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19話

 さっそくファミレスをつぶして駅を建てる。



 駅とは言うが、都会のそれのように商業施設と一体になったものではない。

 思わせるのは寂びた田舎の駅だ。

 建物に入るとすぐ正面に改札があり、自動改札機のドアを越えないように身を乗り出せば、その先にはたった二車線だけのホームがある。




 そして。

 ホームには電車があった……!




「アレが移動手段か? ……なんというか、用意してくれたご主人様には申し訳ないが、ずいぶんと鈍重そうな……まあ、丈夫ではありそうだが」


 というのが、電車を初めて見たレヴィアの感想であった。

 むべなるかな。

 エンジンというものを知らない彼女たちでは、電車の重そうな外観はそのまま『遅そう』という印象につながるのだろう。

 想像もつくまい。あの巨大な鉄のカタマリが時速六十キロ超で走るなどということを。



 実際に乗ってみての感想が楽しみではあるが、乗る前に一つ、クリアしなければならない問題があった。

 切符だ。

 電車というのは切符を買わないと自動改札を通れない仕組みなのである。

 もちろん、非接触型ICカードという手段もあるが、僕は現在そのような便利アイテムを持ち合わせていない。


 ぐるりと見回し、券売機を発見する。

 ……だが、当然のように、乗車チケットは売られていなかった。


「……困ったな。切符が売ってないとなると、無賃乗車するしかないのか」


 そのようなつぶやきが出た時である。



「お客様、なんかお困りッスか」



 突如。

 すぐそばから、けだるげな声が聞こえてきた。


 驚いてそちらを見れば、そこにいたのは犬耳を生やした、小柄な女の子の駅員さんだった。

 ウォードッグの元気がない方である。

 僕は彼女の姿を見て、二重に驚く。


「サイクロプスじゃないだと!?」


 こういう時、最初に声をかけてくるのはサイクロプスの仕事だと思ったのだが……

 ウォードッグはいかにも面倒そうに頭の後ろを掻いて、あくびみたいな声で言う。


「あー、サイクロプスの姉さんは駅舎担当じゃないッス。自分が駅舎での接客対応でー、妹が車内販売担当でー、姉さんが……あー、まー、はい」


 絶対途中で面倒になったな……。

 まあこちらとしても、あのハイテンションに常時さらされるのは精神力を使うので、こうして最初に出てきたのがウォードッグでよかったという思いもある。

 というか、こっちのウォードッグと元気がいい方のウォードッグは姉妹なのか。

 サイクロプスの姉さんという呼び名から、三姉妹の可能性もあるのだが……そっちはただの呼称のような気がする。

 従業員の人間関係が気になるところだった――

 が、今は他に興味を持つべきことがある。


「えっと、実は券売機で切符が売ってなくて困ってたところなんだけど」

「あーはいはい。どこの駅までの切符をお求めッスか?」

「どこの駅……」

「目的の駅がわからなきゃ切符買いようがないッスよ」


 なるほど、そういうことか。

 よく考えれば当たり前の話だ。乗車券というのは駅から駅の間を電車で移動するために買う物であって、つまり最低二つは駅がないと販売できない。

 そして、駅は一つだけだ。……先にもう一つ駅を建てておく必要があるようだった。


「わかった、駅は後で建てるよ……ちなみに、一駅分の運賃はいくらぐらいになる?」

「何言ってるんスか。そんなん距離によるでしょ」


 なんか正論しか言われてない気がするが、まったくもってその通りである。

 運賃は距離や駅数に比例するものであり、駅ができないと決定しようがないのだ。

 先に駅を建てておく必要がありそうだ。



 僕らはウォードッグにいったん別れを告げて、駅の外に出た。

 そして、線路を建造していく。



 整地・建造の範囲は、僕が目視できる距離のようだった。

 そしてここは空の上である。遮るものはなく、かなり遠くまで僕の力は使えるだろう。


 実際に線路を見える限度いっぱいまで引いたが――よかった。それなりに距離は稼げたようだ。

 もし建造範囲が狭かったら、『走る電車に乗りながら素早く整地・建造を繰り返す』みたいな作業を強いられかねないところだった。

 それはある意味、徒歩より疲れそうなので一安心である。



 とりあえず、見える範囲いっぱいまで線路を引き、次の駅を建てた。



 駅舎に戻る。

 すると、券売機の前には先ほどと同じようにウォードッグがいた。



「いらっしゃいませーッス。券売機はこちらッスよ」



 知ってる。

 駅を建てたので値段が出ているかと思い、券売機を見た。

 そこには確かに切符があったが――値段は出ていない。

 無賃乗車は最後の手段にしたい僕は、ウォードッグに確認することにした。


「駅は建てたけど、どうにも値段がないみたいなんだ……これはどういうことだろう?」

「さあ? お金入れないでも押して切符が出たら、乗っていいってことじゃないッスか?」


 相変わらず商売する気がないようだ。

 しょうがないので、お金を入れずにボタンを押してみる。

 すると、切符は出てきた。



『この駅からそこそこ遠くの駅行き』



 ……駅名いい加減だな!

 という突っ込みは置いておいて、三人分の切符を購入……購入? する。

 まずはレヴィアに渡す。


「……これはアレだな。昨日泊まった施設の、部屋の鍵のようなものか?」

「まあだいたい用途は同じかな」


 次にマナフに渡そうとするが――

 受け取ろうとしなかった。

 僕は問いかける。


「どうしたの? これがないと電車に乗れないんだけど……」

「あたし、それ嫌よ。部屋の中に忘れてまた入れなくなりそうなんだもの。管理人マネージャーが持ってて」


 どうやら、昨晩ホテルの部屋から閉め出されたことで、キー関係の管理が嫌になったらしい。

 しょうがないので、言われた通り僕が管理しておこう。

 もっとも、無料なので、無くしたところで取り立てて問題はないだろうけれど。


「じゃあ、電車に乗ろうか。今から改札……そこの扉を通るけど、僕と同じようにしてね。あ、マナフもいったん持ってて」




 というわけで、改札に切符を通し、ホームへ。




 途中、自動改札から高速ではき出される切符にびっくりしたりもしたけれど、とりあえず止まっている電車に乗りこむことには成功した。


 電車の内部は、普通の、各駅停車系のそれだった。

 ボックス席などは存在せず、つり革と、壁に沿うように並んだ座席があるだけだ。

 数えてみたが十両編成である。……どうせ僕たちしか乗らないし、二両ぐらいでいいから、もうちょっと鉄材まけてくれないかなと思わなくもない。


 僕らはガラガラの電車の座席に、並んで座る。

 端っこがマナフ、その隣に僕、僕を挟んでマナフの反対側がレヴィアだ。

 マナフがはしゃいだような声で言う。


「この椅子気に入ったわ! あたしの楽屋に置いておいて!」


 ……この時代、この世界観の人からすれば、何気ない電車のシートですら、未知のふかふか高級椅子のような感触なのだろう。

 改めて文明レベルの差異を思い知る。

 同時に、つくづく世界観をぶっ壊しているなと自分の行為をやや反省した。

 いや、やめないけどね。

 などと考えつつ、電車に乗ってしばらくすると。




『お待たせいたしました。本日はRPG電鉄そこそこ遠くの駅行きをご利用いただきありがとうございます』




 聞き慣れた声でアナウンスが入る。

 やや鼻にかけたような声になっているが、間違いない。この声の主はサイクロプスだ。

 今回はどうやら運転士役らしい。

 ……一抹の不安がよぎらないでもないが、業務には真面目なので、信用することにする。



『この電車はそこそこ遠くの駅まで直通になります。各駅停車をご利用のお客様は、お間違えのないようお願いいたします』



 車掌さんのロールプレイをしているからだろう、普段の彼女より落ち着いた感じだ。

 まあ、電車は世界にこれ一つで、駅もこことそこそこ遠くの駅しかないので、路線や電車を間違えることはありえないのだけれど。



『なお、車内で不審な人物、または荷物を見かけた際は、お近くの車掌または駅員までお知らせくださいますようお願いいたします』



 ……不審物と言えば、ぶっちぎりでレヴィアの持ってる大剣なのだけれど。

 まあファンタジー的には普通だろうということで、スルーする。



『それでは発車いたします。ご乗車のお客様は、座席に座っていただくか、お近くのつり革、手すりにおつかまりください』



 プシーッ、という蒸気を噴き出すような例の音を立てて、扉が閉まる。

 そしてゆっくりと、電車は動き出した。

 レヴィアが反射的に僕につかまる。


「う、動いたぞ!?」

「……いや、だから、移動手段なんだってば」

「わ、わかっている! わかってはいるが、まさかこんな鉄の箱が動くなどと……どんどん速くなるではないか!? 大丈夫なのか!?」


 運転士がサイクロプスである。

 そして、ここは空の上だ。

 ……即答できない。加速しすぎて地上にダイブという未来も、ありえないでもないからだ。


 早まったかなと少しだけ後悔する。

 けれど――

 マナフが、子供がよくそうするように、座席に膝をついて窓の外を見ていた。


「ねえ管理人! 最高の舞台ね、ここ! あたしここで公演したいわ!」


 そう言って示す先を、僕も首をひねってながめる。



 一面の青空。

 遮るもののない、自然豊かな天空の景色がそこにあった。



 ……まあ、早まったかなという感想は、撤回しきることはできないけれど。

 空を見ながら電車の旅というのは、なかなかいいものだと思い直した。


 電車は進む。

 こうして僕らは時速六十キロ以上の速さで空に敷いたレールを使い、西の魔王の居場所へ向かっていく。

 このぶんならすぐに着くことだろう。

 答えが出る。

 結果が出る。

 レヴィアのルーツを探る旅は、こうして加速し――

 近く、終わりを迎えることになりそうだ。

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