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22話

「……って、死んでないな?」



 確かに僕は、この胸に槍の一撃を受けた。

 それは絶命免れぬ衝撃を伴い、実際に心臓が綺麗に破裂したかと思ったほどだった。

 なのに、生きている。


 どういうことだと混乱していると――

 ちゃりん、という軽い音を立てて、足元に何かが落ちた。


 目の前には槍を構えた竜人族の女性――だというのに、僕はのんきに足元に落ちた何かを拾い上げた。

 ……指輪だ。

 なんで指輪……あ、そうだ、コレ、領主のおねーさんにもらったやつだ。


 どうやら槍の穂先がいい感じに指輪にはまって、僕の胸をチクリと刺す程度で止まったらしい。

 僕は愕然とした。

 領主のおねーさん、すごい丁寧に僕の死亡フラグを積み上げるなと思っていたが、その実、積み上げていたのは生存フラグだったのだ……!


 ナイスである。

 僕の領主のおねーさんに対する好感度が上昇した。

 でも結婚はもう少し考えさせてください。



「ご主人様!」



 レヴィアの声で現実に引き戻される。

 彼女は遅ればせながら――まあ、探していた人物が目の前に来たので無理もないことだ――僕の窮状をどうにかするべく、剣を抜いて黄金の竜……めいた女性の前に立ちふさがった。

 僕は声をかける。


「あー、大丈夫、大丈夫。ちょっとチクッとしたけど無事だから」


 ちなみに指輪も無事である。

 かなりの衝撃がかかったようだが、どんな素材でできているのだろうか。

 祖母の代から受け継がれているという話だったので、世界観を加味すればなんらかのマジックアイテムだという解釈もできるが……

 詳しい話は今度、帰るまでに忘れなかったら領主のおねーさんに聞こう。


 僕は黄金の竜を見る。

 彼女は、不思議そうに首をかしげた。


「ふむ、よほどの加護があると見えるな。我が槍は神話のドラゴンの鱗から削りだした一挺。この大きさで山一つぶんの重量と城壁並みの強度を誇ると言われている代物なのじゃが」

「ああ、そのせいか」


 山一つ分の重量。

 城壁並みの強度。

 ……そして、削りだしたということは、人の手による代物ということだ。

 つまり建造物と見なされる条件を軒並みそろえているということだろう。

 だから、例の青白い光を放つ立方体が、槍を見るたびロックオンされ、『整地する? ねえ整地するの?』とチカチカと光っているのだろう。

 竜人族の女性は反対側に首をかしげた。


「……ふぅむ。まあ、よい。同胞の仇、引き下がるわけにもいかん……竜人族は同胞を大事にするものじゃ。一人に対し二度撃つことになるとは思わなんだが、今一度、我が槍の威力を知れ」


 引き絞るように、槍を構えた。

 姿勢はビリヤードを思わせるが、重量感のケタがキューなどとは比べものにならない。

 ……戦闘方面に疎い僕でもわかる。

 次にあの槍が放たれれば、たぶん衝撃だけで三人まとめてぶっ飛ばされるだろう。

 槍と思ってはならない。アレはそういうカタチをしたミサイルと思った方がいい。


 個人が携行し、個人に向けるにはあまりにも過ぎた武力である。

 気になるワードもあったことだし。

 まずはあの槍をどうにかしなければ、話し合いにもならない。


「もう一度突かれちゃたまらないし、ちょっとそれ、平らにするよ」


 整地する。

 ジュッ、という音を立てて、いつものように、一瞬で槍は消え去った。


 ……ただし、取得素材がおかしい。

『バツザンガイセイ を取得しました』と視界の右下には表示された。

 あの槍は鉄でも石でも木でもなく、『バツザンガイセイ』というファンタジーなマテリアルとしか分類できないということだろうか。

 伝説の武器っぽいし、ちょっともったいないことをしたかなと思わなくもない。

 建造物の素材にもできなさそうだし……


 黄金の竜――竜人族は。

 槍が消え去った自分の手元を驚いたように見つめていた。


「……面妖な。何をした?」

「ちょっと整地を……あの、ところでさっき、気になることを言われた気がするんだけど、同胞の仇っていうのは? 僕を誰かと勘違いしてない? あなたの同胞をどうにかした憶えはないんだけれど……」

「勘違いはしておらん。そなたが周囲の塔を攻略し、というか、跡形もなく消滅させ我にたどり着いたことで、そなたが我が同胞に害を成したことは明白だ」


 周囲の塔。

 そして、整地した時に表示された『肉 を取得しました』のメッセージ。


 ……まさかと思いたいが、聞いてみなければならないだろう。

 意を決してたずねる。


「あの、つかぬことをお聞きしますけど、もしかして、この塔を囲んでた六つの塔にいたのって」

「そうだ。……姿は変わり果て、言葉や知恵を失い、魔獣となっていたが――周囲の塔を守っていたのは、我が同胞、竜人族だ」


 ため息交じりに言う。

 そして、自嘲するように口元をゆがめて、レヴィアを見る。


「ようこそ竜人族の里へ。おかえり、我が娘よ。――いずれ化け物となる母にとどめを刺しに、よくぞ帰った」

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