27話
まばたきして。
目を開けたら燃えさかる街の中だった。
「ちょっと! ここにはあたしの弱者がいっぱいいるんだから! 勝手に襲わないでくれない!?」
マナフの叫びに釣られて、そちらを見る。
すると、彼女はすでに街をこんなんにした元凶……まあさかのぼってしまえば元凶はマナフ自身なのだけれど……と対峙していた。
それは、あまりにも巨大な化け物だった。
周辺にはまだ無事な家屋もあるのだけれど、そいつは二階建ての家屋より余裕ででかい。
二階建てのおうちを高さ五メートルぐらいとした場合、倍ぐらいあるそいつは十メートルはある計算になる。
冗談みたいな大きさのそいつは、牛のような顔をした、人のような体の生き物だ。
その特徴を持つ化け物には、元いた世界でゲームなどをした際にお目にかかったことがあった。
ミノタウロス。
牛頭の化け物。
理性のない、赤く濁りきった瞳がこちらを捉える。
頭部の大きさに比すれば、小さく、つぶらですらあるその目には、しかしこちらの呼吸さえ停止させかねない嫌な迫力があった。
「 !」
咆哮。
およそ言語で表わしえない叫び声を上げ、そいつはこちらに接近してくる。
同時に、マナフの影がゆらめき、中から無数の触手が出てきた。
切り絵のように薄っぺらい、真っ黒な触手だ。
それぞれの先端は刃物のように鋭角にカットされており、打ち鳴らされるたびに火花を散らしていた。
僕は気付く。
放っておけば、バトルが始まるのだと。
まあ、マナフは魔王だし、放っておいてもどうにかしそうではあるのだが……
RPG的な展開になった時点で自分が無力なのは痛感している。
このままだと戦闘の余波に巻きこまれて僕が死にかねない。
僕が死んだら。
僕は都市開発ができない。
整地する。
視線さえ合わせればカーソルはぴたりとミノタウロスにロックされ、意識を集中させればノータイムで整地が完了する。
『肉 を取得しました』のメッセージが見えるころには、ミノタウロスはこの世から跡形もなく消え去っていた。
……きっとまた、何らかの建物を建てれば、従業員として女子化して出てくるだろう。
サイクロプスと似たベクトルの行動だったので、そのキャラクター性に一抹の不安を覚えた。
「さすがあたしの管理人ね。女優に力仕事をさせないなんて、いい気遣いよ」
マナフが笑う。
気遣いのつもりはなく、どっちかと言えば自分のことだけ考えた自己防衛なのだが。
結果として、魔王である彼女を守ったことになってしまったようだった。
僕は苦笑する。
「それより、他の魔獣はいないのかな?」
「そうね。あんな雑魚が一匹だけとは思えないし、ちょっと見回ってくるわ」
言うが早いか、どぷん、と影に飲みこまれるようにマナフは消えた。
……放っておいても大丈夫だろう。
あの巨大なミノタウロスを『雑魚』と表現できるなら、他の魔獣にはまず負けまい。
フラグじゃなくてね。
それにしても――
なぜいきなり街が襲われたのか。
なぜ、マナフはあんなにも街を守るのにやる気を見せたのか。
「……まあ、いいか。どうにも街は無事で済みそうだし」
気にするほどのことでもないだろう。
最後に一波乱あったが、僕の冒険はようやく終わりだ。
これよりあとに危機はなく。
待っているのは、穏やかな都市開発だけである。
……だけであるといいなあ。
不吉な予感を覚える僕だった。




