8.何事にも例外はあります。
審判の開始の合図と共に、私の体を見えない膜で包み込み、大きな魔法陣を目の前で展開させる。
魔法陣の出現に観客からは歓声が、ディーター様は苦笑を浮かべる。
実はディーター様は魔術が苦手。
幼い頃は優秀な魔導士になるだろうと言われていたが、魔力が暴走して生死の境をさまよった事があるとかで、魔力を封じている。
それ以降は剣に生きる!といって騎士団に入ったらしい。
魔術が苦手な人がなんで魔術楽しい♪と公言していた私に言い寄ってくるのかわからないんだよね。
ディーター様は私が展開した魔法陣の一部を剣で切り裂いた。
剣で切り付けられた部分から魔法陣が崩壊していく。
魔導士と騎士・兵士たちとの戦いは、魔導士の方が有利と思われがちだが違う。
この世界では魔法陣と呪文の詠唱がワンセットだ。
呪文の詠唱が完了する前に魔法陣を傷つければ、魔術は発動しない。
基本、魔導士は魔法陣を相手から見えない所で展開させる。
詠唱が完了するまで魔法陣を傷つけられないようにするためだ。
今回の私のように誰の目にも見える様に展開するバカはいない。
魔術に詳しくなくても魔法陣を傷つければ無効化できるという事は小さい子でも知っていることである。
だが、私はあえて彼の目の前で魔法陣を展開させた。
彼は知らないから。
私が魔法陣も呪文の詠唱も必要としない、型破りの魔導士であることを。
これはいわば観客を楽しませるパフォーマンスの一種だ。
杖を振り、彼の背後に瞬間移動する。
「後ろががら空きですよ、ベルツ様」
彼の背後から風の攻撃魔法を放つ。
ディーター様は風の勢いで吹き飛ばされたが受け身の姿勢を取り体勢を整え、私と向き合う。
ディーター様は瞬時に間合いを詰める。
私はそれをステップを踏む様に躱す。
傍から見たらディーター様が押して、私が押されている様に見えるだろう。
杖でディーター様の剣を受け止めると周囲から歓声が上がる。
「ベルツ様は魔術がお嫌いなのになぜ私に拘るのです?」
杖を払い、剣を押しのけ互いに数歩下り間合いを空ける。
「以前のようにディーターと呼んでくれないのか?……魔術の事は関係ない。俺は君自身に惹かれているんだ」
「北国にいた頃はベルツ姓が何人もおりましたので便宜上、名前を呼んでいただけにすぎません。……10も年下の小娘に?」
「それは仕方ないな。我がベルツ家は兄弟も多いし、代々王家に仕えている親族も多いからな。……ああ、どうしようもなく惹かれた。自分だけのモノにし俺だけを見続けてほしいと思うほどにね」
ディーター様が剣を構えるのを視界に捉えながら私は杖の先で地面をトンと突いた。
次の瞬間に新たな魔法陣が地面に浮かぶ。
「なっ!?」
驚きを隠せないディーター様と観客。
「魔法陣はこうやって描くこともできるんですよ」
私はディーター様の剣を交わしていると見せかけて略式の魔法陣を描いていたのだ。
「チェックメイトです」
私は魔法陣から数センチほど浮き上がり、杖を軽く振る。
私の足が離れた瞬間、魔法陣からいくつもの蔦が出現し、ディーター様の体を拘束した。
その瞬間、ディーター様を絡めとっていた蔦が炎に包まれた。
「え?」
一瞬の事で判断を鈍らせた私の首元にディーター様の剣の先が当たった。
「俺は魔術は苦手だけど、全く扱えないわけじゃないんだよ。これでも幼少時は天才魔導士と言われていたんだからね」
にっこりと笑顔を浮かべるディーター様。
迂闊だった。
魔力封じを行っているから魔術は使えないと油断していた。
ディーター様の剣の柄の先に魔石が組み込まれていたことを見落としていたなんて……
魔石とは魔法陣や呪文詠唱をせずとも、持ち主の念だけで魔術を発動させることが出来る魔力が含まれた石である。
ただし、魔石が主を選ぶと言われている程に扱いが難しく使いこなせる人は少ない。
西国で多く採掘されているがもっぱら装飾品として扱われることが多い。
石の色によって属性が変わるが、ディーター様は4種類の魔石を装飾のように剣の柄に嵌め込めていた。
「さあ、ジュリ。チェックメイトだ」
得意げに宣言するディーター様だがまだ試合は終わりじゃない。
私は杖で彼の剣を薙ぎ払うとにっこりと彼が散々可愛いだの可憐だのと歯の浮く台詞で褒めた笑顔を浮かべる。
「さすが、ベルツ様。魔石を使うとは……でも、勝利は私のモノ。偽物を見破れないあなたに勝ち目はありません」
「え?」
『後ろががら空きですよ。ディーター様』
彼の後ろに突然現れた『私』がディーター様に軽い電撃を与え、気絶させた。
突如現れたもう一人の『私』に会場は大興奮。
一体どうなっているんだ!?
なぜ、二人いるんだ!?
反則じゃないないのか!?
などの声が上がり、審判も判断に困ったようだ。
「彼女は私の【幻影】よ」
私がそう告げると、今までディーター様と戦っていた『私』の姿が揺らめき、霧のように消えた。
「えーっと、つまり、ジュリ様は【幻影】で戦っていたと?」
「そうよ。【幻影】を出現させてからは私はずっと上にいたからね」
審判の質問に私は空を指す。
「う……え?上空ですか?」
「そう、この上空にずっといたわよ。誰も気づいていなかったみたいだけど。最初の魔法陣を展開させた時に瞬時に【幻影】と入れ替わったの。私自身に不可視の魔術を掛けて、上から【幻影】を操ってベルツ様と試合をしていたというわけ。これって反則になるの?【幻影】の使用は許可されているわよね?それともその場に術者の姿がないと失格?」
審判に問いかけると、審判は貴賓席を振り返り、中央国の国王がOKのサインを出したことにほっと胸をなでおろしたようだ。
「いえ、【幻影】を出現させ術者が姿を隠すことは戦場ではよくある事ですし、【幻影】は魔導士の技の一つですので、反則ではありません。よって勝者はジュリ=ドウモトとします!」
審判の宣言に会場は再び歓声が響き渡った。
***
最終決戦は翌日行われる事となった。
日が暮れて、会場に昼間のような明りを灯すことが不可能だからである。
予定では一日で終わるはずだったが、予想以上の出場者の人数(飛び込み参加もあったらしい)と時間無制限にしたせいで時間がずれ込んだようだ。
だから、時間制限有りで行えって言ったんだよ。
「納得いかない」
医務室で目を覚ましたディーター様が判定に不服を申し立てたそうだ。
もちろん、まるっと無視されているけど。
「なにがです?」
私は不機嫌な表情を隠さずにいる。
明日に備えて早めに休む様にという神子様方のあたたか~いお言葉を頂いて部屋で休息していた時に、この目の前の男の部下と名乗る者に無理やりここまで連れてこられたのだ。
部下の人は本当に申し訳なさそうにしていたので怒りを目の前の男に向けているのだ。
「なぜ、魔法陣や呪文の詠唱もなしに……」
「何事にも例外はあります。私は魔法陣も呪文の詠唱を必要としない魔導士の一人です」
「え?」
腕を組み、ベッドに腰掛けている男を見下ろす。
「あなたも魔術を齧ったことがあるのならわかるでしょ。魔法陣を展開させて呪文を詠唱し終わるまでにどれほどの時間がかかるか」
「……」
「ベルツ様はご存じないと思いますが、私は北国にいた時、昼は神子様のお相手をしたり、魔導士協会の改革のお手伝いをしたりしていましたが、夜は下っ端魔導士として魔獣討伐に駆り出されていたのです」
「え?どういうことだ?」
そうなのよね。
神子のおまけとされていた私の扱いに困った王宮組と神殿組の上層部が存分に扱き使ってくれたのよね。
で、私が魔獣討伐に参加させられていたことは神子様とその周りには極秘にされていた。
だからディーター様ももちろん知らなかったことだ。
「魔導士の欠点は呪文の詠唱が長い事です。魔獣討伐が行われていた時、詠唱が間に合わず命を落とした魔導士が何人いるか知っていますか?」
魔獣討伐は魔導士が魔術で魔獣を弱らせ、騎士や兵士がとどめを刺すという連携で行われていた。
だが、魔導士が術を発動させる前に魔獣に感づかれ、囮にされた魔導士が大勢いた。
その頃はまだ治癒魔術を扱える人はいなかったに等しかった。
一応、私は扱えたけど、全員を見ることは不可能だった。
救える命をみすみす失った事も一度や二度じゃない。
魔獣討伐後、治癒魔術の適性を持つ者を徹底的に指導するよう上層部に願い出た。
だが、結果は攻撃魔法の勢力を上げることを優先しろという事だった。
上層部の人間は前線に出ている人達を人とは思っていなかったのだ。
取り換えが簡単に出来る人形とでも思っていたのだろう。
「…………」
黙るディーター様を横目に私は話を続けた。
「ファルと同い年の子供から私の魔術の師であったオーディリア様のような高齢の方まで、何百人という魔導士が命を落しました。オーディリア様は常々言っていました『魔術の発動を短縮できれば……』と。だから私は師の悲願を叶えようと研究を重ね、詠唱短縮または詠唱破棄を編み出した。だけど、協会が認めなかった。何故だかわかりますか?」
「…………」
「自分たちにできなかったことを異世界の人間がやり遂げたからですよ」
「!!」
「魔獣討伐にも有効に働きかけることが出来る詠唱短縮・詠唱破棄を上層部は認めなかった。上層部に認められない術は公には指導することも使う事もできない。それでも、こっそりと一部の人たちには教えましたが、彼らが詠唱短縮を取得すると上層部はこれはいいと彼らを魔獣討伐の前線に送り、魔力枯渇になるまで魔術を使わせた。私がそのことに気付き、現場に赴いた時には手遅れだった。魔力枯渇により彼らは命を落としていました。私が彼らに詠唱短縮など教えなければ彼らはまだ生きていたかもしれない。私は自分自身を許せないし、詠唱短縮を認めないと言いながらも利用した上層部が許せない。……私があなたの求婚を断り続けた理由はもうお気づきですね」
私の言葉にディーター様は視線を逸らし俯いた。
魔導士協会のトップに胡坐をかいていたのはディーター様の実家であるベルツ家。
ディーター様は騎士としての道を歩んでいたが、ベルツ家は魔導士一族。
当時の協会長は彼のお祖父さんだった。
他人に厳しく、身内には激甘だった。
能力もないのに重要な地位に身内を付け、仕事はその部下にすべて押し付けるような人だった。
彼等は自分は動きもしないのに、功績は自分のモノにするのに長けていた。
下っ端魔導士の功績はすべて安全な場所で見当はずれな指示を出していた彼等(能無し共)のモノになっていた。
私は詠唱短縮や詠唱破棄、魔方陣の不可視方法など教えることを止めた。
また私が殺してしまった彼らのような事は二度とさせないためだ。
一応、帰還するという話が出た時に、やり方等を書いたノートを私が使っていた部屋に隠しておいたが、まだ誰にも見つかっていない。(仕掛けておいた封印の術が解かれた形跡がないから)
どうでもいい、創作ノートは見つけるのに、なぜ国の発展につながる方のノートは見つけられないんだよ。
「魔法陣の不可視や呪文の詠唱短縮は今、西国で研究がすすめられています。7年前、私がたどった道を西国の魔導士達は今、必死になって自力で辿っています。あと数年もすればそれが当たり前になるかもしれませんね」
私は腕組みを解き、ディーター様に背を向ける。
「今日の試合の判断は主催者である中央国の国王陛下が下しました。判定は覆りません。『神子への宣誓』を忘れないでください。ディーター様」
後ろ手にドアを閉める時、彼が私の名を呼んだが聞こえないふりをした。
どうしてこうなるー!
なぜ隠し設定が出てくるの…(`Д´)
と一人脳内突っ込み中……
あ、サブタイトルと内容があってないのは重々承知です。
サブタイトル考えるの面d…oh!((゜o゜#(C=(--;)バキッ!
ブックマーク500件越えありがとうございます。
あと少しお付き合いください(*- -)(*_ _)ペコリ