8.5アンデッドの王
遅れて申し訳ない!
水曜から土曜まで学校が本当に忙しすぎるのです……。
でもなんとか頑張っていきますよ!
蔓延る死の洞窟。それは上層と下層に分かれた構造をしており、上層には弱いアンデッドが、下層には強いアンデッドが生息している。そして、下層に近くなる程、空気が汚染されていき、生者には厳しい環境となっている。
そんな下層で、2体の魔物が殺し合いをしていた。その2体の周りには幾十ものスケルトンの死骸があり、どの死骸にも鎧や剣が付いている事からそのスケルトンがただのスケルトンではない事がわかる。
そんなスケルトンを屠ったのは腐蝕のブレスを放っているドラゴンゾンビであり、そのブレスを魔法によって悠々と防いでいるのは、スケルトン達の上位種であるリッチであった。
「うふふ……。腐れトカゲ如きがよくも私の可愛い子を殺してくれましたね」
『骸如きがよく王に逆らったな』
リッチからは誰にでも聞き取れるこの世界の言語で、ドラゴンゾンビからは相手の頭に直接響く『念話』で言葉を交わしていた。
ドラゴンは空の王者と呼ばれ、その巨躯、圧倒的な魔力量、タフネス、その全てから空を制してきた。そんなドラゴンのゾンビであれば、アンデッドの王だとしてもなんら不思議な事はない。
「王は王でも慢心して空から落ちた慢心王ではありませんか」
『王に逆らうとはどういう事か、とくとその身に刻め!』
ゾンビとなったと言っても、ドラゴンはドラゴン。その攻撃方法に変わりはなく、強靭な爪がリッチに対して振り下ろされる。
「あら?王ともあろうお方は私を殺す事も出来ないのですか?」
その凶爪はまるで何かに阻まれるかの如く、リッチの目の前で静止していた。
『このっ!』
ドラゴンゾンビは振り下ろされた爪はそのままに、腐った翼をはためかせ、風の刃、鎌鼬を爪が接触している箇所に向けて放った。
しかし、その鎌鼬を受けてすら、まるで何事もなかったかのようにリッチは佇んでいる。
「あらあら?その程度ですか?」
リッチからは完全な余裕が伺え、しかし、だからこそ油断をしていた。
「おやっ?」
後方からの鎌鼬による奇襲。前方の護りが硬いならば後方を狙う。ドラゴンゾンビは王であるがその前に魔物だ。勝つためなら何だってする。だが……。
「ごめんあそばせ。前も後ろも攻撃は通さないんですの」
後方からの鎌鼬も全てが防がれる。
『ならばっ!これならどうだ!』
ドラゴンゾンビはその巨躯を浮かせ、リッチの真上を取った。そこから放たれるのは腐蝕のブレス。さらにドラゴンゾンビは魔法も使い、真下からの攻撃も加えた上下同時攻撃を仕掛ける。
「学習しないトカゲですわね。通じないと、そう言っていますでしょうに」
だがしかし、これも全てが防がれる。防いだブレスの余波で周囲の死骸や鎧などが消滅し、地面が抉られているが、その中心、リッチの周囲だけは全てが変わらずに健在していた。リッチも、地面も、リッチを護っているものも。
『ふざけるな!』
上空からリッチ目掛け尻尾を振り下ろす。だが、これも何かに防がれる。純粋な質量攻撃も通じない。だが、ドラゴンゾンビはまだ戦意を無くしていなかった。
『それほどの絶対防御、何かしらの弱点があるはずだ』
「さて、それはどうでしょうね?」
リッチは薄く微笑む。そこに焦った様子は見られなかった。
『全てを消し去ってくれるわ!』
全方位からの鎌鼬、魔法による土槍、ブレス等持ちうる限りの攻撃全てを同時に行った。それによりその場は土煙が舞い上がり、視界が全て閉ざされる。
「如何なる事をしようと無駄だと……っ!」
リッチは自身に迫る攻撃を全て防いで余裕もあったが、この時初めて動き、攻撃を躱すという行動に移った。それまでリッチが立っていた場所に闇が降り注ぎ、全てを削ぎ落としていく。
『躱したな?』
「っ……」
土煙によって視界が塞がれているが、それでもドラゴンゾンビは確かにリッチが回避を選択したのを感じた。
『骸の言に倣うならば、攻撃が通じない、だったな?なら現象ならば通じるのではと思ったぞ』
先程の闇。それが落ちた場所は地面が消え失せ、その下に空洞という暗闇が伸びている。奥深くまで伸びたその暗闇は底が見えず、あの闇がどんな現象だったかをリッチはすぐに理解する。
「ドラゴンの持つ力を封じる枷、でしたわね?」
『ほう、知っていたか。そうだ、これは王の力を封じた際に流れ出る力の奔流に他ならぬ』
見れば、ドラゴンゾンビの左翼に杭が刺さっている。今まで付いていなかったそれが枷であり、翼の動きを全て封じていた。
「いいのですか?そのまま枷を嵌め続ければいずれ何も出来なくなりますのよ?」
『それまでに殺して枷を外せばいいだけの話だ』
ドラゴンが枷をして戦うという事は相手を下に見ているという事だ。己の力を封じた状態でさえ勝てるという絶対的な強者だからこその自信。だが、今回だけは違う。ドラゴンゾンビは枷を嵌めた際に生じる力の奔流、膨大な破壊の力が目当てで枷を嵌める。
枷というだけあってそう簡単に外せるものではない。それなりの手順を踏まなければ外す事は出来ない。だからこそ、枷というのはドラゴンにとって自信であり、慢心でもあるのだ。
『王としてではない、一体の魔物として殺し合おう』
「ふふふ……。そうですね、私達は魔物です。王などという下らない肩書きなど捨てましょうか」
そこから始まったのは、本気の殺し合いだった。リッチもドラゴンゾンビを舐める事なく、時に回避、時に攻撃と立ち回る。
ドラゴンゾンビもその巨躯からは考えられない程の速さをもって躱し、隙を伺い枷を嵌めていく。
だが、破壊の現象をリッチは全て躱し続け、枷によって動きの繊細さが欠けたドラゴンゾンビは次第に追い詰められていった。
『貴様……本当にリッチか?』
「えぇ、リッチですわよ。一応、ですけれどね」
ドラゴンゾンビの目にはリッチの背から白い翼が生えているのが見えていた。破壊の現象により地面には穴が沢山空き、移動が困難になった時に突如としてそれは背から生えたのだ。
『さて……。魔物ならざる者よ、討つがいい』
ドラゴンゾンビはその身体の至る所に枷が嵌められ、もう動く事すら出来ない状態になっていた。
「リッチだと言っているでしょうに……。それでは、イタダキマスわ」
ドラゴンゾンビの身体に穴が空いていく。その穴から血が吹き出し、次第にドラゴンゾンビの目から生気が抜けていく。
そして、リッチは死んだドラゴンゾンビを喰らった。血を肉を鱗を翼を、その全てを。
「ふふふ。これで私の邪魔をする者は消えました。後はこの辛気臭い地下から地上に出るだけですわね」
ふふふ、ふふふふふ、と地下で不気味な笑い声が反響した。
今回も無しで!
いやまあ、ドラゴンゾンビとかリッチのあれこれとか色々語りたい事はあるんですよ……。でもあんまり語りすぎると物語にも支障が……。悩ましい限りです……。
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