6.私の意見は丸無視ですか…そうですか……
魔導士・騎士・兵士ごっちゃまぜの交流(?)試合が行われることになりました。
事の発端は、私と周辺4か国の上級魔導士との対決話からだった。
神子に対決の事を話している時に、神子の護衛騎士がならば自分も対戦してみたいと言い出した。
神子は国元に許可を取ってからと遠まわしに拒否していたんだが、その場で通信魔術を使ってあっさりと許可を取った護衛騎士たちの満面の笑みを殴りたい衝動に駆られたが何とか抑えた。
うん、抑えた自分エライ!
中央国の魔導士協会のトップ、騎士団のトップがその話を護衛騎士(鍛錬で時々一緒になるらしい)から聞き中央国の王に直訴したらしい。
『かの有名な神子の片腕であり護衛騎士であったジュリ=ドウモトと手合せをしたい!』と。
その話を聞かされた時の私の顔は相当すごかったらしい。
知るか!
なぜ、私が騎士達の相手をしなきゃいけないんだ。
それに『かの有名な……』ってなんだよ。
しかも、護衛騎士から話を聞いた各国の王が見に来るとか言い出した。
周辺4カ国すべての国王がである。
おいそれと国を空けるなよな……
愚痴る私に神子様方は苦笑いを浮かべるだけだった。
北国の国王は瑠佳ちゃんの旦那。
出会った時はまだ王子だった。
常に笑顔のほんわか王子と見せかけて、その笑顔でその場を支配する能力を持っている人だった。
ただし、私には効かなかったけどね。
だって笑顔だけど瞳が笑ってなかったから……
『嘘くさい笑みだな。仮面付け続けるの大変そう~』と変なフィルターを掛けて見ていたからか奴の腹の黒さに気付いたが、瑠佳ちゃん達には黙っていた。
外から見ている分には面白かったから(それを言ったらお前も相当黒いなと言われた。別にいいけどね)
瑠佳ちゃんの前ではその黒さがなくなるから不思議なんだよね~
国王になってもそれは健在らしい。
東国の国王は奏ちゃんの義父。
奏ちゃんは侯爵家の跡取りに嫁いだ。
その時に国王の養女になったのだ。
別に神子様だから身分が~という反対は出なかったが王妃様が奏ちゃんを気に入っていて娘にしたかったらしい。
奏ちゃんは猛烈にアプローチをしていた第三王子を振って侯爵家の跡取りに嫁いだんだよな。
そういえば……
南国の国王は海ちゃんの旦那の兄。つまり義兄。
海ちゃんは国王とは年の離れた王弟(私たちの2つ年上で国王とは15歳年が離れている)とは出会った頃は犬猿だったが、改革を進めていくうちに互いに惹かれあったそうだ。
年の離れた弟が可愛い国王は最初は海ちゃんとの結婚に反対していたが、王弟の『認めないなら(ウミと)駆け落ちして二度と兄貴とは会わない』の一言であっさりと認めたほどに弟ラブな人である。
ちなみに弟ラブは周知の事実で生暖かい視線で周りは傍観している。
弟ラブ国王から王弟を奪った海ちゃんは妙齢の女性たちの間では人気者だ。
茶会や夜会に引っ張りだこだと聞く。
国王と海ちゃんは王弟を巡ってのライバルであり、王弟を愛でる同士としてそれなりに仲がいいらしい。
どういう関係だよ……オイ。
西国の国王は魔術バカ。
失礼、魔術大好き人間だ。
国政よりも魔術研究を優先させたいと常に公言して宰相に叱られている人だ。
もともと王位継承権が最下位だったのだが、兄達が次々と変死した(互いに殺し合いをしていた)ため転がり込んできた王座。
長兄の息子(王にとっては甥)を王太子にする事を条件に王位を継いだ。
王太子が成人したらさっさと譲位する予定だとか。
それでもあと十数年は国王やらなきゃいけないけどね。
ちなみに、真理ちゃんの彼(旦那)は宰相の息子(宰相にはなりたくないと騎士団に入団した人)だ。
こうしてみると神子様方は高貴な人たちをゲットしたのね~。
これは異世界トリップのテンプレってやつですかね~。
話をまとめると、ファル達との水晶を……私の帰還を掛けての戦いはいつの間にか中央国王主催の各国王観覧の御前交流試合(トーナメント戦)になったのである。
参加は申請すればだれでも参加自由。
私とファル達は強制出場だけどね。
各国の王のスケジュールを調整して2か月後に行われることになった。
その間、神子様方は国元と中央国を行ったり来たりすることになった。
国でのお仕事があるらしい。
常に中央国に行きっぱなしは神殿側がごねたとか……
神子様も大変ね~
ファル達上級魔導士は中央国の魔導士協会の改革の手伝いと各国とのネットワーク構築のために中央国に駐在する許可を国王と魔導士協会会長からもぎ取ったらしい。
彼等もそれなりの地位にいるらしく、帰ったら仕事が山積みだとぼやいていた。
「なら、神子と一緒に帰れ!」
と言ったら『仕事よりもジュリの方が大事』と真面目顔で言われた。
どういう意味だ?
帰還する日が遠のくな~。
いくら、召喚された時間に戻ると言っても……
また、感覚を戻すのに苦労するんだから早く帰りたいんだけどな~
って、私の意見は丸無視ですか。
そうですか。
ストレス発散にまた創作でも書こうかな~
神子様方の旦那がさらに嫉妬する話でも書いてやろうかしら。
今度はこっちの世界の文字で!
***
「ファル、右上の術式おかしい。それだと逆効果」
「え?……あ、本当だ」
「トルディア、そっちの緑属性の【幻影】に組込んでいる術式はこっちの水属性の方が威力が増すはず」
「……なるほど、さすがジュリさん」
「トール、剣に魔術を纏わせるなら刃の部分だけにしてみて。全体に纏わせるよりも魔力を抑えられるはずよ」
「……わかった。やってみる」
「……で、シルヴィは私の髪をいじくって何をしているの?」
「だってジュリの髪、すっごく気持ちいいんだもん」
交流試合が決まった翌日、私の軟禁は解かれた。
やっほー!と喜んだのはほんの数分だけだった。
彼らが『一緒に鍛錬しよう!』と部屋に訪れ毎日のように訓練所に連行されるのだ。
数日訓練所で鍛錬していたのだが……
なぜか、彼等の欠点に目が行ってしまいついつい口を出してしまった。
このまま放っておけばかなり有利に事が進んだはずなのに……
ファルは昔から術式を発動させる時に書き間違いを起こす。
昔はそれで失敗してはよく泣いていた。
泣くたびに慰めていたものだ。
そして、どこが悪かったのか指摘して、自分で訂正させてきた。
ここ数日みたところ、中級までなら間違いを起こすことはない。
だが、水属性の術式はかなり間違える頻度が高い。
どうやら苦手意識が邪魔をしているみたいだが……こればかりは自分で克服してもらわないとな。
トルディアは属性を無視して【幻影】に術式を組む癖があるから属性にあった術式を【幻影】に組込むことが出来ればもっと名を轟かせることが出来るだろう。
今でも十分全国に名を轟かせているけどね。
先日の最強の【幻影】を私が一瞬で消滅させられたのは属性と術式が反発していたからだ。
トルディアは思いつきで組込むからな。
属性の相性など考えなしに……それでよく爆発も起こしていたっけ。
トールは魔術師でもあり、騎士でもあるからか剣を扱うことが多い。
今では魔導士としても上級、騎士としても向かうところ敵なしの魔術騎士と呼ばれているらしい。
トールは昔私が模擬戦で見せた剣に魔術を纏わせる術を気に入り、自分なりに術式を作り上げたようだ。
ただ、剣全体に魔術を纏わせ力任せに振るっているので、魔力を無駄に消費させている。
人にもよるが魔術を纏わせれば剣の威力は数倍から数千倍まで上がる。
ほんのちょっと軽く振るうだけで数千の敵を倒すことも可能だ。
敢えてそこまで教えないけど。
シルヴィは訓練所では一度も魔術を使っていない。
私の世話を焼いている。
髪をすいたり、肌のケアがなってないとスキンケアをしたり、けがをしたら治癒魔術を施したり……
女の私よりも女子力あるんだよね、シルヴィって。
「ジュリさん!ジュリさんの【幻影】見せて~!」
ワンコのように駆け寄ってくるトルディア。
(ちなみにトルディアは私よりも年上だ)
その後ろにはファルもいる。
トールは剣を納めてこちらに歩いてくる。
シルヴィはどこからともなくティーセットを取り出し人数分用意する。
「私の【幻影】ね……いいわよ」
私は杖を取り出し、誰もいない場所に向かって軽く振るう。
するとそこに一体の【幻影】が姿を現す。
術式?
それは私の脳内に描いているから必要ない。
詠唱?
長ったらしい呪文を詠唱していたら攻撃されるから詠唱破棄……無詠唱が一番!
この世界の魔法…魔術の発動はものすごく時間がかかる。
魔方陣を展開して、それにあった呪文を詠唱する。
魔方陣自体は脳内に描けばすぐに展開できるんだけど、呪文が長い!
呪文を唱えている間に攻撃されたらあっという間にお陀仏になるほど長い。
なぜみんな疑問に思わないのか不思議だが敢えて指摘しない。
「え?ちょっと、ジュリさん……ジュリさんの【幻影】って」
「私の【幻影】だから私の姿だけど?」
そう、私の【幻影】は私に似せてある。
まあ、多少美化させている部分もあるけどね。
驚きを隠せていないトルディア達。
「交流試合も、トルディアの相手はこれだからね」
シルヴィが入れてくれたお茶を一口飲むと口の中に爽やかな香りが広がる。
うん、私好みの味だ。
「ちょっとズルイ!」
「何がずるいのよ。トルディアが私の【幻影】と対決したいって言ったからでしょ」
「うっ……」
黙るトルディアに苦笑を浮かべトルディアの肩を軽く叩くシルヴィ達。
「頑張れ。トルディア殿」
「これは心を殺さないと辛いわね~」
「が、頑張ってください。トルディアさん」
「くそ~!絶対に負けるもんか!」
項垂れていたかと思えばいきなり吠え出すトルディアにびっくりた。
「そういえば、ジュリ」
「ん?」
「あんたが勝ったら水晶を渡す約束だけど、私たちが勝ったら?」
「あ、そういえば決めてなかったね」
「あんた、自分が絶対に勝つ自信があるから思い浮かばなかったんでしょ」
呆れたようにカップにお茶を注いでくれるシルヴィ。
「勝てる自信なんてないよ?」
「「「「え?」」」」
「どれだけブランクがあると思っているのよ。上級魔術士であるあんたたちに勝てる自信なんてないわよ。実力重視の協会の中でトップに居続けているあんたたちに」
あ、今度は違う味のお茶だ。
こっちも私好みの味だ。
「そうだな……私が負けたら……勝った人の言うことを私が出来る範囲で一つだけ聞くっていうのはどうかな?」
「「「「!!」」」」
私の提案に4人の目の色が変わったことに私は気づいていなかった。
のんきに「シルヴィの入れたお茶美味しい~」と呟いていたのだった。
2015.3.17 一部訂正