前編
とある町外れ。
一人の幼い少年が、美しい色の小鳥を眺めながら呟いた。
「……僕も、自分の色がほしいなぁ」
穏やかな風が、彼の真っ白な髪を揺らした。
そう、彼の体は髪の毛からつま先に至るまで真っ白。
おまけに、瞳まで白。
彼は自分の体に視線を移し、ため息をついた。
「どうして、僕には小鳥さんのような色がないのだろう?」
彼は、もう一度、小鳥の鮮やかな色を視界に収めた。
その時、小鳥の仲間の鳥が飛んで来た。
彼らは二言三言、会話をするように鳴くと、連れ立って飛び去ってしまった。
それを見た少年は、自分の周りの美しい色を一瞥し、自分も色が欲しいと思ったのだった。
「ラテ」
小鳥がいた場所を眺め、かなりの時間ぼーっとしていたようだ。
いつの間にか、友人が僕を呼びに来ていた。
一人暮らしの僕を心配してか、彼はなかなかの頻度で様子を見に来てくれている。
「ネーロ」
僕は彼の名前を口にしながら振り向いた。
途端、ネーロの黒髪が視界に入った。
「いいなぁ……」
思わず、僕は呟いていた。
当然のことながら、ネーロは僕の言葉に首を傾げている。
「何が?」
ネーロの疑問はごもっとも。
これだけ言われても混乱するだけだよね。
「ネーロは綺麗な黒があっていいなぁって思っただけ」
僕の言葉にネーロは、更に首を傾げた。
「いや、ラテには……」
ネーロの言葉を遮るタイミングで、名案が思い浮かんだ。
「そうだ。僕、皆から色を分けてもらってくるよ!」
ネーロの反応を待たずに、僕は駆け出した。
僕は自宅に着くと、うさぎ耳の付いた可愛らしいリュックサックと、長めの裾を捲ったコートを用意した。
うさぎさんは、薄い桃色。
コートは、淡い青色。
僕は、うさぎさんの中に、食料やサバイバルキットを詰め込んだ。
うさぎさんが荷物による変形で、情けない表情になり、僕を見つめる。
まるで、生き物のように変化したうさぎさんの表情は、皺を引っ張ることで元に戻った。
「さてと、行こう」
僕は、自分に言い聞かせる様に呟くと家の扉をくぐった。
僕は先ほどの町外れに向かった。
見るとそこには、小さな人影があった。
僕が近づくと、その人影はこちらを振り返った。
「ここに来ると思っていたよ」
ネーロは、少し得意気に僕を見た。
「まあね」
ここは町が一望できる、僕のお気に入りの場所だ。
「もう行くのか?」
ネーロは、僕の荷物を見て言った。
「うん」
思い立ったら吉日って言うしね。
「いつ、帰ってくるの?」
僕は少し考えてから答えた。
「僕が満足するまで、かな……」
僕の言葉に、ネーロは渋面になった。
「結局、いつか分からない、ということじゃないか」
「まあね」
僕は苦笑しながら、先ほどと同じ言葉を返した。
「どうして、こんなに楽観的なのさ……?」
心配性だなぁ……。
「僕には、小鳥さんがついているから大丈夫だよ」
「その、小鳥さんって?」
……あれ?
「言ってなかったっけ?」
途端に、ネーロは呆れ顔になった。
「えっとね、小鳥さんって言うのは……」
僕は少し慌てながらそう言って、右手を前につき出した。
そして、その右手に力を込めた。
「これのことだよ」
僕の右手から、真っ白の体をもった小鳥さんが現れた。
勿論、手品とかじゃないよ?
これは僕が使える力で、小鳥さん以外のものでも創れる。
だけど、効率が悪いから小鳥さん以外はめったに創らないけど。
「わあっ、可愛い!」
どうやらネーロにも気に入ってもらえたようだ。
「そうだ。ネーロに、この小鳥さんあげるよ」
小鳥さんをネーロの肩に乗せてあげた。
「じゃあ、そろそろ行くね!」
「……またね」
ネーロは、小鳥とじゃれながら言った。
僕は町全体を視界に収めてから、ネーロに手を振って歩き出した。
僕は気の向くままに歩き出した。
僕が、最初に見つけたのは、赤。
歩きながらふと上を見た時に、燃えるような赤を見た。
「いいなぁ。僕も太陽さんみたいな色が欲しいなぁ……」
思わず口にした時、僕は先ほどの会話を思い出した。
そうだ……!
「ねぇ、太陽さん。素敵な赤色だね! 僕にも少し分けてくれないかな?」
僕が声を張り上げると、太陽さんは瞬いてから答えた。
「君が俺に届くなら、分けてあげてもいいよ」
届くわけないと項垂れかけたが、僕はまた名案を思い付いた。
……いや、僕の小鳥さんを使えば!
僕は右手を前に出し、力を込めた。
僕は、現れた小鳥さんに指示を出した。
「太陽さんの赤色、分けてもらって来て」
言うが早いか、小鳥さんは太陽さんに向けて飛び出した。
太陽さんに近づいた小鳥さんは、砂漠が水を吸い上げるように赤に染まった。
赤くなった小鳥さんは火の鳥のようで、誇らしげに僕を見た。
僕は、太陽さんにお礼を言って歩きだした。
二番目に見つけたのは、黄色だった。
少し騒がしいと思っていたら、可愛らしい黄色を見つけた。
僕は早速、お願いしてみることにした。
「ひよこさん。素敵な黄色だね! 君の黄色を少し分けてくれないかな?」
尋ねると、ひよこさんは言った。
「あたしを捕まえられたら、良いわよ」
僕は右手から小鳥さんを出した。
「ひよこさんとお友達になってきて」
僕の言葉を聞いた途端小鳥さんはひよこさんを追いかけ始めた。
最初は逃げたひよこさんも、同じ鳥類ということもあってか直ぐに小鳥さんと遊びだした。
遊んでいる最中に黄色に染まった小鳥さんは、ひよこさんとそっくりだった。
僕は、ひよこさんにお礼を言って歩きだした。
前後編です。後編は、明日投稿します。




