後編
僕が三番目に見つけたのは、緑だった。
森を通り抜けようとしたら、青々とした緑を見つけた。
僕は、早速話し掛けた。
「こんにちは。葉っぱさん。素敵な緑色だね! 僕に少し分けてくれないかな?」
葉っぱさんは風に吹かれながら、答えた。
「おいらを風から守ってくれたら、分けてあげるよ。あの風どもといったら、おい らを木から引き離そうとするんだ」
僕は、小鳥さんに泥さんを持ってくるように頼んだ。
小鳥さんは泥さんに触れた瞬間、茶色になってしまった。
……あれ?
慌てて水をかけても、茶色のまま。
小鳥さんが泥さんの色をもらっちゃった?
気をとりなおして、その小鳥さんに泥さんを運んでもらい、葉っぱさんを固定した。
満足気な葉っぱさんから緑色をもらった僕は、4羽のカラフルな小鳥さんたちを引き連れて歩きだした。
四番目……いや、五番目に見つけたのは、青色だった。
磯の香りがしてきた時、光を反射してキラキラ光る青を見た。
僕は、大きく息を吸ってから尋ねた。
「海さん。素敵な青色だね! 僕に少し分けてくれないかな?」
海さんは波を作りながら、答えた。
「そうだな……、我の汚れを取り除くことが出来たら、分けてやろう。人間共が散らかしていったごみが鬱陶しくてな」
僕は赤、黄、緑、茶、白の五羽の小鳥さんたちにお願いをして、ごみ拾いを始めた。
どれ位経っただろうか……?
視界に入るゴミは、あらかた拾い終えた。
ふと見上げると、いつの間にか、青色だった空が赤色に染まり始めていた。
……結構、頑張った。
僕が空を見上げ自分たちの仕事ぶりを誇っていると、海さんが言った。
「大分、肩が軽くなったぞ。お主らに頼んで良かった。……青色だったか、もって行くが良い」
満足気な声を聞いて、僕は思わず口を開いていた。
「今度は、友達と一緒に来るよ!」
僕の言葉に海さんは、少し驚いたようだったが、すぐに嬉しそうに返した。
「待っている。また、会おう」
僕は、海さんと別れて歩きだした。
六番目に見つけたのは、紫色だった。
辺りが暗くなり始めた時、僕は雅な紫を見た。
僕は、迷わず声をかけた。
「こんばんは、夜空さん。素敵な紫色だね! 僕に少し分けてくれないかな?」
夜空さんは、雲と戯れながら言った。
「一番星くんが灯るまで、私の話相手になってくれるなら良いわよ」
僕は夜空さんに言われるまま、ここに来るに至った経緯を語った。
代わりに夜空さんは、今まで見てきたものの中から選りすぐりの面白い話をしてくれた。
どの話も大変面白かった。
そのため、気が付いた時には一番星さんどころか、沢山の星さんがきらめいていた。
……あれ、紫色が無くなっている?
「あら、こんな時間になってしまったわ。ええと、紫色だったわね」
夜空さんはそういうと、先ほどの夜空さんと同じ色の球体を僕にくれた。
「こんなに話し込んでしまったから、少しおまけをしてあげるわ。ここから山が見えるわよね? あの山の頂上に、あなたに必要なものがきっとあるわ」
夜空さんは、僕を少しの間じっと見てから言った。
僕は、夜空さんから山へ視点を移した。
見たところ、山は結構高そうだ。
……でも、せっかく教えてくれたし、行こうかな。
僕は、夜空さんにお礼を言って歩きだした。
山の頂上付近まで行けるリフトがあったので、利用させてもらうことにした。
リフトを降りた所から、少し歩いた。
そういえば、肌寒いな……。
そんなことを考えていると、眩しさを感じた。
その時、僕の視界に入ったのは――
白。
僕と同じ……いや、それ以上かもしれない。
抜けるような、穢れ無き、白。
僕は思わず、声をかけた。
「君は、誰?」
僕の呟きへの返答は、すぐにあった。
「ボクは、雪だよ」
……雪?
聞いたことはあるけど、見たことはなかった。
気温の関係上、僕の住んでいる辺りには降らないようだ。
「キミこそ、だあれ?」
雪くんは、不思議そうに聞いてきた。
「僕は、ラテ。自分の色が欲しくて、旅に出たの」
僕が言うと、雪くんは更に不思議そうに僕を見た。
「キミには、立派な色があるじゃない!」
その時、ネーロの言葉が唐突に思い出された。
『ラテには……』
あれは、もしかして、雪くんと同じようなことを言おうとしていた?
……僕の白も、色と考えて良いのかな?
少し自信が出てきたので、雪くんに聞いて見ることにした。
「ねえ、雪くん。白は色だと思う?」
「もちろん! ボクの自慢の色だよ」
僕が尋ねると、雪くんは当然だと言わんばかりに言った。
僕は、今までの考え方が音をたてて崩れていくように感じた。
……そうか、もう、色が無いと寂しく思う必要はないんだね。
嬉しくなった僕は、とたんに家が恋しくなった。
「雪くん、ありがとう!」
「お役にたててなによりだよ」
僕が言うと、雪くんも嬉しそうに返した。
「キミさえ良ければ、また遊びにおいで」
雪くんの言葉に、僕はもう一度お礼を言って歩きだした。
「君たちは、白のほうが良かった?」
僕の後ろを飛んでいる、赤、黄、緑、茶、青、紫の小鳥さんたちに、ふと気になったので聞いてみた。
小鳥さんたちは、新しい色にもう誇りを持っているらしく、そろって首を横に振った。
気が付くと、見覚えのあるところに来ていた。
数日しか離れていなかったのに懐かしさを感じていると、白い小鳥さんが飛んで来た。
僕は、その小鳥さんの後ろに見える人影に言った。
「ただいま!」
これにて完結です。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。




