4-9 光、落ちる
時は戻り、首都リングルスを照らす日差しは徐々に傾き始め。
開戦から5時間、グリースレリア軍は予想よりも早く疲弊しはじめていた。
元から戦力差があることはわかっており、限られた時間の中、それを補うための用意も行ってきたが。
主に山賊や盗賊でで構成されたダルマック軍側に、兵法に通じている者が多すぎる事が誤算だった。
彼らは元兵士であり、新たな役目を与えてくれるダルマックを信奉し、
兵士の戦う意味である忠義を持ち合わせ、その強固な精神は堅牢な防衛網と形を成して、グリースレリアに対抗してくる。
リングルスの正面、最も大きな門を攻めるグリースレリア軍の本隊。
グリースレリア軍軍団長ボンズは自ら最前線に立ち、味方を鼓舞しながら戦況を見極め。
熟練の武人である自分と同じレベルにすらある戦術眼を持つ者達が、
ダルマック軍にも多数居る事に気がつく。
「武人であれば、戦いの中にこそ己の中に価値を見出そうというのは、わからなくはないがのぉ」
戦士は戦いこそが本懐だと、武闘派のダルマックに同調した同じ類の人間達。
それを相手どりながら、ボンズは少なからず共感を覚える。
人生の大半を武の鍛錬に費やし、この国を守らんとした彼らに。
もう武力はいらないので用済みと捨てられれば、それを受け入れられるはずがない。
ボンズも軍人であり、そして武人、その気持ちは痛いほどよくわかる。
この老齢の軍団長こそが、誰よりも武への情熱で青春を駆け抜けていたのだから。
だが今は、元同胞達をその両手の槍で切り捨てていく。
「思いだせ! 貴公らはどうして力を求めた!?
守りたいものがあったればこそ、軍人としての職務を選んだのであろう!?
わしらが長年求めたリンクスの平穏と繁栄を、自らの手で閉ざしてどうするのじゃ!?」
ボンズの声に少しは耳を傾ける者も居たが、生粋の山賊や、悪党に落ちた者達にはもう届くはずがない。
リングルス正面大門で繰り広げられる戦いは、尚も激しさを増していく。
グリースレリア軍の僅かな手勢が少しづつ減って行く中。
ボンズの鍛え研ぎ澄まされた耳に、遠く離れた方角から馬の蹄音が多数聞こえてきた。
東門からの伝令の数ではない、これは数百騎に及んでいる。
「東門が突破された!?ええい保たせられなんだか!?」
まずい、このままでは後方をとられて挟み撃ちにされる。
無用な犠牲をだすわけにはいかない、ここは撤退を指示するべきかと迅速に決断するボンズだったが。
「伝令ー! ボンズ閣下ぁー!」
まるでタイミングを見計らったように、本陣からの伝令がやって来る。
「ヴェイグ軍師より伝令です!
”戦局が動きます、消耗していた東門部隊を一時撤退させました。
ボンズ閣下は挟撃を狙う後方からの敵のみに注意されたし”だそうです!」
「戦局が・・・動く?いったい何が・・・」
ヴェイグはいったい何を言っているのかとボンズが計りかねている、次の瞬間。
夕日とは反対側、夜闇が訪れはじめた東の空の星が一際輝いたたかと思えば、光は超高熱のエネルギーの奔流となって、街門の上に落下。
リンクスの高い工業力で作り出された石造りの壁を、
ダルマック軍の兵士達もろとも融解させていく。
触れたもの全ての命を奪い、ありとあらゆる存在を破壊する無命の光。
そんな光を放てる者は、この世界に一人しかいない。
「無メイの乖離か!?」
遠く離れていても、立ちこめる熱風は火傷しそうなほど熱く。
吹き飛んだダルマック軍の兵士達の屍は現実である事は歴然。
驚いているのはグリースレリア軍だけではない、ダルマック軍にはそれにさらに恐怖が加算される。
「バカな!? 無メイの乖離だと!?」
「聞いてねぇよ!? アイツは来ないっていうからこの略奪に参加したんだ!」
「逃げろ! もう一発、無命の光が来る前に逃げ―」
慌てて逃げようとしたダルマック軍の彼らは、続けて放たれた二発目の光に飲み込まれて蒸発した。
無命の光が恐ろしいのは威力ももちろんだが、真の脅威は連射が可能だという事にある。
次弾までに要する時間わずか10秒、光が見えたから逃げようとしても、もう間に合わず。
隻腕の獣が高さ100メートル以上も跳躍してから放たれる落光は、反撃も、隠れる事も許さない。
かつてポイント・ゼロで5万の人間を焼き殺した戦法はリングルスを占拠するダルマック軍を容赦なく襲い。
ボンズが攻略する正面大門だけでなく、他の3つの門にも降り注ぎ、わずか1分もせぬ間に街門を防衛するダルマック軍は壊滅。
ダルマック軍はリングルスから外に出る事はもうできないと、リングルスの街中へと逃げていく。
町にはまだ住人が多数居る、無メイの乖離は彼らを巻き込む事はしないからだ。
これで無命の光からは逃れられるが、それはグリースレリア軍にとっては好機。
さらに新たな朗報がボンズに届けられる。
「閣下! 援軍が到着しました!
パルトス領から1500! アンドル領から2000!」
「よし! 皆の者、後方からの敵を一掃したのち、我らが守るべき民を取り戻す!!
臆するな! 我らには無メイの乖離の加護がついておる!!」
最強の傭兵が味方となっている今、負けるはずがない。
グリースレリア軍の士気は最高潮に昇りつめ、鬨をあげてリングルスへと突入。
彼らの援護を終えた隻腕の獣は、その遥か後方、グリースレリア軍の本陣へ向かうのだった。




