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最後の召喚  作者:
番外編
20/24

番外編その4 『雷光の魔女』に会いたくて-中央国編-

中央国の王妃様のお話。

サブタイトルと内容があってないので要注意

『雷光の魔女』

素性不明の謎の女性魔導士。


雷系の魔術を駆使し、大量発生した魔獣を退け、魔獣と交渉し国に平穏をもたらした『救世主』


北国をはじめ、東国、南国、西国に現れた『平民たちの救世主』


多くの平民が彼女に憧れ、いくつもの物語が紡ぎだされた。


その物語の一部には、ほんのちょっぴり真実が隠されていることは一部のモノしか知らないけれど……


彼女に憧れて魔導士を目指す子供が増えた。


噂話と物語でしかその存在を知らない中央国でも……


長い呪文詠唱を短縮させたり破棄して魔術を展開する。

その発動の速さに誰もが彼女の術を盗もうとした。


だが、誰一人として成功しなかった。

彼女自身が誰にも教えなかったのが大きいが、北国の魔導士達の話が教えを乞うことを躊躇させていたのだろう。


『彼女の秘術を得た者は、国の上層部の人間に殺される』

という話に……



そんなある日。

中央国で『神子召喚の儀』が行われた。


私も王妃としてその場に居合わせることとなった。

正直『神子』には興味はなかった。


私が興味があるのは『雷光の魔女様』のみ。

王妃の仮面を被って出席した『神子召喚の儀』


そこで、私は憧れの方と出会うこととなる。


『神子召喚』で現れたのは神子らしき少女と『雷光の魔女様』だったのだから!!!!


え?

なぜ『雷光の魔女様』の事を知っているのかって?

王族には王族だけが持てるヒミツの情報網があるの。

北国の先の王妃や南国の王妃、西国の先の王太子妃から教えて貰ったの。

あ、東国の王妃は論外ね。

あの人は『神子』に傾倒して、真実から目を背けて『雷光の魔女様』を嫌っていたから。


北国の先の王妃は表向きは公な交流がなかった時代から魔術論議で仲良くしてくださったわ。

旦那が『神子』に傾倒してからは裏で何やらやっているようだけど……

何をしているのかしら……

何度か尋ねても『ふふ、今はヒミツ。時が来ればわかるわ』という返事だけが帰ってきた。


南国の王妃は旦那のブラコンぶりに辟易していたので世継ぎも生まれた事だから…と、趣味の魔術研究をしていた(でも政務はしっかりこなしていた)時に『雷光の魔女様』と出会ったとかで、こっそりと教えてくれた。

あ、南国の王妃とは実は女学校時代の先輩後輩なの。

私が南国に留学していた時のだけどね。


西の先の王太子妃は『雷光の魔女様は義弟の想い人なのよ』とこっそりと応援しているのと笑っていたわ。

先の王太子妃も『雷光の魔女様』に助けられたとものすごく長い手紙で伝えてきたわ。

表向きは『雷光の魔女様』に声を掛けることが出来ず、義弟を通してしか話せなかったのが心残りだとも綴られていた。


各国に共通しているのはどの国もトップ(男性)が『神子』に傾倒していたということかしら。

そして何もしない『神子』がいつの間にか偉業をなしていたと公表されたことね。

いつも王宮や神殿で男に囲まれていただけの人間がどうやって魔獣討伐や組織改革をしたというのかしら……

国民は疑問に思わなかったのかしら……特に当事者たちは。

ああ、西国は違ったわね。

新国王となったヴィート殿がちゃんと誰の功績なのか公式文書に記していたわね。


つまり、一般市民には魔獣討伐で活躍していた『雷光の魔女様』の正体は知らされていなかったけど、各国の上層部はちゃんと把握していたの。

『雷光の魔女』とは神子と共に異世界から来た少女であるということを。

ただ、神子の偉業にすり替える為に『正体不明の魔女』という噂を流したのね。

どこまで腐っているのかしら。

いっそうの事、わが国のように一度滅亡直前まで行けばいいのに……


あら、やだ。聞き逃してちょうだいね。



***



「なんなの!?あの小娘たちは!!!!!!!!」

王妃の部屋……つまり、私の部屋で私はソファの上に置いてあったクッションを片っ端から壁に叩きつけている。

侍女達は遠巻きの私の怒りが収まるのを静かに待っている様子。

うん、私がストレス溜めるといつも行う行為だから慣れているのよね……

「王妃様。少しは落ち着きなさいませ」

「これが落ち着いていられますか!あの小娘共……私がジュリ様に出したお茶会の招待状を盗んだ挙句、招待してもいないのにズカズカと茶会の場に現れるなんて!!!!」

バシバシと壁に突き当たっては落ちるクッションを片付けていく侍女長。

「しかも、どの国でも最初の3日間も牢屋に入れていたですって!?うちの神官長や魔導士協会の会長はバカですの!?ジュリ様から迸る魔力はそこら辺の魔導士が束になっても敵わないほどだとなぜ気づかないのです!!」

「王妃様……」

呆れたようにため息をつく侍女長。


チリーン


部屋の片隅に置かれている魔通信器が光りはじめた。

これは限られた王族の女性たちの部屋に設置された連絡機械。

ほんの少しの魔力で遠く離れた人と会話ができる優れものだ。

これを作ったのもジュリ様。(表向きは『北国の神子』が作った事になっているけどね)

本来なら魔導士協会の会長同士の連絡に使うはずだったが、北国の魔導士協会の会長が『私どもよりも妃殿下たちに使っていただいた方がよろしいかと……』と言って、北国の先の王妃アレクシア様、南国のローゼマリー王妃、西国の先の王太子妃リーゼル様と私が持つこととなった。

東国にはないシステムである。

北国の魔導士協会の会長が『東国?あそこは必要ありません』ときっぱりと言い切ったので……

理由を聞いてもニッコリと微笑むだけで、彼からどす黒いオーラを感じたとアレクシア様が仰っていた。


『フィーネ様、ジュリ様とはお話出来て?』

「アレクシア様……」

通信相手は北国のアレクシア様だった。

『……その様子だとまたあの子達に邪魔されたのね』

クスクスと笑っているアレクシア様。

あ、この通信機お互いの姿も映すことが可能なので相手がどんな表情かもわかるんです。

「はい、あの娘たちは何をしたいのですか?ジュリ様との再会を喜んでいる様に見せかけて常に暗殺者を仕向ける……」

『でも、ジュリ様はそれを難なく交わしているのではなくて?』

「ええ、周りにはわからない様に処理されています」

『あの方は変わらないわね』

【さすがはジュリ様ね】

アレクシア様との会話に新たな人物が加わった。

「リーゼル様」

『リーゼル様、お久しぶりですわね』

【突然繋いでごめんなさいね、フィーネ様】

「いえ、構いませんわ」

【ありがとう。アレクシア様もお変わりなく】

『私は、最近は毎日が楽しくてね。元側妃達と楽しくやっているわ』

〔まあ、羨ましい。私の所は旦那のブラコンに拍車がかかりましたわ。神子が煽るせいで……〕

「ローゼマリー様」

西国の先の王太子妃リーゼル様と南国のローゼマリー様。

〔楽しそうな会話が聞こえてきたので思わず繋いでしまったわ。ねえ、フィーネ様。フィーネ様の所の『神子』はどんな子?〕

【ジュリ様に危害を加えそう?】

「いえ、ミサキはどちらかというとジュリ様と接触を図ろうとしてあの小娘たちに邪魔されている感じです」

『あら、うちの国の神子がまた何かしているのね」

【うちの所の神子も】

〔あらやだ、うちの所の神子も?〕

呆れたようにため息をつく3人に私も思わずため息が出る。

「あの小娘たち……私がジュリ様に話しかけようとすると邪魔するし、お茶会に招待しようと招待状を出せば、宛名を勝手に変えて自分たちが出席するし……もう、どうしたらいいのでしょうか」

私の愚痴にお三方は顔を見合わせた後、申し訳なさそうに頭を下げられた。

『うちの神子が申し訳ない』

【我が国の恥を……本当に申し訳ない】

〔王族の招待状をすり替えるなど……申し訳ない〕

「…………すみません。お三方を困らせてしまいました。もう少し地道に頑張ってみます」

慌てる私にお三方は小さく頷いた。

『申し訳ないが、私たちは『神子』には逆らえない。この世界では『神子』が常にトップに立っているからな……どんな我儘も受け入れるしかないのよね』

〔本当に……なぜあの者が『神子』なのでしょう。よっぽどジュリ様の方が『神子』らしいのに……〕

【その件について、わが国では神官達から『神子』は偽物だという報告があるのです。『神子』の額にある宝珠は『神子補佐』の印であって『神子の証』ではないと……『神子教本』という神殿に代々伝わる書物に書いてあるそうです】

リーゼル様の言葉に私たちは顔を見合わせた後、大きく頷く。

『なるほど……わが国でも神官たちに聞いてみよう』

【私も調べてみますわ】

「私も調べてみます。何かわかりましたらご連絡しますわ」

お三方とその後しばらく近況報告を交わして通信を切った。



「はあ、お三方にはああいったけど……どうしましょう」

周辺国の『神子』が中央国に滞在しているということで中央部分は常に右往左往している。

『神子』達の要望の多さにね!

他国に来たからと言って遠慮しないのが『神子』なのだと……世話する者達も諦め半分で対応しているそうだ。

御給金少し上乗せしてあげられないかしら……

そしてなぜか、見目麗しい男共が『神子』に呼び出され、仕事に支障が出始めているらしい。

その筆頭が神官長だとか……

うちの神子は周辺国の神子たちに神子の在り方を師事しているらしいが……大丈夫だろうか。

いろんな意味で……



「あの、王妃様」

ソファに深く沈みこんだ私に侍女の一人が魔写を差し出してきた。

「こ、これは……!!!!」

侍女が差し出した魔写はジュリ様の男装姿!

しかも、メガネを外し、長い前髪を後ろに一つに束ねている。

普段隠れている星空の様な瞳が薄らと閉じられ、色気をまき散らしている~~~~!!

「これはどうしたの?」

何とか冷静を保ちつつ、侍女を見ると彼女は薄らと頬を染めながら

「実は、先日。ジュリ様が周辺国の上級魔導士様方と訓練所で訓練を行うということで男性用の服を所望されたので用意したのです。その時、ジュリ様の部屋付侍女の一人がこの国の噂話などを条件に色々な衣装を着て魔写を撮ることを許可していただいたのです」

侍女の話しに私は思わず飛びついてしまった。

後から侍女長からこってりと説教を受けたけど、侍女長もその後の私の計画に自ら進んで参加してくれることとなった。


私は『神子』達が神殿に籠る朝と夜の時間を有効活用することにしましたの。

朝は神子たちがいない時間帯にジュリ様を部屋に招いて朝食を一緒にしたり、夜の礼拝の時間にこっそりとジュリ様の部屋に赴いて情報交換という名の交流会を3日に一度行うことにしましたの。

ジュリ様は最初断りの返事をされていましたが、そこは王妃の権限を使わせてもらいました。


ああ、それにしてもジュリ様との魔術談議……

なんと奥深かった事でしょう。

私達などでは思いつかない発想をされるジュリ様に尊敬のまなざしを送る事しかできませんでした。


しかし、その楽しい時間も周辺国王の来国で取り上げられてしまいました。

私は各国の王との談議よりもジュリ様と魔術談議がしたい……

陛下にそれとなくお願いしましたが却下されました。

交流試合の後に時間をちゃんと設けるからと念書まで書いてくださいましたので王妃としてのお仕事をすることにしました。

ジュリ様からも『お勤めご苦労様です』という労いのお手紙を頂いたので頑張る事にしますわ!



それにしてもなぜ西国以外の王はジュリ様の話題を避けるのでしょう。

それとなく西国の王にジュリ様の話を振った時は、それはもう……大変熱弁されましたのに……

私、西国の王・ヴィート殿がどれほどジュリ様に惚れているかすぐにわかりましたわ。

リーゼル様が応援したくなる気持ちわかりました。



神子の我儘で開催された交流試合は終始ジュリ様はマイペースでした。

ジュリ様の素晴らしい術にほれぼれとしてしまいます。

予選は全て『瞬殺』

ああ、なんてかっこいいのでしょう。

それに比べて我が国の兵士や騎士、魔導士達は……

基礎から鍛え直すように陛下に申告しなければ……


決勝戦のジュリ様は予選とは違いました。

ジュリ様の力を目のあたりにして神子たちが『化け物』と言った時は思わず睨んでしまいましたわ。

私の睨みにあの小娘共はびくりとしていましたから少しだけ、ほんの少しだけ溜飲は下げましたが……私のジュリ様を『化け物』呼びしたこと後で後悔させて差し上げますわ。

すぐに陛下に小脇を突かれて笑みを浮かべ直しました。

陛下も西国王のヴィート殿も表情は笑顔でしたが瞳は笑っていませんでした。

あらま~、陛下もヴィート殿も内心ではご立腹だったのですね。

私も表情に出すなどまだまだでしたわ。



ジュリ様と周辺国の上級魔導士との戦いは一対多数の試合でした。

「……よっぽど、ジュリ殿を消したいらしいな。神子たちは」

陛下の言葉に首を傾げると陛下はにっこりと微笑まれ

「よく見てごらん。北国の上級魔導士はジュリ殿の【幻影】に攻撃していると見せかけて、上空にいるジュリ殿に術を放っている」

「でも、交わされていますわね。掠りもしていませんわ」

「わざと隙を作って攻撃させているんだろう。寸でのところで躱しているからね。それから南国の上級魔導士」

「あら、ジュリ様の周辺だけに?」

「そう、ジュリ殿の周りの空気にのみ毒を送っているけどジュリ殿は無意識に解毒している」

「東国の上級魔導士は、わざと術を暴走させようとしているけどジュリ殿の【幻影】に阻まれてうまく作動できていない」

「ジュリ殿の【幻影】の方が対応が早いからな」

「西国の上級魔導士は剣のみなのですね。魔術は使っていないみたいです」

「ああ、彼は魔術よりも剣術の方が得意らしいからね。でも、ジュリ殿の方が上手みたいだよ」

クスクス笑いながら西国の上級魔導士とジュリ様の【幻影】との戦いを見ている陛下。

私は会場全体を見回してふと、昨日と同じように見えた。

「陛下、これって昨日と同じではありませんか?」

「昨日と同じ?」

「はい、ジュリ様の【幻影】達の動き……よく見ると魔法陣を描いています」

私の言葉に隣に座っていらした西国の王・ヴィート殿が笑いを堪えていた。

「失礼、中央の王妃も気づかれましたか。上から見ているとよくわかりますね。昨日、ジュリは手の内を見せていたのに……」

「しかし、彼等は気づいていない。いえ、私達3人以外は気づいていないのではなくて?」

「ああ、たぶんそうだろうね。さて、この先の戦い。楽しみだね」

陛下もヴィート殿もにやりと笑って会場を見下ろしています。

私もジュリ様がどんな術を見せてくれるのかワクワクしていたりします。


ジュリ様は魔法陣を展開させると、電撃を与えたり、幻を見せたりとたった一人で4人相手に戦っておりました。

ジュリ様の表情はローブと眼鏡と前髪で隠れて私の席からはうかがう事が出来ません。

しかし、ジュリ様から放たれているオーラが悲しみにあふれていました。

誰も気づいていないジュリ様の苦しみ。


試合は陛下の判断でジュリ様の勝利となりました。

これ以上は周辺国の上級魔導士達の命に関わるという陛下とヴィート殿の言葉に会場内は納得したようです。

当事者である上級魔導士達は不服そうでしたけどね。


ヴィート殿とジュリ様のお話は驚くべきことばかりでした。

ジュリ様は戦いの最中にも相手の事を良く見ておられたのですね。

そして、改善点までお教えになるなんて……


***


陛下が開いた宴にジュリ様はご自分の世界の服で参加されました。

侍女長から『ジュリ様はドレスを好まないのは王妃様もご存知でしょ?今夜の宴くらいはジュリ様のお好きな衣装を纏っていただいてはいかがでしょう』と申し出てきたのでその通りにさせましたが……


ジュリ様が眼鏡を外してお顔を晒している~~~!!!

思わず侍女長に振り返ると周りからは見えない様にぐっと親指を付きたてました。

ナイスですわ!

長い前髪を後ろに流し、陛下と私からの贈り物の髪飾りで纏めている!!!!

もうそれだけで嬉しい限りです!

ジュリ様が挨拶に見えられた時は王妃の笑顔ではなく素の笑顔で対応してしまいましたわ。

陛下には笑われましたが、他の人は気づいていないみたいなので大丈夫です!

挨拶のあと、ジュリ様はフラフラと会場内を歩いておりました。

すれ違う人全員が驚愕の表情を浮かべている姿は面白いですわね。


とくに、遠くからジュリ様を見ていた神子たちのあの驚きよう!


ふふ、貶していた人が美しい人だったと知った時の彼女達のあの顔!

思わず魔写にとっておいて後々の材料にしたかったですわ。


そうこうしているうちに、ジュリ様はヴィート殿に確保されてしまいました。

くやしい!!!

主催国の王妃として勤めをこなしている間に持ってかれた~!!!

ジュリ様との楽しいひと時を過ごしたかったのに~~~~~~~!!!!

陛下に慰めながらも王妃としてのお仕事はこなしますわよ。



な・の・に!

私が王妃として周辺国の人たちの相手をしている間に陛下がジュリ様とダンスをしているではないですか!!!!

ああ、蝶のように軽やかに舞うジュリ様。

ドレスではない丈が短いスカートから出ている美しい御足を惜しげもなく見せて周囲の男たちの視線を集めていらっしゃいますわね。

女性たちからは侮蔑の視線が多いですが……

悔しかったらご自分たちもジュリ様と同じ服を着たらいいのに……

そんな勇気があればの話ですけど。ふふふ。

あ、私は陛下と侍女長に止められました。

公の場ではなく私的な場(身内だけの場)でならOKという許可はもぎ取りましたけどね。

ジュリ様の世界の服ってすっごく動きやすくて軽いの!

今度、国内で流行らせようかしら……うん、そうしましょう♪


ヴィート殿がジュリ様の生足の事に気づいて今更ながらに騒いでいるみたいですが、側近たちに宥められている様子が面白いですわ。


ダンスを終えた陛下に文句を言おうとしたら

「フィーネ。ジュリ殿は明日、ご自分の世界にお帰りになる。ヴィート殿たちが早朝に送るそうだ」

周りに聞こえない様に小さな声でそう告げられました。

「…………」

「君との約束を破るようで申し訳ない。だが、明日を逃せばジュリ殿の願いを叶えることは難しくなる」

「ジュリ様の願い?」

「ジュリ殿は常に『元の世界に帰りたい』と願っていた。それを神子たちが引き留めていたんだ」

「……ならば、私は引き留めてはいけませんね」

「ああ、だが帰るのは明日の朝。それまでは君は君のやりたいようにすればいい」

「陛下?」

「今夜、ヴィート殿たちがジュリ殿の部屋で送別会をするそうだ。そこに参加しておいで」

陛下からの誘惑に私は負けそうになりました。

確かに、お別れはしたい。

でも、私は首を横に振った。

「いいえ、私は何も知らなかったふりをします。神子たちを抑える為にも」

「いいのかい?」

「ええ、憧れていたジュリ様との思い出は出来ましたし、侍女たちが作ったファンクラブ用の魔写もたくさんいただきました。我が国の我儘でお招きしてしまった『神の娘』の願いを聞き届けるのが私達の使命ですわ」

私の言葉に陛下は驚いたような表情を浮かべた後軽く私の頭を撫でられた。

「君は本当に『雷光の魔女(ジュリ殿)』が好きなんだね」

「はい!もちろんですわ!」



翌朝、ジュリ様は神様の元へ召されたそうです。


神殿内で騒いだ『神子』が『神子補佐』であったこと。

『神子補佐』を『神子』と偽った罰としてこの先『神子召喚』を行う事が出来なくなったこと。

本当の罰は各国の国民が行う事など色々な事がいっぺんにあの日の朝、起きました。




『神様』って本当に居たのですね。




***


「あの、お義母様」

おずおずと宿題ノートを差し出す義理の娘となった元神子(正確には神子補佐)のミサキ。

彼女は元の世界に戻れないと『神様』に言われてしばらくの間、ふさぎ込んでおりました。

よくよく彼女の話を聞くと帰れないことよりも、ジュリ様と仲良くなりたかったのにできなかったことがショックだったようだ。

ずっとジュリ様に憧れていたという。

緊張のあまりに思ってもいない態度を取っていたと涙ながらに話してくれました。

その話を聞いて私は陛下に頼んで彼女を養女に迎える事にしました。


ミサキは最初は戸惑っていたけど、ジュリ様の魔写を餌にすると積極的にこの世界に馴染もうと努力しています。

お茶の時間では、ミサキが持っていた魔写を見せて貰ったりして二人でジュリ様の事で盛り上がる日もあります。


「あ、お義母様。西国のカルロ様から手紙が届いているそうですよ」

「カルロ殿から?」

「はい、侍女長から先ほど伺いました」

「ヴィート殿からはよく手紙は届くけど、外交官のカルロ殿からというのは珍しいわね」

ミサキと話していると検閲を終えた手紙を侍女長が持ってきた。

いちいち検閲するのは面倒だけど国の機密事項など漏らされたら困るから致し方ないのかしら……


侍女長から手紙を受け取り封の中身を取り出すと一枚の手紙と数枚の魔写が入っていた。

魔写にはご丁寧にも術が掛けられている。

手紙に書かれている解除方法(もちろん暗号文)で術を解除したら……


「まぁぁぁぁぁ!なんて素敵なのかしら!!」


術を解除した魔写にはヴィート殿と楽しそうに笑っているジュリ様が写っていた。

あの野暮ったいローブと眼鏡と前髪で顔を隠すという姿ではなく、きれいなドレスを着て眼鏡を外し、美しい顔を出している……どこぞの貴族令嬢の様なジュリ様が笑っているのだ。


カルロ殿の手紙には

『ジュリにヴィートの気分転換に付き合ってほしいと無理やりドレスを着せ、お茶会に参加させたのですが思いのほか楽しい一日でしたよ』

という自慢話が書かれていたが、魔写の中に収められているジュリ様の笑顔を前にそんなことどうでもよかった。

『追伸、この魔写は隠し撮りなのでジュリもヴィートもこの魔写の存在は知らないのでご内密に♪』

と書かれていた。

あら、ヴィート殿はこの魔写の存在を知らないのね。

つまり、ヴィート殿は記憶の中にしかジュリ様のドレス姿がないのね……

ふふ、カルロ殿。素敵なものをありがとうございます。

お礼に、ファンクラブの中でも一部の者しか持っていないとっておきの魔写をプレゼントいたしますわね。



その後、私とカルロ殿の間で、いくつかのジュリ様の(・・・・・)魔写のやりとりが行われ、私のジュリ様コレクションが充実していくのでした。

ミサキが持っている魔写の存在はカルロ殿にも内緒にしてあります。

これは私とミサキの二人だけの宝物ですからね。


アレクシア様たちにポロリとカルロ殿とのやりとりを話したら……


「それなら、私のコレクションも見ます?」


となり、アレクシア様、ローゼマリー様、リーゼル様(と付添い兼護衛のカルロ殿)が中央国にお見えになり、各自のジュリ様コレクションの自慢大会が行われたのはヒミツです。


というか、皆様どうやってジュリ様の魔写を集めたのかしら……



登場キャラ

中央国王妃:フィーネ・デリウス 40歳 魔術大好き、雷光の魔女のファン

北国の先の王妃:アレクシア・バッリスタ 55歳 夫(前国王)が『神子』に傾倒した後は側妃達となにやら結託して何かを計画中

東国の王妃:ウータ・カラーチェ 43歳 『神子』に傾倒、ジュリを忌避

南国の王妃:ローゼマリー・ブラッティ 38歳 ブラコン夫に愛想尽かして魔術研究に精を出す。でも政務は(王よりも)ちゃんと行っている。

西国の先の王太子妃:リーゼル・クローチェ 30歳 ヴィートの義姉


【裏設定】

各国の王妃はそれなりの魔力を持つことが最低条件である。

なので各国で噂になった『雷光の魔女』に異常に興味を持っている。

その『雷光の魔女』がジュリであることは早々に発覚し、次第に信者と化す(笑)

現北国王妃のルカは特殊な例で(神子という肩書のみで)王妃の位についた


おかしい……

中央の王妃と侍女たちの『ジュリ様(雷光の魔女様)ファンクラブ』の話の予定だったのに……

まあいいか……ヾ(--;)ぉぃぉぃ


ちなみに、アレクシア達は、神子よりも親しみやすく、ジュリの魔術の多彩さに興味を持ちいつの間にかファンになっていた(ジュリエッタ曰く『天然の人たらし』だからね、ジュリは……)のでジュリが滞在中に魔写撮りまくりです(笑)

一番コレクション数が多いのはアレクシアです。(ただ単に滞在期間が長かったから)

ジュリは魔写の存在は中央国以外の者は知りません(笑)



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