1話 『始まりの日』
我が家の飼い犬のポンタもスヤスヤ眠る朝。
「空ー!起きなさいよー!」
台所から母ちゃんの叫び声で目を覚ます。
顔の横にある携帯の画面は一時間前には鳴り終わったアラーム終了の文字。
「やっべ!遅刻だ!!」太陽の光が透けるような薄い茶色の髪にはまだ寝癖がついたまま。
重い目をこじ開け制服に袖を通す。
俺は1分で着替えて階段をかけ降り、毎朝のように母ちゃんに同じことを言う。
なんでもっと早く起こしてくれなかったんだよ!って。
毎朝、起きて家を出るまでは一刻を争う戦いだ。
なんで朝ってこんなに起きれないんだろう?と思いながら、通学路の潮風香る港を俺の愛車プラチナシルバーと言う名の少し壊れかけたチャリでシャコシャコ音を出しながら全力疾走する。
ーーーキーンコンカーンコンーー
「ヨッシャ…ギリギリ」
朝から疲れきった肩を落としながら席につく。
「そーちゃん、おはよう。」
「おー海おはよーー」
俺はうなだれながら返した、こいつは長谷川 海。
艶のある綺麗な黒髪に癖っ毛で男のくせにいつも泣きそうな目をしているが笑った顔が可愛い、俺の幼馴染だ。
そんなこんなで今日も一日何も変わらない日々が始まる。
と、これから起こる事を何もわかっていない俺は一限目から先生の子守唄のような声を聞きながら目を閉じた。
ーーーー其の頃、此処は天界。
神が存在し神を敬愛する士官達が人間の輪廻転生、そして現世で成仏しきれない霊などの対処を行っていた。
「神様!!またしても現世にて不成仏霊達が問題を起こしています!!」
そう慌てているのは現世使いの狐たち。
「ん〜やばいよね〜どうすっか〜」
そう軽く流して現世を映す鏡を眺めながらだらけている、少々問題がありそうだがこれは神様なのだ。
「僕達が現世へ出向いて不成仏霊たちを連れ戻すと騒ぎになっちゃうし、体力使うからめんどくさいんだよね〜」
「神様!!そんなこと言っていたら現世は不成仏霊で溢れかえってしまいますぅ〜」
だらけて解決にならない神様をなだめるかのように狐たちは説得する。
「そうだ!!」
神様が閃いたかのように急に起き上がる。
狐たちはやっとの思いが通じたと歓喜の眼差しで続きの言葉に期待をした。
そして神様が宮殿の装飾に使われていた光輝く玉を三つ適当に貪り取った。
「この三つの玉に一つずつ能力と眷属を入れる、そしてこの天から撒くんだ!この玉は十六の歳の子供にしか渡らないようにしてある。そしてこの玉を運良く受け取った者に玉の能力と眷属を与えよう!そうしよう!」
と神様は自信満々にあたかも素晴らしい事を思いついたぞ!と言わんばかりに言い切った。
ハァ〜とため息をついた狐は呟いた。
「自分はめんどくさいからって現世の人間に不成仏霊退治を押し付けるんですね…」
果たして、神様の気まぐれで選ばれた人間に不成仏霊退治は上手くいくのだろうか?
そうして、不安でいっぱいの狐とバカな神様は天から玉を三つ撒いたのでした。ーーーー
ーーー腹も減り出した四限目、寝れずにいられなかった俺は「なーんで四限目が体育なんだよー」
不服そうに呟いた。
しかもよりによって野球かよ、後片付け多いし、着替えもあるし、昼休みの時間減って嫌なんだよなー。
外野で大人しくしてよーっと。
「運動してお腹が空くから美味しくお昼ご飯食べれるからいいじゃない。」
海はこっちを向いてニコッと笑った。
仏様か!って位尊い性格してんなコイツ。幼馴染のくせに俺とは正反対だ。
ーーーそんな時
「おーい!そらーーーー!!!フライ上がったぞーーーー!!!!」
と一塁に立っていたクラスメイトに呼ばれ、見上げると野球ボールと太陽が重なり光り輝きながら落ちてきた。
俺はグローブを顔の前に持っていき受け止めた。
手のひらにバシンッ!と言う音と共に顔の横を通って地面に転がる野球ボール。
ーーーー、、、ん?
俺、確かに受け止めたよな?
味方チームのクラスメイトからブーイングが広がる中、恐る恐るグローブ開いてみる。
そこには野球ボールと同じくらいの大きさの金色に光る玉があった。
何だこれ!!!とびっくりしたものの、野球ボールをピッチャーへと返すために金色の玉をポケットに入れそのまま授業が終わり、昼休みになった。
海と弁当を食べている時にふとさっきの金の玉を思い出して海に見せた。
「さっきフライ取り損ねた時にボールと一緒にコレが飛んできてキャッチしちゃったんだよ。」
海は不思議そうに見つめると、
「めっちゃ金色だね。ポケ〇ンみたいに売ると高くつくかも。取っておきなよ。」
と軽く笑ってしばらく眺めながら手に持ち俺に返した。
でも、俺は不思議だった。
あの時俺はグラウンドの真ん中で校舎や近隣の建物からは距離が離れていて、誰かが窓から落としたなんてことも無さそうだ。
ましてや鳥が落としたかも?とも思ったがあの時は付近に鳥なんて一切飛んで居なかったし、鳥が持てる大きさの物でも無い。
モヤモヤしたまま今日の授業が終わり、またいつもと変わらない港町をチャリで駆け抜け家へ帰る。