表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/29

27話

 まばたきして。

 目を開けたら燃えさかる街の中だった。




「ちょっと! ここにはあたしの弱者エキストラがいっぱいいるんだから! 勝手に襲わないでくれない!?」




 マナフの叫びに釣られて、そちらを見る。

 すると、彼女はすでに街をこんなんにした元凶……まあさかのぼってしまえば元凶はマナフ自身なのだけれど……と対峙していた。



 それは、あまりにも巨大な化け物だった。



 周辺にはまだ無事な家屋もあるのだけれど、そいつは二階建ての家屋より余裕ででかい。

 二階建てのおうちを高さ五メートルぐらいとした場合、倍ぐらいあるそいつは十メートルはある計算になる。

 冗談みたいな大きさのそいつは、牛のような顔をした、人のような体の生き物だ。

 その特徴を持つ化け物には、元いた世界でゲームなどをした際にお目にかかったことがあった。


 ミノタウロス。

 牛頭の化け物。


 理性のない、赤く濁りきった瞳がこちらを捉える。

 頭部の大きさに比すれば、小さく、つぶらですらあるその目には、しかしこちらの呼吸さえ停止させかねない嫌な迫力があった。




「              !」




 咆哮。

 およそ言語で表わしえない叫び声を上げ、そいつはこちらに接近してくる。


 同時に、マナフの影がゆらめき、中から無数の触手が出てきた。

 切り絵のように薄っぺらい、真っ黒な触手だ。

 それぞれの先端は刃物のように鋭角にカットされており、打ち鳴らされるたびに火花を散らしていた。



 僕は気付く。

 放っておけば、バトルが始まるのだと。



 まあ、マナフは魔王だし、放っておいてもどうにかしそうではあるのだが……

 RPG的な展開になった時点で自分が無力なのは痛感している。

 このままだと戦闘の余波に巻きこまれて僕が死にかねない。


 僕が死んだら。

 僕は都市開発ができない。



 整地する。



 視線さえ合わせればカーソルはぴたりとミノタウロスにロックされ、意識を集中させればノータイムで整地が完了する。

『肉 を取得しました』のメッセージが見えるころには、ミノタウロスはこの世から跡形もなく消え去っていた。

 ……きっとまた、何らかの建物を建てれば、従業員として女子化して出てくるだろう。

 サイクロプスと似たベクトルの行動だったので、そのキャラクター性に一抹の不安を覚えた。



「さすがあたしの管理人マネージャーね。女優に力仕事をさせないなんて、いい気遣いよ」



 マナフが笑う。

 気遣いのつもりはなく、どっちかと言えば自分のことだけ考えた自己防衛なのだが。

 結果として、魔王である彼女を守ったことになってしまったようだった。

 僕は苦笑する。


「それより、他の魔獣はいないのかな?」

「そうね。あんな雑魚が一匹だけとは思えないし、ちょっと見回ってくるわ」


 言うが早いか、どぷん、と影に飲みこまれるようにマナフは消えた。

 ……放っておいても大丈夫だろう。

 あの巨大なミノタウロスを『雑魚』と表現できるなら、他の魔獣にはまず負けまい。

 フラグじゃなくてね。


 それにしても――

 なぜいきなり街が襲われたのか。

 なぜ、マナフはあんなにも街を守るのにやる気を見せたのか。


「……まあ、いいか。どうにも街は無事で済みそうだし」


 気にするほどのことでもないだろう。

 最後に一波乱あったが、僕の冒険はようやく終わりだ。


 これよりあとに危機はなく。

 待っているのは、穏やかな都市開発だけである。

 ……だけであるといいなあ。

 不吉な予感を覚える僕だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ