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童話シリーズ

灰色の魔女と孤独な王妃様

掲載日:2015/06/22

昔々、ある所にとても悲しい思いをして、

灰色になってしまった魔女がいました。


彼女は頭からつま先まで灰色となってしまったので、

気持ちが揺さぶられることは無くなってしまいました。


魔女は独りでいることを好みました。

そうして、退屈な時間を静かに過ごすことになりました。

それでも彼女は腕利きの魔女だったので研究に没年し、時間をやり過ごしました。

長い長い間それを続けていると、魔女はすっかり誰にも負けないだけの知識を蓄えました。


その噂を聞きつけた王宮から仕えないかと誘いを受けました。

魔女は今までの生活に飽き飽きしていたので、気まぐれから王宮の招待を受けました。

王宮の人達は彼女が余りにに灰色だったので驚きました。

それでも着飾った魔女は美しく、礼儀を弁えていたので畏れられながらも受け入れられました。

やがて彼女の実力が分かると王妃専属の魔女にならないかと推薦を受けました。


彼女は悩みました。


華やかな社交生活と贅沢な暮しに、

魔女は段々飽き始めていたからです。


それでも彼女がその推薦を受けたのは王妃様が儚い方だったからです。

王妃様は外国から嫁いできた方で、中々国に馴染めませんでした。

彼女は美しく、そして孤独でした。

灰色の魔女でも味方になってあげたいと思わせる魅力が王妃にはありました。


王妃様はまだまだ年若く、まるで少女のような方でした。

無邪気な方で身分が違う魔女を姉の様に慕い、頼りました。

彼女は自分の義務を分かっていながらも、しばしば魔女に国に帰りたいと言うようになりました。

どんなに王妃様の願いであってもそれを叶える事はできません。

魔女はすっかり困ってしまいました。


王妃様はどうしても故郷が恋しくなって、やせ衰えて行きました。

彼女は親しい幼馴染や優しい両親と離れて嫁いできたのです。

まだ、子供の心の王妃にとっては耐えがたい事でした。

王様は父と娘よりも年の離れた王妃にどうしていいか分からず、豪華な贈り物を送り続けました。

魔女はうわ言の様に国に帰してほしいと言う彼女を必死に宥めました。

それでも王妃様は首を振り続けました。


彼女は王様に年若い愛人達が複数いることを知っていました。

貴族たちがまだ新しい慣習に馴染めない王妃を不安がっている事を知っていました。

やがて彼女は引き籠るようになりました。


これには王様はすっかり困り果ててしまいました。

王妃様が公務をしてくれないと、民が不安がるからです。

魔女は一生懸命彼女を励ましました。

そうすると王妃様は魔女の手を振り払い、貴方は本当の味方になってくれないと叫びました。

魔女は王妃様を精一杯支えていたつもりだったのでショックを受けました。

けれど、それだけでは足りなかったのです。


魔女は物凄く悩みました。

そこで初めて彼女は王妃様の事を大事に思っている自分に気が付きました。

全身を覆っていた灰色が王妃様のおけげで少しだけ色づいていたのです。


こんな事は魔女の長い人生でも初めてでした。


魔女はそれからも朝晩と悩みました。

そうしてある考えが浮かびました。


魔女はこう王様に進言しました。


王妃様が知っているのはこの国の知識だけ、実際に行った事があるのは殆ど王宮内のみ。

そんな国に身を置くのは不安になっても仕方がない。

日々忙しい魔女が時間をやりくりし、国のあちこちに行き、

その様子を魔法で見せれば気散じにもなるのではないかと、言いました。


王様は長考した上で、頷きました。

魔女が国の各地に行く為に空を飛ぶことが体の負担になる事を知っていたからです。

それでもそんな事が出来る魔法使いは灰色の魔女しかいませんでした。


魔女は美しい湖や深い森、高い丘に咲く沢山の花々を王妃様に魔法の鏡で見せました。

王妃様の国は、自然がとても豊かで美しかったのです。

魔女が白い花を摘んで贈ると王妃様は大層喜びました。

そうして、素朴な村々や華やかな都会の情景に、

そこを走り回る子供たちの様子を映した鏡を王妃様はじっと覗きこみました。


時には小さな子供達が病に倒れていると噂の王妃様に向けて、

拙い字で心配している旨の手紙を魔女に預けました。

魔女はそれが自らの事の様に嬉しく思いました。

そうして魔女をまた一つ温かい色が彩りました。


魔女は王妃様をお慰めしようと必死に美しい景色や温かい人々を探しました。

同時に目をそらしてはいけない醜い出来事も伝えました。

それは魔女にとっても酷く鮮やかな毎日でした。

こうして灰色は少しずつ無くなり、様々な色に染まって行きました。


王妃様は沢山の景色や人々を魔法で知りました。

最初はただ楽しみでしかなかったそれは、やがて彼女にとって別の意味を持ち始めました。

王妃様はやがて、国で最も美しいとされている海を見に行きたいと魔女に懇願しました。

魔女は渋りましたが、彼女がこれが最後のわがままだと言ったので折れました。

王妃様にもしもの事があったら、魔女は斬首されます。

それも覚悟の上でした。


こうして、魔女は王妃様に強固な結界を張ると二人で旅立ちました。

彼女らは空を飛び、あっという間に海の見える高い丘に着きました。

その美しい光景を王妃様は静かなまなざしで眺めました。

彼女は、海は私の故郷にないものだわ。と呟きました。

魔女はこの国を愛せますかと尋ねました。

王妃は一滴涙を零して、頷きました。


こうして、二人だけの旅は人知れずに終わりました。

魔女の最後の灰色の欠片もようやく静かに溶けていきました。


歴史には王妃様の事を王様を良く支えた賢妻として明記しています。

生まれた子供を慈しんだ姿は有名な絵画として残っています。

後に彼女は孤児院や病院の設立に尽力したことから聖母として国民に慕われました。

そこに至るまでの王妃の葛藤と苦悩はどこにも記載されていません。

それでもその影に寄り添った魔女がいたのは密やかなお伽噺として、今も市井に伝わっています。









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― 新着の感想 ―
[一言] 魔女のしたことは、歴史に残ってもいいくらいの功績なのに。 おとぎ話でしか語り継がれないのは残念です。 でもこの経験は、魔女にとっても王妃様にとっても、とてもいいものであったことはわかりました…
2015/06/24 21:04 退会済み
管理
[一言] 童話やおとぎ話にありがちな、教訓的な話ではなく ただ単に優しさがあったり、また色遣いの描写など 和邇さんらしくきれいな世界観が良く出ていたと思います。 最初は灰色でも良いんじゃない?って思…
[良い点] 魔女さんがだんだんと感情を取り戻してゆくところ。 これが男女の間柄だったら、ニヤニヤしつつ見守るところですが。 魔女さんは王妃様にとってかけがえのない友人になったのですね。 [気になる点]…
感想一覧
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