらばだ。今からは勇者なのだから。下がって用意されている木剣を腰に2本、手に2本、計4本持って飛び出す。見れば、フード男はその武器を杖から大盾へと変えていた。
だから僕はそれを勇気を持って、越えるべき壁だと思って、その剣を振るった。フード男と初代ギルド長が何か言葉を交わしたが、関係ない。僕の持てる力を全て、今に!
「せぇぇぇぇぇい!」
きっと避ける事も出来ただろう。その後の事を考えていた。だが、フード男は僕の剣を真正面から受けた。左手の剣はそこまで力が乗らないにも関わらず、大盾に悲鳴を上げさせている。その剣身を包む光が、そうさせている。
「うぉぉぉぉぉ!」
押し勝つ!そう意気込んで声を上げる。すると、フード男が大盾から手を放し、距離を取った。僕は即座に自由が利く右手の剣を投げ、腰から1本抜き距離を詰める。その距離を詰める勢いすら今は利用する。剣身を光らせ、突きを放つ。しかし、避けられた。避けられたが、フード男はここに来て悪手を選んだ。僕は右の剣を引き、左の剣で薙ぎ払う。その軌道上には、当然フード男がいた。
フード男のローブが裂け、初代ギルド長が叫び、そして、左手が宙を舞う。手を奪う。模擬戦にしてはやり過ぎな結果。だが、それでも勇者なのだから、負けられない。そう思ってフード男に向き合い、違和感を感じた。彼は手を奪われたにも関わらず、声を上げず、行動している。まるで、痛みがないかのように。それだけならまだ痛みを我慢しているのかと思うだけだった。だが、問題はそこではなかった。
「血が……出ない……?」
血が出ないなど、人間ではない。フード男が治癒魔法を使用した形跡もない。血が止まるではなく、最初から出ていない。そんなもの、そんな存在なんて……。
「お前……魔物、アンデッドなのか!?」
「……今は模擬戦中だろ。話は後だ」
「あ、あぁ…」
フード男をアンデッドだと認識した瞬間、身体が強張るのを感じた。そして、過去に右横腹をやられた時の事を思い出した。先程やられた時の事も。それからはダメだった。幾ら違うと分かっていても、身体が動かない。頭で理解出来ていても、心がアンデッドという存在に負けていた。勇気を出す事も出来ず、自分ですらなく、ただ敗北を認める弱者がそこにはいた。そうなってしまっては、模擬戦も続かない。初代ギルド長によって早々に切り上げられ、フード男と二言三言言葉を交わした後は逃げるようにその場を去った。
「僕は、どうすればいいんだ……」
結局、模擬戦は敗北。リッチに挑む事すら出来ない。いや、挑んだとしてもきっと無駄死にするだけなのは、さっきのアンデッドを前にした自分の反応から分かっている。僕は、勇者ではない……。
第9回は勇者ですね。
この世界の勇者は別に特別な使命があったり、悪に打ち勝つようなものであったり、転生して俺Tueeeっていうものじゃないです。単に勇気がある者とかの事を指します。ただ、勇者という言葉を広めたのは、転生者です。その広め方が人によって様々なので、行く所によってその名が神聖視されていたりもします。そこら辺は今後、出していきたいと思ってます。
今回はここまで。
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