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最後の召喚  作者:
本編
9/24

9.雷光の魔女って…誰の事よ(笑)

決勝は5人いっぺんに行う事になった。

端数が出て平等性に欠けるとか何とか理由を言っていたが……


ぶっちゃけ、一気に決着をつけたいらしい。

まあ、国王たちのスケジュールの関係もあるのだろう。


決勝は正午から行う事が発表され、朝早くから闘技場の周りは見物客で溢れかえっている。

私も昨日は食べられなかった出店を可能な限り回った。

もちろん、私一人で!

行く先々で声を掛けられ少ししか出店を廻れなかったのが残念だ。

変装すればよかった……


出店を物色した後、選手控室に行くと4人ともすでに揃っていた。

いつもよりちょっと空気が違ったが試合前だからだろう。


私が控室に入ると、いつものようにシルヴィが人数分の飲み物と食べ物を用意してくれた。


「ねえ、ジュリ」

「ん?」

私好みのお茶を楽しみつつ、お菓子に手を伸ばそうとした時声を掛けられた。

顔を上げると真剣な表情の4人の視線が集まっていた。

「どうしたの?みんな」

「ジュリ、あんた北国で魔獣討伐していたって本当?」

「…………ええ」

伸ばしていた手をひっこめ、私も真剣な表情を浮かべる。

「北国だけじゃないわよ。すべての国(・・・・・)で魔獣討伐をしていたわ」

神子召喚を行った理由は『急激に増えた魔獣の原因を探り、対処する事』が大部分を占めていた。

この世界の人間だけでは方法が見つからなかったためとされているが、見つからなかったじゃなくて見つけようとしなかったが正しい。

神殿奥に仕舞われていた古文書に魔獣に関する資料が山盛りだったらしい。

どの国も。

そしてどの国も神子がそれを指摘し、実行に移したことで魔獣の数は減り、魔獣が大人しく暮らせる森をつくり、結界を張って簡単に行き来できない様にしたことで一応の騒動(?)は終息した。


私はどの国でも昼間は神子の傍で神子の手伝いをし、夜は神子に内緒で魔獣討伐という生活を送っていた。


「じゃあ、ジュリ姉様なんですね。『雷光の魔女』って」

「は?なにそれ」

「どの国にも現れた謎の魔導士のことよ」

「謎の魔導士?」

首を傾げる私にシルヴィ達が教えてくれた。

魔獣討伐の時、無詠唱で雷系の魔術を操る謎の魔導士がいた。

だが、一緒に討伐に参加した魔導士達はその魔導士の事は一切語らずにいたという。


数ヵ月前、病死した北国出身の魔導士が死の間際、友人に語ったのが唯一の『雷光の魔女』に関する話だったという。



-・-・-・-・-・


彼女は詠唱短縮または無詠唱で雷系の魔術を操っていた。

次々に繰り出される雷の光で照らされた彼女は常に無表情だったがどことなく神秘的な雰囲気を纏っていた。

彼女が会得している詠唱短縮・無詠唱を自分も会得したいと彼女に頼み込んだが『命が惜しいのならやめときなさい』といって絶対に教えてくれなかった。

最初は出し惜しみかと思った。

だが、上層部が彼女の詠唱短絡・無詠唱の事を知ると、彼女一人を最前線に送り他の魔導士達が魔術を展開させるための時間稼ぎをさせるようになった。

その時、自分は彼女の言っていた意味を理解した。

彼女の魔力は人よりも膨大だ。

だけど、無限ではない。

たった一人で前線に立ち、半数以上の魔獣に攻撃を当て続けるということは魔力枯渇に繋がる。

自分たち魔導士は魔力が枯渇したら死ぬ。


無詠唱の方法を教えてほしいと懇願した時の彼女の表情を今でもはっきりと覚えている。

今にも泣きそうな、そして苦しそうな表情を浮かべていた。

結局彼女は誰にもその秘術を教えてくれなかった。

彼女は自分たちを守ってくれたのだ。

上層部から使い捨てにされない様に。


自分が魔獣討伐に参加する前までは多くの魔導士が命を落としていた。

魔術の展開が追い付かず、囮にされ見殺しにされていたという。

ある時を境に彼女がたった一人で前線に出るようになった。

彼女のおかげで自分たちは存分に魔術を展開させることが可能になり、かなり有利に魔獣討伐が進んでいた。

自分たちは彼女の事を『雷光の君』と密かに呼んでいた。

雷で次々と魔獣を貫き、自分たちを安全な場所に配置することで魔導士達の生存率を上げた彼女を称えた二つ名だ。

もちろん彼女に知られない様に細心の注意はしていた。

きっと知られたら『何変な名前つけているのよ!』と怒ったかもしれない。

それはそれで見たかったな。


最期にもう一度、『雷光の君』にお会いしたかった。

彼女は北国以外でもその秘術を誰にも教えなかった。

すべて一人で背負われていた。

自分は彼女の魔力を感知するたびに東・南・西国に周囲の反対を押し切って出かけた。

各国で見かけた彼女は出会った頃と変わらない姿に戻っていた(・・・・・)

最初に出会った頃から何年も経っているのに……成長した姿も見ていたのに……各国で出会った彼女は10代の少女だった。

最初は人違いかと思ったが魔力が彼女だと証明していた。

自分はその疑問を抱きつつも、彼女の秘術を盗もうと姿変えの術を使って近づいたかすぐにばれてしまった。

何度も粘りに粘ったが彼女は決して教えてくれなかった。

だが、西国を去る時に『そんなに知りたければ北国に残したノートを探しなさい。そのノートには私の研究したモノがすべて載っているから』そう言って元の世界に戻っていった。

自分はすぐに北国に戻り、彼女に縁の深い場所を隈なく探した。

隠された場所はすぐに見つかったが術が掛けられていた。

たぶん、封印の術を使っているのだろう。

あの術は術者が組み込んだ手順通りに術を解除しなければ中身をすべて消滅させてしまうため、一般的には使われない術の一つだ。

だけど、彼女なら使うだろう。

頑なに秘術の伝授を拒否していた彼女なら『うまく解除できればラッキー、できなければ諦めなさい』とでも言うだろう。

結局封印の術は解除できずにいる。


だが、彼女が元の世界に戻って数か月後、西国では独自で研究が始められたと西国で出会った友人から連絡があった。

西国は周辺国の中で一番魔獣の被害が少なかった国だった。

魔獣討伐はほんの数か月で終息を迎えた。

そして西国の王は魔術愛好家だ。

彼女が見せた無詠唱の魔術に興味を示し、魔導士協会に研究するように指示したという。

彼女から教わるのではなく、独自に研究するように指示されたのは西国王らしい。

本当はご自身が研究に携わりたいだろうに……


彼女は頑なにその秘術を広めなかったが、あと数年もすればそれが当たり前になるのかもしれない。

詠唱短縮・無詠唱が当たり前の世になったら彼女はどう思うだろうか。

「バカなことを」と呆れるか「やっと私に追いついたわね」と微笑むか。

それを見れないのが残念だ。


-・-・-・-・-・


「……それってアルヴィスタ様?」

「知っているのか?」

驚くトールに私は小さく頷いた。

「私が帰還する時必ず見送りに来てくれたからね。しかも大の大人が号泣しながら……」

「あ、そっちの方で覚えているの?」

呆れたようにティーカップを手にするシルヴィ。

「それだけじゃないわよ。しつこいくらいに秘術を教えてくれって言ってきたからね。そのたびに課題を与えてそれが終わったらねと逃げていたのよね~」

「アルヴィスタ様は北国ではとても優秀な魔導士として国から表彰されたことありますよ」

「それはきっとジュリさんの課題のお蔭じゃない?」

トルディアの言葉にファルも頷いた。

「アルヴィスタ様……亡くなったのね」

父と同じ年くらいの人で私を娘のように可愛がってくれた人。

私が異世界人であると知っても距離を置かなかった人。

どの国にも私を追ってきた人。

この世界で信じる事が出来ると思わせてくれた人。

「でも『雷光の君』はないわね。雷以外にも炎や氷なども扱っていたのに……」

くすりと笑う私に4人は顔を見合わせていた。

「そっか、あのノートの在り処を突き止めていたのか。解除の方法……私の名前を唱えれば西国より先に研究が始まっていたかもね」

しんみりと新しく注いでもらったお茶を頂く。

美味しいはずのお茶が少し苦く感じた。



「で、話を戻すわよ」

シルヴィの声はアルヴィスタ様の事を思い出していた私を現実に引き戻した。

「なに?」

「なぜ、神子の片腕と呼ばれていたあなたが魔獣討伐なんてやっていたのよ」

「そこに戻るの?……なんで今更?」

ため息をつく私に、彼等は目を吊り上げて

「「「「今更じゃない!なんで教えてくれなかった!」」」」

と声を荒げた。

「神子様の周辺に異分子は必要なかったってことよ」

「どういう意味?」

普段よりも低い声を出すシルヴィ。

「神殿と王家が必要としていたのは『神子』のみ。それ以外の異世界人は『神子』を惑わす異分子。だから彼らは『神子』の前では私にも優しい言葉を掛けたけど、腹の中は私の抹殺を企てていたわ。魔獣討伐もその一つ。もし、私が命を落としても嘘を並べて『神子』を納得させることくらいあの人たちは可能だしね」

肩を竦めて話せば彼らは押し黙った。

魔獣討伐が行われていた時期の上層部のメンツでも思い浮かべているのだろう。

苦虫をかみつぶしたような顔を浮かべている。


重苦しい雰囲気が控室に漂った。

しかし、その重苦しい雰囲気を取っ払ったのは西国の王だった。

護衛も付けずドアをノックすることもなくいきなり入ってきたのだ。

驚きで固まっていた私たちを見た西国の王は私に視線を定めると勢いよく近づいてきた。

「ジュリ!昨日の戦いは素晴らしかった!」

「あ、ありがとうございます」

私の両手を取りぶんぶんと振る西国の王。

「ジュリは絵心がないと申していたが、昨日の【幻影】はジュリにそっくりだったな!」

そう、私は絵が下手である。

だから本来【幻影】は苦手なのだ。

【幻影】は術者が描いた姿で出現させるからだ。

まあ、四苦八苦しながら等身大の姿見に自分の姿を映して、なんとかあの【幻影】を作り上げたのだ。

一度作り上げた【幻影】の姿は術式に組込むので術式を変えない限り同じ姿を出現させることが可能だからね。

「それに、剣を交わしながら魔法陣を描くとは!ジュリは本当に研究のし甲斐がある!」

「研究対象ですか私は……」

苦笑いを浮かべる私に西国の王は手を離すとじーっと私を見つめた。

「ジュリ、顔色が悪いが大丈夫か?」

「え?」

「ほんのわずかだ魔力が揺らいでいる」

心配そうに顔を覗き込んでくる西国の王。

「あー、大丈夫です。さっき、北国で知り合った友人の死を知らされたのでそのショックのせいでしょう」

「……そうか、ムリはするなよ」

「大丈夫です。試合までまだ時間はあるでしょ?それまでには気分も切り替わります」

にっこりと笑みを浮かべる私に西国の王は苦笑した。

「ジュリは無理をしていても無理とは絶対に言わないからな」

「そうでしょうか?」

「そうだよ。『動かない神子』の目となり手となり足となり……いつも走り回っていた。いつか倒れるんじゃないかと心配していたんだぞ」

「……ありがとございます」

「試合が終わったら、ゆっくり話をしよう。今、わが国で研究している詠唱短縮・詠唱破棄について意見を聞きたい。あと不可視魔法陣のことも……」

「本当に陛下は魔術がお好きですね」

「ああ、四六時中研究に明け暮れていたいが、王位に就いたからには王の仕事が優先だから研究は当分無理だな。俺が王位を退いた時、どれほど研究が進んでいるのか楽しみでもあるが、自分が携われないのが悔しいな」

本当に悔しそうに呟く西国の王。

「陛下こそ、あまり無理せず宰相殿たちに助けをお求めください。彼等なら喜んで手を差し伸べてくれますよ」

「…………ジュリだけだよ」

「え?」

「周りを頼れというのはジュリだけだ。でもね、ジュリ」

真剣なまなざしを私に向ける西国王。

「周りの手を振り払って我武者羅に突き進んでいたジュリにだけは言われたくない言葉だよ」

「…………」

「でも、忠告は聞き入れる。…………今日の試合、楽しみにしている」

「……はい」

その後、トールたちにも声を掛け、西国の王は控室を後にした。


アルヴィスタが魔獣討伐に参加するようになったのはジュリから詠唱短縮の術を伝授された彼らが亡くなった後です。


予想以上に過酷な過去を持つジュリ(翼)。

よく、彼女は精神を壊さなかったなと……私だったら死んでるわ(苦笑)


あと1話で終わ……れない。

次こそは決勝戦バトル!(でも描写は少ない)

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