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無メイの乖離  作者: いすた
12/48

2-3  現地調査

リンクス連邦中央政府が、無メイの乖離への使者団という名の特殊監視部隊を送った次の日。

ある確定情報が、早馬で届けられた。


『無メイの乖離の次の目的地はランジベルである可能性が大』


これまでも彼の者が向かう方角から、次の目的地の予想を立てていた中央政府だったが。

街道の分岐点を選んだ時点で、その方角に街はランジベルしかない。

先の鉱山町、ロックラウンドの侵略をかけたランジベルこそが目的地だと。

よりによって先日交戦したばかりのランジベルとは。

中央政府はまたしても大混乱。

どうしてわざわざ追い返した軍隊を追いかけるような真似をするのか?

まず中央政府の議員達が予想したのは、侵略を実行したランジベルへの粛清だ。

ロックラウンドの住民を虐殺した代償は、ランジベルの住人全員で償わせるつもりか?

もしそうだとしたら誰にも止める事はできない。

無メイの乖離を抑えられる戦力はどこにもなく、説得も通じる可能性が低い。

彼の者は徒歩で移動しているため、到着は予測で3日後。

早馬で伝令を受けたランジベル軍は街の前に広がる平原に決死の覚悟で全軍を展開。

先のロックラウンドであの力を目の当りにし、兵達の士気は皆無、逃げ出した者も多い。


残った者達は足の震えに耐えながらも、無メイの乖離を迎撃せんと覚悟を決めた。

ところが、最強の傭兵がやってくると思われていた方角から、リンクス連邦特殊部隊の鎧を身に纏う者が馬でやってきて。


「無メイの乖離はランジベルを迂回し、ゴーネス川へと向かわれた。

 用向きを済ませた後この街に立ち寄る可能性はあるが、彼の者に攻撃の意志はない」


それは、無メイの乖離を監視している使者団、おもてなし部隊の団員で。

その報告にランジベルの兵士達は緊張が解け、一斉にその場にへたりこみ、泣き出す者も居た。

そんなランジベル側の事情を知らない名無しの少年とアズキ、茶歩丸の2人と1匹は。

ここ連日の日差しに焼かれて水分を失い、あちこちがヒビ割れた剥き出しの土の上を歩いていた。


「っか~! すっかり干上がっちまってんな!」

「この地図が無かったら、ここに大河があったなんて信じられなかったっすね」


2人と1匹が歩いている場所は、通常の道ではない。

ここは先月までは大量の水が流れていた川だったが。

今ではただ干上がった窪地でしかなく。

たまに堕ちている干からびた水草に、腐敗した魚の死骸が唯一、ここに水源があった事を証明していた。

川底を歩くなんてそうそうある事ではないが。

この状況がどれほどランジベルに住まう人々に悪い状況なのかは、

川辺のあちこちに設置されている水を汲む道具や、魚を獲る仕掛けを見ればよくわかる。

水車は動力もなく停止し、麦をひく事もできない。

そんな惨状を前にして、茶歩丸が気になる事はひとつ。


「―で、あんちゃんはここに来て、何しようってんだ?」


ロックラウンドで少女と話してから、一言もしゃべっていない名無しの少年に聞いてみる。

アズキも茶歩丸も、こんなところに用はない。

ただ、名無しの少年の後を着いて行って、ここに来ているだけだ。

この少年はなにか目的があって、こんな場所を歩いていると思うのだが。


「・・・・・・・・・」

「愛想ねぇなぁ」


やはり返事はない。

もう出会って一週間近くになるのだから、そろそろダンマリはやめてほしいのだが。

そしてしばらく歩いた後、名無しの少年は歩みを止めた。

川の跡は終わり、目の前には小高い壁がある。

土くれ色の、草もコケもない、岩と泥が積み重なった不自然な壁の高さは10メートルはあるだろう。

これはまた。それを見上げてアズキと茶歩丸は顔をしかめ。


「これが、土砂崩れのあとっすか」

「こいつはひでぇ、完全に川が埋まっちまってる」


壁に見えたのは、山が崩れて落ちてきた土砂。

川の流れを完全に塞き止め、何物をも通さないと無駄な主張をしているようにも見える。

呆気にとられてそれを見上げている1人と1匹の横で、名無しの少年は土砂崩れの山を登り始めたではないか。

どうやら、彼はこの場所に用があるようだ。


「目的地到着っすか」


さぁ、名無しの少年はここで何をするつもりなのか?

せっかくなので何をするのか確認だけはしておくかと、アズキと茶歩丸もそれに続いて土砂崩れの上へ。

登り途中で後ろを振り返ると、ここまでの道のりで食事などの世話になったおもてなし部隊の馬車が遠くに見えた。

彼らもここからしばらく動かないと見たのか、荷車を引かせていた馬を休ませはじめている。

アズキと同じように彼らも目的地も知らされずに振り回されているのだから大変そうなものだが。

この4日間、おそらく演技だろうが、無メイの乖離と共に歩めて光栄だと言わんばかりの笑顔を浮かべっぱなしだ。

お勤めご苦労様ですなんて考えつつ、自分達もなんでこんな崖登りなんかしているんだろうとアズキと茶歩丸は自嘲しながら。


「よいしょっと・・・、うはぁ・・・」

「上から見ると、よりひでぇな・・・」


土砂崩れの山を登り切ったアズキと茶歩丸は眉根を寄せる。

高さもあるが、それ以上に広い。

川を潰す土砂は100メートル近くに渡って大きく広がり、遥か先にようやく塞き止められた川が見える状況だ。


「どかすのに、3年はかかりそうっすねぇ」


その3年という予想も、これ以上被害が増えなければという条件付での話。

そんなに長い間飢えと渇きに耐えながら何も獲れない街に住み続け、いつ終わるかわからない土砂の撤去作業など誰がするのか。

ランジベルがロックラウンドに攻め入ったのも、この絶望的な状況を見て、さらにそれを仕組んだ相手が近くでのうのうと暮らしているとなれば、

怒りが殺意に変わるのも無理からぬ事か。

ランジベルの住人に同情しているアズキと茶歩丸も気にせず、名無しの少年は辺りを見回しながら土砂の上を歩き、滑落した山の斜面の前まで進んで、目を凝らしている。


「アイツ、なにしてんだ?」

「う~ん、どうもこの土砂崩れの原因を調べに来たって感じっすかね」

「なんでそんな事すんだよ?」

「あたしが知るわけないっす」


アズキ達と出会う前になにか依頼でも受けたのかも。

なんといっても彼はほぼしゃべらないので、真意は計りきれない。

手伝ってくれとお願いされわけでもないし、茶歩丸はさっさと背を向けて去ろうとする。


「じゃあ、俺達はおもてなし部隊の連中んところで休んで―」

「あたし達も調べるっすよ」

「・・・もう一度同じ事だが違う意味で聞く、なんでそんな事すんだよ?」

「あたしがしたいからっす」


なんでこんな事になってるんだ、肉球で顔を覆って天を仰ぐ茶歩丸。

アズキはさも当然と言わんばかりに自分も滑落した斜面を見て、分析し始める。

土砂崩れが起きる原因は大きくわけて2つ。

表面の土が崩れる場合と、深い地層から崩れる場合だ。

まず前者の表面の土が崩れる場合だが、雨などで水が土の中に染み込みきれなくなり、地表を流れた水が凸凹に溜まって土などと一緒に流れ落ちる表面侵食。

ただこの土砂崩れの場合、侵食された部分が広がってから大量に崩れ落ちるため予兆があるはずだ。

今回の土砂崩れは一時的に大量の雨が降っている時に、突然大きく崩れ落ちたと使者団から予め聞いていたアズキ。

そうなると今回の土砂崩れの原因は、後者の深い層から崩れる場合だろう。

地盤の深層がなんらかの原因で根こそぎ崩れる事で、崖がごっそりと崩れ落ちるため、今回のような大被害をもたらしかねない。

そのなんらかの原因として考えられるのは、大量の雨が地層の間に入り込んで層を分断し、山を内側から切り崩すような事態になったからではと予想される。

深層崩壊による土砂崩れなら、崩れた場所がクッキリと浮かび上がっているはずだ。


「位置からして、土砂崩れの基点はここっすね」

「へいへいそうみたいだな。どれどれ」


興味津々のアズキと、嫌々を隠そうともしない茶歩丸は断層に近づき。

ここが土砂崩れの基点となったであろうその地点に爪を立てて引っかいてみる茶歩丸。

ガリッという硬質な音と共に、削れたのは自分の爪のほうだった。


「硬ってぇ・・・。粘土じゃねぇな、岩盤だぞこれ。

 しかも下までずっと続いてやがる」

「雨を吸って崩れるにしては、綺麗な岩っすねぇ」

 そうなると、岩盤が崩れる原因となると地震っすけど」

「大雨の日、この辺りで地震があったなんて話はなかったんだろ?

 それに、地震にしちゃあ、地層の崩れ方が一点に集中しすぎだ」


嫌々だったわりには、いざ調べ始めると唸りながら真剣に考察しはじめる茶歩丸。

やはり頼りになる相棒だと感じつつ、使者団に聞いたロックラウンドとランジベルの戦争に関しての話を思いだすアズキ。


「聞いた話によると、この辺りでロックラウンド軍のエンブレムが見つかったそうっすよ」

「川が潰れて絶望してるところに、おかしな土砂崩れで怪しいって大騒ぎ。

 そのタイミングで昔から因縁浅からぬ連中の痕跡ねぇ。

 人間の考え方だとどうなんだ?」

「犯人はあいつだー! になるっすね」


頭に血が昇っていれば、疑わしい相手の事を冷静に考える余裕もないだろう。

つまりここまでは、ランジベルも同じ調査をして同じ結論をだしたという事になる。

そして今回の戦争に発展したわけだが、そういう感情的になってる時だからこそ、重大な見落としをするものだとアズキは知っている。

そして自分達の中に根ざす怨恨はない、中立的な物の考え方で調べる事ができる。


「じゃあ、次に調べるべきはっと」


それは彼も同じだろうと振り返ったアズキの目に、辺りに広がる土砂と岩を、素手でどける名無しの少年の姿があった。

重さ500kgは軽く超えているだろう岩の塊を両手で軽々しく持ち上げて、その下にあるかもしれない何かを探している。

彼もアズキと同じ考えのようなのだが、いちいち岩ひとつひとつ持ち上げて調べていたのでは効率が悪過ぎるだろう。


「そんな気の遠くなるような事する必要ないっすよ。チャポ」

「おいおい、まさか・・・」

「はーやーくーするっす」


アズキのやろうとしている事を察して、止めさせようとする茶歩丸だが、聞く耳持たれず。

主の催促に盛大なため息をついて、岩場の影に潜んでいた鼠2匹を両手に捕らえてアズキに差し出し。


「―掌握」


アズキだけが持つ特殊な能力、動物を自在に操る術を2匹の鼠にかける。

知らないものからすればただ鼠が光ったようにしか見えず。

名無しの少年も呼びかけられたので手が止めているが、よくわからない様子だったが。


「こういう事っす」


アズキが名無しの少年の額に指をあてると、鼠の視界が映像となって、彼の瞳の網膜に投影され。


「!?」


さすがに驚いているようで、目を丸くする彼。

鼠が動くと映像も動くため、どういった類の術かは理解したようだ。

それを見計らってアズキは提案する。


「何が目的かは知らないっすけど、この土砂崩れの手がかりを探すっていうなら、あたしの能力は役に立つっすよ?」


その言葉には、いい加減自分を気にしてくれという抗議も含まれているようで。

名無しの少年はしばらく押し黙って、なにか考えを巡らせたのち。


「・・・土砂崩れの基点から半径50メートルを調べたい」


彼がアズキに向けた三度目の言葉も、やはり事務的なものだったけれど。

以前までと違い自分を頼ってくれた事がとても嬉しくて。


「了解っす♪」


フワリと愛らしい笑みを浮かべ、彼の額に指をあてたまま鼠の操作を行うアズキ。

動物の視界を2人で共有し、崩れ落ちた岩の隙間に何かおかしなものがないか捜索を開始。


「岩盤を破壊するほどの仕掛けなら、どこかに痕跡を残しているはずっす。

 チャポ、そっちもよろしく」

「ヘイヘイ。・・・ったく、良く知りもしねぇ相手にバラしちまいやがって」


この能力は母方から受け継いだ血統の中でも、長女にしか受け継がれない稀少性から機密扱いであり。

おいそれと公言してはならない能力だ。

アズキもそれをわかっているから、術を使うときは必ず人目のない所だったというのに。

それをあっさりとバラすとは、いくらなんでもその名無しの傭兵に入れ込みすぎだと、もう1匹の鼠を操作しながら、さっきからため息がとまらない茶歩丸。

そのぼやきが聞こえている名無しの少年は、アズキと茶歩丸を交互に見比べている。

口にはしないが、「秘密の事を教えて良いのか?」と目が語っており。


「アンタはそうそうベラベラしゃべる人には見えないっす。

 むしろもうちょっとしゃべってほしいぐらいなんっすけどね」


アズキの察しは正しかったようで、彼の持った疑問は正解だったようだが。

その返答にはまだ納得していないから、重い口がようやく開いて。


「・・・なぜ俺を手伝う?」


あの川原で出会ってから7日目になる。

彼女が着いてくる理由、ロックラウンドに着くまでの2日間ならば道案内で納得できるし、実際最初に同行を申し出たのもそれが理由だった。

だがロックラウンドからランジベルまでの道のりの4日間は違う。

アズキはもうこの大陸の地理は把握し終わっているため迷う事もない。

食べ物に関しても知識は得ている。それに。


「あの連中から、俺の事は聞いただろう?」


今も遠くから自分を監視しているリンクス連邦のおもてなし部隊。

この土地に来るまでの道中、彼女が馬車の中でいろいろと話を聞き。

もちろん無メイの乖離についても聞いていただろう。

長年の戦争を、大量殺戮という形で終わらせた最強の傭兵。

手にかけた人数は5万と8千人、人類史上最大の殺人犯と言い換えてもいい。

ロックラウンドでも人々が彼に向ける視線は、おおよそ同族に向けるものではなかったのに。

今も名無しの少年の額に指をあてながら、体が触れそうなほど近くにいるのはどうして?

少年の疑問にアズキは、そうだなぁと軽い表情で考えてから。


「ん~、まずは興味っすね」


実の所自分でもハッキリしていないが、自分の心に問いかけて確かな感情を確認してから口にしていくアズキ。


「魚を恵んでくれたのに何も要求してこない。

 こっちが話しかけても一言もしゃべらないのに、獲った獲物はちゃんと分けてくれる。

 それに、たったパンひとつで女の子の願いを聞いて、軍隊ひとつ撤退させる妙な人。

 どんな人なのか気になるっていうのが半分っすね」


あまりにも子供じみたというのか、直情的な理由だ。

名無しの少年は思う、今までの行動を見る限り、彼女は決して軽率な行動をとる人間ではない。

対象を冷静に分析し、自分に不利にならないように動けるのはこの7日間でよくわかった。

ロックラウンドの戦いでも、正規の兵士達を相手に互角以上の戦闘技量を見せた。

彼を騙すにしてももっと上手くやれるはずなのに。

少年の視線に疑惑を感じたのか、取り繕うようにあははを笑いながらアズキは。


「あとの半分は、自分でもよくわからないんっすよね。

 ただそれもそのうちわかるかもって、こうしてついて来てるんっすよ」

「・・・そうか」


アズキのほうもよくわかってないのなら、少年もどちらともわからない返答。

ただ拒絶はしていないから、まぁいいかというのがアズキの思った事だった。

ちなみに半分はわからないとは言ったが、朧気ながらその理由のひとつは理解しはじめている。


(さみしそうだったから、ね)


勘違い、思い込み、自意識過剰と言われたら否定はしない。

でも、そう感じてしまったら、自分でもどうしようもなかった。


(まるで、私みたい)


おこがましいと言われそうな事を考えながら、彼の横顔を見つめるアズキ。

間近でみても、破綻のない整った顔立ち。

冠を被って正装すれば王族を名乗っても誰も疑問に思わないだろう。

いや、実績を考えれば彼が王になると言い出せば誰も逆らわないだろうが。

そういう意味ではなく、不思議な気品みたいなものを感じる。

自分でも意識せずに名無しの少年の横顔をぽ~っと見つめていると。


「鼠を止めてくれ、今、右に何か見えた」

「へっ!? あ、ああ、そうっすね、そうだったっす!!」


今は土砂崩れの原因究明中だとすっかり忘れていたアズキは。

名無しの少年の指示どおりに鼠を操り、岩の隙間にそれを発見した。


「これは・・・あきらかに天然物じゃないっすね」

「回収する。場所はそこだな」


鼠が今いる場所の岩をどかして、回収したのは小さな金属の破片だった。

強力な力と熱で曲がって千切れた、鋼鉄の屑。

おまけに、何か数字のようなものが刻み込まれている。


「・・・シリアルナンバーか」

「ってことは、国で管理してる正規のモノっすね。

 大当たりじゃないっすか」


数字が刻み込まれた人工物には大きな意味がある。

まず個人で作ったものではなく、しかるべき管理体制の上で製造された物の可能性が高い事。

これが土砂崩れに無関係だとするにはあまりにも発見された場所が出来すぎている。

そしてそんなものが原因不明の土砂崩れの現場に落ちていたのだ、調べ次第では決定的な証拠になる。


「おーい、こっちも見つけたぞ」


丁度良いタイミングで茶歩丸も同じような物を発見したようだ。

それから捜索を続け、見つけた金属片は5つ。

うち2つに数字が刻み込まれている。

これがどれほどの価値のある証拠となるのかは、調べなければいけない。


「何か発見があったようですね、無メイの乖離、アズキ殿」


その時、使者団の団長ヴェイグが見計らったようなタイミングでやってきた。

・・・彼はリンクス連邦の改革派に所属していると自ら口にした。

重要な証拠をあずけるべき相手かは少々疑問があるが。


「ねぇ、これを預ける相手にツテはあるっす?」

「・・・いや」

「じゃあ、ヴェイグさんに預けたほうがよさそうっすね、いい?」


名無しの少年は少し悩んだあと、ハッキリと頷いて許可をだす。

それを受け取ったヴェイグはまじまじと金属片を見つめ。


「この材質は・・・、新技術で精錬された合金ですね」

「へー、普及してるんすか?」

「いえ、”ある事情”でごく一部でしか精錬されていないはずです」

「つまりここにある時点で物的証拠になる、っていう事っすね」

「その通り、素晴らしい成果です。全リンクス連邦国民を代表し感謝を述べさせて頂きたい」


国が動くと、ヴェイグはいたく喜び、部下に金属片を預け。

一刻でも早く、そして決して失ってはならないと、2人もの精鋭を護衛にして早馬を中央政府のほうまで飛ばす。

それで名無しの少年の目的は終了したらしい、土砂の上から飛び降りた。

アズキと茶歩丸もそれを追って。


「さて、これからどうするっすか?」

「野営するならそろそろ準備しねぇとな、どうすんだあんちゃん?」


どうせ返事はないので、また黙って着いていくことになるだろうが。

そう思っていた1人と1匹だったが、彼はその問いに顔を向け。


「・・・ランジベルだ、調べる事がある」

「え?」

「うお!? 返事があった!?」


一瞬何があったかと耳を疑ったアズキに。

驚きを隠さずこれはびっくりと叫ぶ茶歩丸。

さきほどのように必要な返事ではなかっただろうに、答えてくれるとは。

ただその次の言葉はないようで、そそくさと歩き出す少年。

その背中は、頼もしさや寂しさとはまた違う、不思議とどこか人懐っこさを感じさせて。


「かしこまりっす♪」

「あ~あ、なんかドツボにはまってる気がすんぜ・・・」


ただ少しだけ会話をしただけ、けれど、今までの6日間とは少しだけ違う。

またなにか話しかけたら声をかけてくれるだろうか? なんて期待をする自分にアズキは。


(・・・らしくないなぁ、私)


男の一挙一動に心を揺らすだなんて、自分ではないようだ、どうかしてる。

けれどそれが嫌ではない自分にも気がついていて。


(たまにはいいよね)


2人と1匹は、徒歩でランジベルへと向かうのだった。

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