表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/29

あとがきのようなもの

 僕たちの今後について少しだけ触れておきたい。

 ストレスをなくすという目的で魔王退治なんていうRPGの王道みたいなことを始めた僕らではあるけれど、その旅自体を語る必要があるとはとても思えないからだ。


 なぜならば、僕はいつだって僕にできることしかしないから。

 つまり――建築である。


 よほどのことがない限り僕らは魔王を打倒ないし説得するし。

 よほどのことがあったって、現役魔王であるマナフや、竜人族であるレヴィアの力があれば、たいていはどうにかできてしまうだろう。



 もちろん、未来のことはまったくわからない。

 語るほどの困難に直面する日だって来るだろう。



 大聖堂に行って、魔王の居所について調べる。

 判明した魔王の居場所に向かい、打倒や説得を試みる。

 聖剣回収なんかの役割も、ありうるかもしれない。


 王都に行くこともありうるだろう。

 仲間が増えることだってあるかもしれない。

 あるいは、もっと近い未来、先ほど整地したばかりのミノタウロスの意外なキャラクター性に度肝を抜かれたりもするだろう。



 ……それに都市開発をしたいしたいと言っている僕だが、その初志を貫徹できるとは限らない。

 彼女たちとの冒険は大変だった。

 たくさんの人に注目されるのは苦手だ。

 神様みたく崇められるのは、ガラじゃない。



 だけれど。

 大変だけれど楽しい冒険だったし。

 注目されるのはやっぱり苦手でも、多くの人の役に立てることに喜びも感じ始めているし。

 それに――見上げられるというのは緊張するし戸惑うし、どうして僕なんかがという遠慮めいた気持ちもないではないけれど、気持ちよさも、なくはないのだ。

 少しだけね。



 だからきっと、僕の気持ちはどんどんRPG攻略に寄っていくだろう。

 変化をするのは悪いことじゃない――なんてここで使うと自己弁護のようでしかないけれど。



 自己弁護したっていいじゃないか。

 僕は最初の思いを最期まで貫き通せるほど強くないのだから。



 きっとマナフには理解してもらえないこの弱さを、いつか彼女もわかる日が来るだろう。

 主演とか、脇役とか。

 強者とか、弱者とか。

 貴族とか、竜人族とか、魔王とか。

 そういうロールを貫き通して生きていけないのが、普通に普通の人間だと、僕は思う。


 だから僕はきっと、これからもRPGを拒否していくだろう。

 冒険を拒否しなくとも、役割を演じる遊びだけは、どうにもなじめない。

 竜人族とか、領主とか、魔王とか。

 そういう役割に徹して色々なものを我慢したり犠牲にしたりする彼女らの強さは、僕には遠く、まぶしいものだ。


 僕が彼女らの活躍を語るというのは、彼女らのそばであたふたする僕の醜態をさらすということでもある。




 だから僕はきっと、これ以上、魔王退治の旅について語らない。




 ……とまあ、今のところはそんな気持ちであることは事実なのだけれど。

 初志を貫徹できない僕の弱さは、先ほど僕自身が述べた通りである。



 いつかまた。

 僕が、どうにか自分のこなすべきロールを見つけて、それをプレイできているなとそこそこの自画自賛ができた時には、きっと語ることもありうるだろう。


 まあ、とは言うが、僕が僕の旅路を語りたがるかどうかは、僕にかかってはいないのである。

 僕が何かを決定するなどとおこがましい。

 いつだって僕は決定を彼女たちに任せてきたのだから。




「ねえ管理人マネージャー、何してるの?」




 マナフの声を聞いて、我に返る。

 ガタンゴトンと揺れる電車の中。

 窓の外には一面の星空。


 ……うん、らしくないことをつらつらと考えてしまった気がする。

 そういえば。

 一つ、拾っていないフラグを思い出した。


 僕はマナフに『なんでもない』と答える。

 そして、レヴィアの方を見た。


「レヴィア、一つ聞いていいかな?」


 彼女は、僕の隣で目を閉じていた。

 眠っているのかなと思ったが、そんなことはなかったらしい。

 片目を開けて、口を開く。


「なんだ、ご主人様」

「そういえば、竜人族の里に行く前、何か言いかけてなかった?」


 酒宴の時である。

 彼女は酔っ払いがくだを巻くように、つらつらと色々な話をした。

 だけれど、その中で一つだけ、言うのをやめた話があったのだ。


「この話は魔王を倒してからにしよう、だとかなんとか言ってた気がするんだけど」

「ああ、それか」


 弱ったようにうなる。

 何か触れてはいけない、忘れた方がいい話題だったのだろうか……?

 僕がためらっているとレヴィアは少し恥ずかしそうに言う。


「実はな、その、なんだ……いや、酒の勢いかどうかはわからんが、少し変なことを思ってしまったものでな……」

「変なこと?」

「まあその、結果としてそうそう変なことでもなかったとわかったのだが、今さら口にするのは恥ずかしいというか」

「恥ずかしいならいいかな」

「待て待て待て! どうしてご主人様はそう淡泊なのだ!? 聞いてくれ! 本当は聞いてほしいということだ!」


 本当は聞いて欲しいなら、そう言えばいいのに……

 マナフじゃないけど、そこで本音を偽る意味はわからないと言わざるを得ない。

 僕は仕方なく続きをうながすことにした。


「何?」

「……う、うむ。実はだな……ご主人様と出会った時、体に稲妻が走ったと言っただろう」

「言ったっけ……?」

「言ったかどうかはともかく、走ったのだ! それで、私はその当時、てっきり、竜人族である私が仕えるべき強大なる存在に出会った衝撃だと思っていたのだが――もう一つ、ありえそうな可能性を思いついてな」

「……はあ」

「つまりだ。あのご主人様と出会った時の衝撃は――運命の出会いというやつなのではないかと思ったのだ! ちょっとだけな!」

「……」


 運命の出会い。

 なんだろう、その言葉自体には数々の解釈の余地がある。

 だけれど、顔を赤らめながら、少女が男性に対し使う場合は、もう意味合いはたった一つきりしかないというか。



「ご主人様と私は、結ばれる運命の男女なのではないかと思ったのだ」



 恥ずかしそうに。

 でも、嬉しそうに。

 レヴィアはそんなことを言った。


 一方僕は。

 目を閉じて考えた末に、答える。


「いや、気のせいじゃないかな」

「いいや、気のせいではない!」


 断言されてしまった。

 うーん、しかし、運命ねえ。

 僕はあんまりそういうのピンとこないというか、吊り橋効果的なドキドキは僕だって感じていなかったわけでもないが、それは恋愛とまた違うものだろう。

 しかしレヴィアは熱っぽく語る。



「とにかく私は運命を感じた! だから、ご主人様を落とす! 私が落とすと言ったからには、何がなんでも落ちてもらうぞ。なぜならば、私は竜人族だからな!」



 なるほど。

 竜人族なら仕方ないな。


 ……ってなるかい!?

 と思うのだけれど、レヴィアの顔はもう恋に恋する乙女のそれで、僕がちょっとやそっとの説得を試みたところで心変わりをしそうにもなかった。


 ……旅に出て数十分。

 もはや語るべきこともないと思われていた僕らの旅路に、早くも語るべきことができそうな気配があった。

 長い前フリまでした僕が、まるで全力でフラグ建てに走っていたみたいだった。



 ……うむ。

 レヴィアや領主のおねーさんの発言を聞いて、この人たちは何てフラグばかり建てるのだろう、もう口を開かない方が平和なんじゃないかと思ったりもしたが、僕も結構、フラグを建てて生きているらしかった。


 まあ、しょうがない。

 僕は建築しかできないのだ。


 ただ厄介なことがあるとすれば。

 ただの建物と違って、レヴィアの意思は整地できないところぐらいだろうか。



 ……きっと終始こんな感じで、これからも僕らは旅をしていくのだろう。

 これから先を僕が語る可能性は低いみたいなことをさっき言ったが――


 また。

 近く大事件が起きたら、話の続きをさせてもらいたいと思う。

 どうせ彼女たちとの旅路には、色々な建設が欠かすことなくあると思うし。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ