7.交流試合開始!……出来レースじゃありません(たぶん)
-2か月後-
雲一つない青空が広がる闘技場では、大歓声が上がっている。
中央国国王主催の交流試合が行われているのである。
観覧は自由なので多くの民が闘技場に集まっている。
年頃の乙女たちは好みの異性を見つけては黄色い声援を出している。
商魂たくましい商人たちは出店を出したりとちょっとしたお祭り騒ぎ。
出場者じゃなければ出店を端から端まで梯子したかった……
交流試合は騎士・兵士・魔導士ごっちゃまぜのトーナメント方式。
ルールは相手を死なせない事。
治癒魔術で治せるギリギリまでならOKという時間無制限のデスマッチ。
せめて時間制限付けろよと抗議したが無視された。
へーへー
私の意見は一つも通らないのかよ……ふんっ。
私は早々に予選をクリア。
ほとんど瞬殺で相手を伸した。
うん、たまりにたまった鬱憤を思う存分晴らそうと思ってね。
でもまだ3割程度。
まだまだ暴れたりない。
コマを進める毎に畏怖の視線を送られてくるが……知ったこっちゃない。
魔獣と死闘を繰り広げた事がある私をなめんなよ!
うん、北国と東国にいた頃、上層部の能無したちのせいで底辺にいた魔導士・騎士・兵士たちは何度も死線を潜り抜けてきたんだよ。
神子が召喚された大きな要因は大量に発生した魔獣の原因を探る事だったんだよね。
それ以外にもいろいろ思惑はあったみたいだけど私は知らない。
というか知りたくもないし、知ったからと言ってどうにかなるわけでもない。
指示を出す能無しは安全な王宮内で厳重な警備の中ぐだぐだと明後日な方向の指示を出しまくるだけ。
下っ端の魔導士・騎士・兵士たちは右往左往しながらも魔獣討伐を完遂させた。
まあ、ある意味、能無したちが前線に出ていたら被害が拡大していたかと思うとこれはこれでよかったのかもしれない。
確実に能無しと下っ端魔導士たちの実力に差が開いていった。
その後の魔導士協会内部改革の一環として、ふんぞり返っていた奴らを鍛錬だと言って【幻影】で作った魔獣と戦わせようとしたら一目散に逃げかえってきた時は呆れて何も言えなかった。
一戦も交えずに魔獣の姿を見た途端に前線放棄って……
え?能無したちのその後?
魔導士たちに関して言えば、二者択一で9割がた魔導士の資格を返上し、普通の貴族として暮らしているはず。
残りの1割は再教育を受け、それなりの地位に這い登ったとか……
騎士や兵士の方は知らないが同じような状況じゃない?
「ジュリ~!決勝トーナメント進出おめでとう!」
予選と決勝の間の休憩時間に神子様方が激励(?)に訪れた。
「ジュリの対戦は一瞬で終わってつまらないわ」
「相変わらず容赦ないわね」
真理ちゃん、海ちゃん、奏ちゃんの順に声を掛けてきた。
出場者控室に突然現れた神子様方に他の出場者は委縮している。
「あー、ここではなんだから外に出る?」
「その必要はないわ。私たちがいるからって萎縮するようならいざ本番のとき困るじゃない」
きっぱりと『護衛対象者を前に委縮して力を出せない奴はいらない』と告げるのは瑠佳ちゃん。
まあね、今回出場しているのは腕に自信のある近衛騎士や、宮廷魔導士が主だからね。
末端の兵士たちは軒並み予選落ちしている。
「私たちの国の人たちも順調に勝ち上がっているし、決勝が楽しみね」
にやりと笑う神子様方に私は大きく息を吐く。
「この交流試合を使って魔導士や騎士たちの査定なんてしてないでしょうね」
私の言葉に数人の騎士や魔導士たちが振り返った。
「あら、ばれちゃった?」
おどける瑠佳ちゃん達だが、視線は自分の国の騎士や魔導士たちを貫いている。
うわ~瑠佳ちゃん達に睨まれている騎士たち冷や汗もんだろうな~。
「この試合に出るということは国の名を背負っているんですもの。無様な試合は出来ないはずよ」
「そうよね。自国では優秀かもしれないけど……ねぇ?」
「たまにはこういう交流戦もいいわね~」
あー、神子様方。
そういう話は別室でお願いいたします。
周囲の空気がガラリと変わっちゃったじゃないですか。
……たぶん、わざとだな。
「そういえば、ジュリ」
「ん?」
「ジュリが負けたら何でも言うこと聞くって言ったんだって?」
「……私が出来る範囲以内ならね」
「なるほど、それでファル君が苦手な水属性の訓練を他の人達から受けていたわけか」
「あら、うちのトルディアも属性について図書室で調べまくっていたわよ」
「トールもいつにも増して鍛錬していたわね」
「シルヴィはいつも通りだったけど、そういえば、何かを取り寄せていたわね……」
神子様方の言葉にちょっと危険信号を感知した。
マジでやらなきゃマズイかも。
まあでも、臨機応変、行き当たりばったりで行きますか!
ぐだぐだ悩むのは私の性に合わないからな!
うん、何とかなる!
最大限頑張るよ。
神子様方はその後すぐに観覧席に戻られた。
神子たちが去った控室はもう、殺伐としていた。
神子たちが来る前までは和気藹々としていた雰囲気が一転、殺気まみれですよ。
私は早々に控室を後にし、競技場に向かった。
今回の試合は5つのグループに別れている。
予想以上に出場希望者が殺到したらしい。
私とファル達が予選で当らない様に神子様方が裏工作したようだ。
各グループの上位2名が決勝に進める。
私がいた第5グループは私と中央国の将軍。
ファルがいる第1グループはファルと北国の近衛騎士隊長(国王の護衛として中央国に来ていた)
トルディアがいる第2グループはトルディアと東国の軍団長補佐(上記同様)
シルヴィがいる第3グループはシルヴィと南国の宮廷魔導士(上記同様)
トールがいる第4グループはトールと西国の外交官(国王の幼馴染で暴走ストッパーとして同行してきていた)
あー、各国ごとにグループ分けされていたのかというくらい綺麗に国別になりました。
実際は、ほとんどの参加者が中央国の人のはずなんだけどね。
面白そうだからと各国の国王の護衛達も参加を余儀なくされたんだろうな。
神子様と国王のダブルコンボ『神子様のお願い』&『国王の命令』で。
ご愁傷様です(合掌)
あ、たぶん西国の国王は自分が出場したかったんだろうな。
それを幼馴染でありストッパー役(西国の民全員が周知している)の彼が渋々出場したんだろうな。
決勝戦の対戦カードはくじ引きで決めた。
たぶん、これまた神子様の裏工作があったなとわかるほどわかりやすい対戦カードとなった。
私 VS 北国近衛騎士隊長
ファル VS 南国宮廷魔導士
トルディア VS 中央国将軍
トール VS 東国軍団長補佐
シルヴィ VS 西国外交官
対戦の順番はファル、トルディア、トール、シルヴィ、私の順である。
この順番はあみだくじで決めた。
ファルと南国の宮廷魔導士の対決は一時南国の宮廷魔導士が優勢だったが、ほんの少しの隙を見逃さなかったファルの逆転勝ち。
トルディアと中央国の将軍との対決はトルディアが【幻影】で将軍を翻弄して圧勝。
トールと東国軍団長補佐の対決は魔術は一切使わない剣と体術のみの戦いだった。
一進一退の攻防戦を繰り広げていたが、スタミナの差でトールが勝利した。
シルヴィと西国の外交官の対決は一言でいうと派手だった。
互いに攻撃魔術を駆使するのだが、それぞれ相殺する魔術を用いていたため、魔術ショーのような盛り上がりを見せた。
観客も本人たちもこれが試合だということを途中忘れていたようだ。
最終的には西国の外交官が手持ちの魔術を使い果たしたとかで降参宣言して決着がついた。
その後、二人がなにやら結託して私の方をチラチラ見ていたのが少々気になるが……
さて、私の対戦相手だが……国王が来ると知った時から予想はしていたが、やはり彼だったか。
瑠佳ちゃんが神子として奮闘していた時の護衛騎士。
私に何度もアプローチしてきた人だ。
「久しぶりだね、ジュリ」
「……初めまして、ですよね?北国のベルツ様」
にっこり笑顔の彼に私も笑顔で返す。
「…………相変わらず冷たいな」
「どなたかとお間違えでは?」
対戦前に声を掛けてきたと思ったらこれかよ。
この人は昔から変わってないね。
所構わず口説きに来て、どんなに邪険に扱ってもめげない。
お蔭で、彼の過激な信者からどれだけ陰湿ないじめを受けた事か……
もちろん、しっかりお嬢様方には返り討ちしたけどね。
「まあ、そんなツレナイところも気に入っているんだけどね」
「…………」
「あ、そうそう。君に勝ったら何でも言うことを聞いてくれる権利があるってホント?」
「それはファル達との約束であって、ベルツ様には関係ありません」
「えー、俺とも賭けしようよ」
「……なぜです?」
「君がいなくなった直後は自分でも情けないほどに落ち込んだ。だけどね、何年たっても、どんなに周囲の人達が素敵な女性だという人と出会っても俺の君への想いは変わらなかった」
「…………だから?」
「うん、だからこの試合で俺は君に勝って君に結婚を前提とした交際を申し込む」
すがすがしいほどにキラキラスマイルで言い放つディーター様。
その言葉を聞いていたのは私だけじゃない。
ファル達他の出場者や観客。
そして何より神子様方が近くにいた。
色めき立つ周囲に私のテンションは駄々下り。
この男、どうしよう……
「……わかりました」
ため息をつきながら答えるとディーター様は嬉しそうに微笑み、瑠佳ちゃんは心配そうに私の肩に手を置いた。
「ただし、私が勝ったら……わかっていますね?」
にっこり笑みを浮かべながらも睨みつけるとディーター様は頷いた。
「ああ、君が勝ったら君の事は諦める」
「神子に誓って?」
「神子に誓って」
神子である瑠佳ちゃんの前に跪き頭を下げるディーター様に瑠佳ちゃんは小さく頷く
「ディーター・ベルツの宣誓を聞き届けます」
神子への宣誓。
それは神への誓い。
誓いを破れば神の怒りに触れると言われている。
「これでいい?ジュリ」
「ええ、ありがとうございます。神子様」
「ふふ、じゃあ頑張ってね」
瑠佳ちゃんが観覧席に戻ると試合開始のアナウンスが流れた。
「ジュリ=ドウモト対ディーター・ベルツの試合を開始する。双方前に」
審判の声に私とディーター様は向き合う。
私の手には杖。
ディーター様の手には剣が握られている。
互いに一礼した後、杖や剣を構える。
さて、この男相手に手を抜くことはできない。
真剣な表情のディーター様を見れば彼が言っていることに嘘がない事は分かる。
私の事も真剣に考えているんだろうことも……
だが、生理的に受け付けないんだよ。
どんな美形で実際年齢より若く見えようが、金持ちだろうが、どんなに愛していると言われようが……
10も年上は受け付けないんだよ~!
当時10歳差だったから今はさらに年齢は離れている。
一回り以上の年上はゴメンです!
私の守備範囲は上は兄と同じ5歳年上、下は弟と同じ2歳下までなんだよ~!!!!
キッパリスッパリ私の事を諦めて貰うには……
コテンパンに伸すしかないってことですね。
結局、力技でしか解決できないのか……トホホ。
次回バトルシーンは苦手なのであっさりと流れるかと……
新キャラ(?)ディーター・ベルツ情報
北国の近衛騎士隊長。
現在の年齢40歳前後(見た目は20代後半から30代前半)
ジュリと出会った時は27歳(当時の見た目は10代後半)
(27+6(ジュリの北国滞在期間)+7(ジュリが中央国に現れるまで)で40前後…あっているかな?)
神子を介して紹介された時に一目惚れし、それ以降ことあるごとに所構わず口説きだす。
ジュリがいじめられていることは知っていたが確実に仕返ししていることも知っていたので口出しはしていない。
むしろ自分を頼ってくれれば…という下心があり放置。
結果、余計にジュリが離れたことに気付いていない。
魔導士(というか魔術)は苦手だがジュリの事は嫌いになれないらしい。
6年間口説き続けたが振られ続けた。
一部のお嬢様方の間では悲恋話の題材にされている。
詳しいキャラ設定は連載終了後にでも…σ(^_^;)アセアセ...