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最後の召喚  作者:
番外編
21/24

番外編5(蛇足) 魔石発掘師の些細な報復(イタズラ)

私の職業は『魔石発掘師』


『魔石発掘師』とは『魔石』と呼ばれる魔力が込められた石を見つけ掘り出し、『魔石加工師』に売る人間のことを言う。

『魔石』は土の中に埋まっていたり、大樹の根元に花のように咲いていたり、海の中に漂ったりといろいろな場所にある。

自然の中から見つけ出し掘り出すから『発掘師』と呼ばれている。

一般的な宝石とは違い鉱山などと呼ばれる場所には『魔石』は存在しない。

自然の力があふれている場所に極稀に発見される貴重な資源である。

私たち『魔石発掘師』はありとあらゆる場所から『魔石』を見つけ出し掘り起こすのが仕事だ。



数年前に知り合ったとある女性を訪ねて私はある土地を訪れた。


彼女がよく出没していた森(通称『闇の森』と呼ばれている)の近くの村で彼女の事を聞きまわった。

彼女の特徴を伝えると、村の酒場の厳つい顔のマスターが満面の笑みを浮かべた。

マスターだけじゃない、たまたま店に居合わせた村人たちも誇らしげに笑みを浮かべている。

「なんだ、兄ちゃんは『雷光の魔女』と知り合いなのか」

カウンターに酒とつまみを出すマスター。

「『雷光の魔女』?彼女の事ですか?」

「ん?兄ちゃん知らないのか?あの嬢ちゃんはこの国の……主に平民の間では『雷光の魔女』っていう二つ名で有名だぜ」

「へえ~、最近まで別大陸にいたからそういう情報には疎くてね」

「別大陸にいたのか……じゃあ、知らないのもしょうがないか。そうそう『神子の偉業』は知っているか?」

「ああ、それなら別大陸にも噂程度だが届いていたよ。大量に発生した魔獣を退けたと」

「世間じゃ魔獣を退治したのはお偉い神子様という事になっているけどな。ここだけの話その偉業は全て『雷光の魔女』のものなんだよ」

首を傾げる私にマスターは親切に話してくれた。

数年前に終息した『魔獣大量発生事件』や国が公表している『神子の偉業』について。



***


マスターの話を聞き終えた私は足元で丸くなっている獣に視線を向ける。

獣は小さく欠伸をすると前足で顔を隠して我関せずの姿勢をとっているが耳だけはせわしなく動いていた。

私は視線をマスターに向けた。

「では、『雷光の魔女』は自分の世界に帰ったと……」

「ああ、俺の知り合いが神殿で彼女の帰還を見届けたから間違いない」

「神殿に……しかも異世界の人間の帰還に立ち会うということは貴方は……」

「俺のイトコが『雷光の魔女』と親交があったんだよ。で、兄ちゃんはなんで『雷光の魔女』に会いたいんだ?」

「以前、彼女の世話になってね。彼女にお礼を渡したかったんだ」

懐から小さな宝石箱を取り出す私にマスターをはじめ、店の客全員が注目していた。

宝石箱のカギを解除し、蓋を開けるとキラキラと光が溢れ出た。

「ほう、これは珍しいな。七色に輝く魔石なんて」

「なんだって!?」

マスターの言葉に店の奥の方にいた一人の青年が勢いよく私たちの所まで突進してきた。

私は慌てて宝石箱の蓋を閉めて懐に戻した。

「ぼ、僕にコレを譲ってくれないか!全ての属性を秘めている幻の魔石と呼ばれているこの『七色の涙』を!」

勢いよく突進してきた青年は挨拶もすっ飛ばし交渉をはじめようとしていた。

「……君は『魔石加工師』なのか?」

「……ちがう」

「では『装飾師』?」

「ちがう」

「では、譲ることはできない。これはどの国、どの大陸でも共通したルールだ。『発掘師』が発掘した魔石は『魔石加工師』又は『魔石装飾師』にしか売買・譲渡をしてはならないという……このルールに違反した場合、双方共に資格を剥奪されることになる」

「だが、あなたはその『七色の涙』を『雷光の魔女』に……」

「彼女は特例だよ。彼女は『特級魔導士』だったからね」

私の言葉にマスターは首を傾げ『特級魔導士』とは?と横槍を入れてきた。


『特級魔導士』

全ての属性の魔術を上級ランクまで取得し、さらに神殿に眠る『神のしずく』に認められ、魔導士の証に『特級に相応しい』と認められた者が名乗る事が出来る最強の魔導士。

本来なら『魔石発掘師』が発掘した魔石を『魔石加工師』や『魔石装飾師』を介さずにやり取りすることは禁止されている。

『魔石加工師』または『魔石装飾師』の資格を得ていれば別だが、そんな奇特な魔導士はいない。

己の魔力だけで魔術が扱える者がわざわざ魔力が宿った魔石を使うことはほとんどないからだ。

だが、『特級魔導士』だけは別だった。

一般的には知られていないが『特級魔導士』と認められると『魔石発掘師』『魔石加工師』『魔石装飾師』のいずれかの資格を有することができる。

彼女は『特級魔導士』として認められる前に興味本位だったらしいがすべての資格を自力で取得していたけどな。


「つまり『雷光の魔女』は魔術を扱う者にとっては『神様』みたいな存在だったのか?」

「『神様』は言い過ぎかもしれないけど、憧れではあるようだよ。上級と認められるのも難しいと言われているのにそのさらに上の地位だからね」

マスターから飲み物を受け取り口に含むとほんのりと花の匂いがした。

足元に寝ている獣がピクリと鼻を動かしたがすぐに元に戻った。

「……で、『七色の涙』を欲しがる君は一体何者なんだい?」

「…………」

「話によってはコレを知り合いの『加工師』を通して君に売ることも検討しよう」

私の言葉に俯いていた青年はガバリと頭を上げると

「僕……いえ、私の主……家名は伏せさせていただきますが某伯爵家の御子息が所望なのです」

「なんで?」

「私には詳し事は分かりません。ただ『物珍しいものを集めよ』という命令で私どもは各国・各地域を巡っておりました」

「物珍しいもの……ねえ。確かにこれはこちらの大陸では滅多に見かけない代物だけど」

考えるふりをする私に青年の期待の視線は痛い。

「物珍しいものを欲しがると言えば……『神子』に献上するためじゃないか?」

マスターの言葉に誰もが頷く。

「『神子』に献上ね~。ふむ……まあ、いいでしょう」

「え?」

「兄ちゃん正気か!?なんで『神子』に献上するってわかっていて譲るんだ!?」

驚く青年とマスター。

「ただし、このままでは売ることはできません。一旦加工させていただきます。数日時間をください」

「はい!……あと、お金に糸目は付けないと主が申しておりますので言い値で買わせていただきます」

「お金は別にいいよ。最低限で」

「え?」

「そのかわり、条件を付けさせてもらう」

「条件ですか?」

首を傾げる青年に私は鞄から紙とペンを取り出す。

「そう、それからここにいる人に証人になってもらいたい」

「証人?一体、何の……」

「コレの本来の所有権は『雷光の魔女』すなわち『数々の問題を親身になって解決してくれた娘』であるという証人だよ」

私の言葉に青年は首を傾げ、マスターは考え込んだ後、何か思い付いたのか満足げに頷いた。

「なるほどな。いいぜ、俺が証人になってやる!あ、あと2~3日、時間をもらえれば俺のイトコも立ち会わせたい」

「そうですね。加工するのに10日ほど掛かりますから、10日後に引き渡す時に証人になってもらえますか?」

「おう!さっそく連絡入れておくわ」

マスターは満面の笑みを浮かべると店の奥に消えた。

きっとイトコ殿に連絡を入れる為だろう。

「さて、君にはコレを渡す代わりにあることをしてほしい」

「あること?」

「簡単だよ。コレの本来の所有者は君は知ってしまった」

「はい。『雷光の魔女様』ですね」

「そう、『数々の問題を親身になって解決してくれた娘』だ。だけど君はそのことを他人には決して言ってはならない」

「え?どうしてですか?」

「『数々の問題を親身になって解決してくれた娘』の所有物だと知られたら他の人達……『数々の問題を親身になって解決してくれた娘』の信者たちが何をしてでも欲しがるからに決まっているじゃないか」

カップに入っている飲み物を一気に飲み干し青年に視線を向ける。

「守れるか?これが守れないのならこの『魔石』は一般流通に流す」

「ま、守ります!」

「主に一生隠し事をすることになるがいいのか?」

「構いません!それで、僕が自由になれるのなら……」

ぐっと拳を握る青年に誰もが首を傾げた。

「自由になれる?どういう意味だ?」

「……あっ」

思わず口が滑ったといったところか。

まあ、私には青年の状況などどうでもいい。

「まあ、君に関することはどうでもいいよ。大方、家族を人質にとられて『珍しい物を持ってこれば開放する』とか言われているんじゃないか?私は、君が本来の所有者の名を明かさないという約束さえしてくれればいいよ」

私のやや投げやりな言葉に店の中にいた客たちは不満そうだったが、店の奥から戻ってきたマスターによって流れた。

「連絡はついた。10日後に来るってよ。場所はここでいいんだよな」

「ああ、マスターには迷惑を掛けるが頼む」

「いいってことよ!面白い事になりそうだしな」

「面白い事?」

「ああ、面白い事だ」

「……まあいい。では私はこれから『加工師』と『装飾師』にコレを加工してもらってくるよ」

「あいよ!」

「あ、そうだ。マスターには世話になるからコレを」

鞄の中から小さな包みを取り出し、マスターに手渡す。

マスターはごつい手で包みを取り外すと中を見て驚愕の表情を浮かべた。

「おいおい、これは『酒の石』じゃないか。噂には聞いていたが初めて見るぞ」

「うーん、彼女から私が譲り受けたものだからな。私は酒が苦手だからよかったら貰ってくれないか」

「いいのか?」

「ああ、マスターなら悪用しないだろ」

「するかよ!でも、本当にいいのか?」

「構わないよ。王都に流れでもしたら貴族に独占されちまうだろうけどな」

「……確かに」

嬉しさを隠しきれていないマスターに『酒の石』の力を知らない人達は首を傾げている。

『酒の石』は簡単に言えばただの水やジュースを酒に換える魔石だ。

自然にある主を自ら定める『魔石』ではなく、誰にでも使える人工的につくられた『人工魔石』

彼女は面白いくらいにいろいろな『人工魔石』を作っては、親しい人たちに配っていたな。

その人たちはその魔石で一財産を築き、今では国内外に名を馳せる商売人になっていたりする。

そして、その人たちのネットワークは広い。

多分、一国どころか、他国へもそのネットワークを広げているだろう。



***


10日後、私は『加工師』と『装飾師』に頼んで二つのモノを作ってもらった。

一つは『七色の涙』をペンダントトップにした物。

もう一つは『七色の涙』を小さくカットし髪飾りに装飾した物。

あの青年は間違いなくペンダントの方を取るだろう。

髪飾りの方は『七色の涙』が使われている様に見えない様に細工してあるからな。


案の定、青年はペンダントを選んだ。

いや、青年の主である某伯爵の息子がである。

引き渡しの場に青年の主が同行してきたからだ。

某伯爵の息子はペンダントを見て厭らしい笑みを浮かべた。

これは私の思惑通りに事が進みそうだ。

某伯爵の息子はこちらが提示した金額の3倍の金を払って青年を伴って帰って行った。


「……で、これでいいのかい?ウィル」

私は傍らに座っている獣に話しかける。

『ああ、構わない』

低い声が獣から零れ落ちるとマスターとそのイトコが驚愕の表情を浮かべた。

『これで少しはジュリに恩返しができる』

「君は本当に変わっているね」

『そなたはそれを知って我に付き合っているのだろう?』

「私は面白そうだから話に乗ったんだ。で、この髪飾りはヴィートに届ければいいんだ」

『ああ、あやつにも世話になったからな』

「でもなんで髪飾り?あいつが使うわけ……」

『いつか使う時が来る。我の勘だがな』

「ウィルが納得しているなら私は何も言わないよ」

獣・ウィルの頭を撫でるとウィルはくすぐったそうに体をよじった。

それを呆然と見ていたマスターとマスターのイトコ。

「兄ちゃん。この間から気にはなっていたんだが……その獣は……」

「ああ、紹介をしていませんでしたね」

私はウィルを立たせるとマスターとマスターのイトコ……確かジュリエッタと名乗っていた女性にウィルを紹介する。

「彼は魔獣の長の息子でウィル」

『ヨロシク』

器用に前片足を上げるウィルにマスターは一瞬固まったがすぐにウィルの頭に手を置いた。

「人間の言葉を話せるという事はかなりの上位の魔獣じゃないか?」

『魔力が生まれつき強いだけだ。それに我はまだヒト型を取る事が出来ない半端者だ』

ふんっと頭を振ってマスターの手を払うウィル。

マスターの後ろではジュリエッタがプルプルと震えている。

怖がらせたかと思ったら逆だった。

マスターを押しのけてウィルに抱きついたのだからな。


「キャー!ジュリが言っていた通り!モフモフ~」

ウィルの体をガシガシと撫でまわしている。

『そなたはジュリを知っているのか?』

されるがままのウィルだが懐かしい名前を聞いて瞳を輝かせている。

「ジュリは私の永遠の親友よ!」

ウィルから体を離し、ジュリとの思い出を語り出すジュリエッタに私とマスターは苦笑しながらカウンターで一杯ひっかけることにした。



***


―西国にて-

「やあ、カルロ」

面倒な手続きを済ませて応接間でのんびりとお茶を飲んでいると目当ての人物が現れた。

「ウィンド様!?いつ別大陸から?」

「一月前だ。ちょっと他の国にも寄ってきたからこっちに来るのが遅れた」

「他の国へ?」

「ああ、『雷光の魔女』への土産を各国に置いてきた」

「……置いてきたって……『雷光の魔女』はもう」

私の前のソファに座り自ら茶を入れるカルロ。

「ああ、聞いたよ。自分の世界に帰ったってね」

「じゃあなぜ……」

「うーん、面白そうなことが起きそうだったから」

にやりと笑うとカルロは苦笑いをするだけでそれ以上は問い詰めてこなかった。

昔は自分が納得するまで問い詰めていたのにな。

「それはそうと……コレを」

「これは?」

「数か月前に頼まれていたモノだ。ちょっとばかし遅かったみたいだけどな」

包みをテーブルの上に置くとカルロはためらいもなく手にし、包みを解いた。

「……確かに、もう少し早ければコレを渡せたでしょうね」

表情を曇らせるカルロ。

『それはきっと役に立つ』

足元で丸まっていたウィルの声にカルロはあたりを見回し、私の足元にいるウィルに気付いた。

「……大型犬……いえ、魔獣ですか?」

ウィルは立上りカルロの前に座り姿勢を正した。

『我の父からの伝言だ。【いずれ偽りはバレる。覚悟しておけ】と』

「偽り?バレる?」

首を傾げるカルロ。

「この国にはあまり関係ないかもしれないけど他の国…あ、中央は除くな。の『神子』関連の事だと思うぞ」

「……なるほど。エドからも忠告を受けていたが……真実だったか」

『数か月後には全てが分かる。とも父は言っていた』

「……何かが起こるってことですか?」

ウィルの言葉に表情をこわばらせるカルロに私は軽く手を振る。

「ああ、そんな大きな事件は起きないよ。うちの国で『神子召喚』が行われる程度だ」

『神に見捨てられた国なのにな』

フンと鼻を鳴らすウィルに私は苦笑しか出なかった。

「中央国で『神子召喚』ですか?そういえばそんな話が神殿から上がっていましたね」

「ああ、神殿の神官長が父上の反対意見を無視して着実に進めているよ。次の満月(みつき)の時に行われるらしい」

『次の満月……10日後か』

「そう、それまでに私も帰って来いって。一緒に旅していた嫁さんには『なんでもっと早く教えてくれなかったのよ!』ってこってり説教された……」

「嫁さんって……確か侯爵家の令嬢なのに『魔石加工師』になった方でしたよね」

「そう、でもってそれを作ったのは『魔石装飾師』の妹のエルナ」

カルロに渡した髪飾りに視線を向けるとどこか納得した表情を浮かべた。

「ああ、なるほど。通りでセンスがいいと思いました。ウィンド様の奥様……ジークルーン様と妹姫のエルナ様のお見立てなら納得です」

「おい」

「なんです?放浪王子と呼ばれている中央国第二王子ウィンド=デリウス殿」

「…………」

「まあ、これはありがたく預からせていただきます」

髪飾りをどこから取り出したのかシンプルだが美しい宝石箱に仕舞うカルロ。

『安心しろ。それは確実にあの者に行き渡る』

ニヤリという表情を浮かべていそうなウィルの言葉に私もカルロも顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。



10日後

中央国で行われた『神子召喚』

それは各国の『神子』をその地位から引きずり落とすプロローグ。


『神子召喚』で現れたのは二人の少女。

そのうちの一人が多くの人が再会を望んでいた『雷光の魔女』

だが、『神子』たちによる妨害で誰もが彼女との再会を果たせなかった。


『神子』によって開かれた交流試合での彼女の魔術の素晴らしさは多くの人々の記憶に残っただろう。


交流試合の後に開かれた宴では西国の王と楽しそうに踊っていた『雷光の魔女』に多くの人たちが惹かれていたが、誰一人として声を掛けることはできなかった。

西国の王の独占力によって……

つまり、私も彼女との再会を果たせなかった一人である。

昼間は公務で夜は神子に捕まっていたからな。


後日、西国の王にネチネチと報復したが誰もとがめなかった。

寧ろ『もっとやってください』とエールを送られたほどだった。



あの髪飾りは無事に彼女に渡ったとカルロから報告が来た。

その事を傍らに座るウィルに話すと

『あれはもうこの世界にはない。ジュリの世界に渡り、ジュリの愛用品になっていると【神】が教えてくれた』

と北国のマスターが分けてくれた花の香りがするお茶を飲みながら嬉しそうに尻尾を振っていた。

マスターから『酒の石』のお礼にと貰った花の香りのするお茶は『雷光の魔女』が趣味で作った愛用のお茶だそうだ。

入手が困難で辺境の村のあの店でしか飲めない物らしい。


『で、ウィンはまた旅をするのか?』

「いや、旅は終わりだ。これからは『魔石』関係の仕事をして兄上を支えていくよ」

『今までと大して変わらないのでは?』

「うーん、まあ、『魔石』関連の施設も設立できたし、私なりに国に仕えるだけだよ」



数年前

第二王子という王位継承の争いの種になりかねない自分が嫌だった。

フラフラと旅をしていた私に道を示してくれたのはほかでもない彼女だった。

「私は貴方じゃないから貴方の苦しみは分からない。でもね、逃げていては何も始まらないわ」

「逃げている?私が?」

「ええ、お兄さんを支えたいのならそれを行動で、態度で示せばいい。『自分は跡取りの座を望んでいない。兄の右腕として働きたい』って。ただフラフラと逃げて、時が解決してくれるのを待ってばかりでは貴方自身が苦しくなる」

「私が苦しくなる?」

「貴方はフラフラすることで周囲の評価を落そうとしているけど、周りから見れば見聞を広げていると見られているわよ」

「え?」

「今の貴方は自分で自分の首を絞めているようなモノよ」

「…………」

「どうするかは貴方次第。貴方の前にはいくつもの分岐点がある。どの道を選んでも楽な道はないわ。中央国第二王子ウィンド=デリウス様」

にっこりとほほ笑む彼女。

「私の事を知っていたのですか?」

「交流がなくても各国の王家や神殿にはそれなりの情報は入ってくるのよ。私は偶然知っただけだけどね」

彼女は手にしていた魔石を私に渡すと箒を片手に立ち上がった。

「逃げるも挑むも貴方次第よ。じゃあね、私はもう行かなきゃ」

「また、会える?」

「さあ、それは『神様次第』かしら」


その後、彼女を見かける事はなかった。

ただ彼女の噂は所余すことなく届いた。

魔獣の件、魔導士協会改革の件、選民意識が強い貴族たちへの更生の件、騎士団相手の乱闘の件などなど。

そして、平民と一部の貴族の間で『私たちの神子様』と呼ばれ親しまれていることが……




さて、始めようか。

『私たちの神子様』を虐げていた者達への報復を。

彼女はこんなことを望んではいないかもしれないかもしれない。

だけど、真実が明らかになった今。

私たちを救ってくれた『神子』への私たちなりの感謝の意を表したい。

ただの自己満足にすぎないけどな。


各国の『神子』が中央国にいる今がチャンスだ。


今夜、明日各国に帰国する『神子』の送別会が行われる。

各国の『(偽)神子』は私が置いてきた『彼女への土産』を身に付けている。

それが攻撃材料になると露程にも思っていないだろう。

『(偽)神子』達はどんな反応をするだろうか。

ああ、想像するだけで楽しい。



「ウィンド様、顔が面白ことになっていますよ」

会場に向かう途中でカルロと出くわした。

「貴方が何かを企んでいることは分かりますが……手加減してくださいね」

「カルロ、別に戦争を仕掛けるわけじゃないんだ。かる~く攻撃するだけだよ」

「…………」

「些細な事だろ?『私たちの神子様』に献上したはずのアクセサリーをなぜ『神子補佐』が付けているのか聞くだけだって」

「……やっぱり仕込んでいましたか。各国に『彼女への土産』を置いてきたと聞いた時から予想はしていましたよ」

ため息をつくカルロだが表情は笑いを堪えている。

「私は『(私たちの)神子に献上する』っていうから貴重な『魔石』を譲ったんだ。なのに『(私たちの)神子』以外の者が身に付けているなんておかしいだろ?」

私の言い訳にカルロは分かったと小さく呟いた後、苦笑しながら己の主の元に戻っていった。

きっとカルロの事だ。

アルドやエドガルドには話すがヴィートには告げないだろう。

ヴィートの反応を見る為に……


その予想は裏切られなかった。

私が『(偽)神子』達に身に付けているアクセサリーの事を指摘したら面白いくらいにヴィートは追い打ちをかけてくれた。

だが彼女達もしぶとい。

自分たちが『神子』だと言い張っている。

神殿での出来事はなかった事にしようとしている。


まあ、私は『(偽)神子』が『数々の問題を親身になって解決してくれた娘=雷光の魔女=ジュリ・ドウモト』に贈る為に私が『発掘』し、妻が『加工』し、妹が『装飾』した品物をなぜ身に纏っているのですか?と質問しただけだ。


もっとも、それらの品を『神子に献上』した人達はそのことを知らないだろうけどね。




彼女が受けた数々の仕打ちの報復にしては軽い方だろ?

彼女は命を懸けてこちらの世界で生きていたんだ。

『(偽)神子』達は何もせず、美形の異性を侍らせ、きれいな服を着て、腹いっぱいに美味しいものを食べて過ごしていただけなんだからさ。

国の問題には見向きもせずにね。




その後の『(偽)神子』?

さあ?どうなったんだろうね。

どの国も口が堅くて教えてくれないんだよね。


表舞台から姿を消したということ以外はね。




何が書きたかったのか……


ジュリのために作られたアクセサリーを周囲に見せつける様に身に付けていた『神子』達に『あんたたちは私たちの神子じゃない』と遠回しに言うだけの話。


たったこれだけの為の話です(`・ω・´)キリ


きっと神子達は『ジュリの為のモノ』を知らずに自慢げに身に付けたことを後悔するだろうという周囲の暴走……もとい、想像を描いたものだと思ってください。

完全な蛇足なので話がまとまっていない(笑)


さらに蛇足

ウィンド王子について

魔力は平均以下ですが文学・武術共に優秀。

常に双子の兄を立たせている。

ジュリと出会ったのは『魔石発掘師』の資格を取得後、フラフラと旅をしている時に『魔石』を見つけた時にジュリもその場にいたというだけです。

西国のヴィートとは身分を隠して通っていた学校での学友(ヴィートも同様)

ジュリと出会った時期はジュリが北国いた頃(終盤頃)かな?


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