2話 『孤独な祓師ーエクソシストー』
樹木をも眠る静かな夜。
静岡のとある田舎町、ここは山も海もあり温暖な気候で恵まれていた。
そんな町の裏山に、一人の少女は息を上げ腕を抱え立ちすくんでいた。
「ハァッ…ハァハァ…時間…が、無いのに…」
ーーー昨日の金の玉の謎は解決されないまま、俺はいつもと変わらずチャリを漕いで学校に向かっていた。
駐輪場で海を見かけ挨拶をし、2人で教室に向かっていた所を明らかに場違いであろう派手な服装の少女が通りすがった。
綺麗に揃ったぱっつんの前髪に長く揃った髪を2つに結び、少しつり上がった目尻は猫みたいな瞳をしていた。
思わず俺は「すっげえな、ロリータファッションってやつ?」と海に問いかけた。
「あー、ラントちゃんだっけかな。ドイツ人とのハーフで最近D組に転校してきた子だよ。なんでもお父さんがドイツ人でエクソシスト的なお家の生まれなんだって。」
「悪魔とか祓っちゃうヤツ?にしても、なんでフリフリの派手な格好してんだ。校則どうなってんだよ…。」
俺は他わいも無い会話を続け教室に入った。
何やら教室が騒がしい、女子の悲鳴も聞こえる。
悲鳴の中群がる方を見ると、窓の外から向かいの校舎の5階の屋上からユラユラと今にも飛び降りそうな人影があった。
俺はよく目をこらえた。
そこに立っていたのはこの学校の生徒だった。
ーーーその瞬間。
キャー!と言う女子の悲鳴と共に、その生徒は飛び降りたのだ。
しかし、その生徒は飛び降りたのに3階あたりでスーッと消えてしまったのだ。
俺はあたりを見渡すが人が落ちた形跡は無い。
ほかの生徒のイタズラかと思ったが、やけにリアルだった。
でも確かに飛び降りた"モノ"は人間だった。
クラスのみんながイタズラや幽霊だ、と騒ぐ中数日が経ったある日、今度は校舎の屋外にある備品倉庫でボヤ騒ぎがあった。
外壁が軽く焼けたものの大した騒ぎにはならなかったが、それから理科室の薬品などがバラ撒かれていたりと奇妙なイタズラが続いた。
まぁ、俺には影響出てないし関係ないだろと思っていた。ーーー
そんなある日、俺は30回目の遅刻ペナルティの居残りをさせられていた。
「そーちゃん、もう終わる?お腹すいたからマックでも寄っていこうよ。」
「おー、あと2ページで終わる。」
なかなか終わらないレポートのせいで外はもう暗くなっていたが、終わるまで待っていてくれた幼馴染の海の優しさに泣きそうになりながらもやっとの思いで書き上げ俺達は支度をして教室を出ようとした。
ーーーその瞬間、突然の出来事だった。
カタッ。
何か、音がした。
海の顔が曇り、俺はそっと後ろを振り返った時に俺たちの嫌な予感は的中したと実感した。
教室の机や椅子がガタガタとひとりでに動きはじめ次第に宙に浮き出した。
俺は一瞬何が起きたかわからなかったが、隣にいた海が立ちすくんでいた。
優しいけど臆病な海は腰が抜け、俺の足を抱えて動けなくなっていた。
ガタガタ、ガタッ、ガガガガ、ガタッガガッ
怖い、怖い、何だこれ、でも、海を置いて逃げれない、どうすればいいんだ、、、
俺はわけがかわからなくなっていた。
ひとりでに動き始めた机や椅子たちに紛れて教室の隅にうっすらと透ける人影が見えた。
俺は一瞬で幽霊だと気づいた。
いや、こんな状況の中もう心霊現象じゃないわけがねーだろ!!あーもう、だんだん近づいてくるしなんだ、まじで、こえーよー、、、俺達、死ぬかも、「ギャーギャー助けてえええ!!」と海と2人宛もなく騒いでいた。
その時、奥の教室のドアから何かが飛んできて幽霊に的中したのだ。
そのまま、ぼわんっと得体の知れない煙が幽霊を包み込み床に落ちたのはチェスの駒だった。
そして、だんだんと元の場所に戻る机や椅子。
何が起きたかも理解する前にドアから入ってきたのは、あの派手なロリータ転校生だった。
その転校生は「男のくせに腰抜けが。」と俺らの方を見てそう呟いた。
「んだと、ゴラァ!当たり前に怖いだろこんなん!!」俺は思わずキレ気味に言い返したが、聞こえてないかのように転校生は幽霊を包み込んだ煙に向かって話しかけた。
「出てこい。」そう言った後、フワァと煙が消えこの学校の制服を着た生徒であろう人間が出てきた。
人間、、、?俺は驚いたが少し透けているその生徒を見てもう一度幽霊だと認識した。
まだ目をぎゅっと閉じて震えている海に「もう大丈夫だ。ちょっと待ってろ。」と軽くなだめた後、何故かその幽霊と転校生に惹かれて、2人に駆け寄った。
「お前は不成仏霊だな。」幽霊にそう問いかける転校生。
幽霊は顔を上げ転校生の顔を見つめる。
「私は桜樹ラント・メーディウム。ドイツのエクソシストの末裔だ。お前を直ちに成仏させてやろう。」その転校生は床に落ちていチェスの駒を拾い上げ、幽霊に向かって言ったのだ。