2.それは君たちの努力の結果なんだけど…
今回は短いです。
長くなりそうなので分けました。
各国の神子の来国の報はあっという間に中央国宮廷内を駆け巡った。
貴族共は『歴史的瞬間に立ち会える!』と興奮気味らしい。
なぜなら各国の神子が同年代に揃うことが今までなかったからだ。
過去の歴史を紐解いても5カ国すべてに同時期に『神子』が存在した時代はないらしい。
すこし神子の事に触れようか。
神殿と王家はそれぞれ独立した組織。(王家を組織と言っていいのかわからないが)
神殿の方が王家よりも歴史が長く、各国に拠点を持っていることから力バランスで言えば神殿の方が強い。
しかし互いに不干渉を謳っているため、神殿側が王家が取り仕切る政治に口出ししたり、王家が神殿で執り行われる儀式に口出ししたりすることはほとんどなく、うまい具合に支え合っている。
唯一『異世界より召喚せし神の子=神子』に関してだけは違った。
『神子』とは『神の代弁者』
王家にとっても神殿にとっても『神』は絶対唯一の存在とされている。
『神』に逆らうと国が滅びるという言い伝えも各国にて伝承されている。
現に、数百年前に『神子』を蔑にした国は天変地異の災害が起き、滅亡直前だったと歴史には刻まれている。
あえてどの国かは言わないが……
『神子』の地位は婚姻を結んだとしても揺る事がない。
神の元に戻るまで『神子』なのだ。
過去に神子が婚姻(王族でなくてもその国の人間なら誰でも良いらしい)を結んだことで国が発展した例があるため、積極的に神子の恋を協力し、神子の子孫をこの地に根付かせようとしている。
過去の『神子』はほとんどが元の世界に戻っていない。
帰った人もいるがそれは極稀で記録には残されていないらしい。
帰還の魔方陣はあるので帰れないことはないのだが、なぜか召喚された国の誰か(主に王族だったり護衛騎士だったり魔導士だったり)と結ばれるケースが多い。
神殿側の人間が言うには『神のお導き』らしい……
あれか?
苦難を共に乗り越えるから積み重ねた友情が愛情に変わるというあれか?
それとも、吊り橋効果的なモノか?
え?私?
私は神子じゃないからね。
自分の身は自分で守っていたのでそんな効果は発動されなかったわよ。
だから、問題が片付くと即、元の世界に帰還していた。
蛇足だが、『神子』の行動はある程度制限される。
どこに行くにも護衛と世話役の侍女がつく。(しかもかなりの過保護)
『神子』が傷つくことを恐れての処置だろうが……
『神子』側からしたら窮屈なんだろう。
慣れるまではよく息抜きに話し相手にさせられたからな。
***
豪華な客間にほぼ軟禁状態(常に侍女が世話をし、入口には魔導士兼護衛騎士が立っている)だった私の元にトールが姿を現したのは各国の神子が中央国に入国したという報告を受けた3日後の午後。
大幅に予定が狂ったそうだ。
中央国の王と神子による接待が原因だとか。
「中庭にてお茶会を開くそうだ」
「……まさかあそこに仕舞われてあるピラピラのドレスを着ろと?」
この部屋のクローゼットを指差し、所狭しと詰め込まれたドレスを思い出し眉間にしわを寄せる。
「いや、ジュリ殿の好きな服装で……神子たちが『今回は非公式だし、ジュリは絶対にドレスは着たがらないから好きな服装で来てもらいなさい』っと言付かっております」
「おお!さすが私の事を分かっているわね!」
ということで私は召喚された時に来ていた制服(いつの間にかクリーニングされてクローゼットに入っていた)に着替えてトールにエスコートされながら中庭に足を運んだ。
一応学生にとって制服は正装だからね。
文句は言わせないわ!
「ところで、なんでトールが迎えに来たの?城の使用人に伝言頼めば……」
「じゃんけんで勝った」
「は?」
「シルヴィ殿、ファル殿、トルディア殿と誰がジュリ殿をエスコートするかで揉めていたら神子に『恨みなしのじゃんけんで決めなさい!』と言われてじゃんけんをして勝った俺が迎えに来た」
「なんでエスコートくらいで揉めるのよ」
「みんな、ジュリ殿を独り占めしたいから」
「はぁ!?」
「ジュリ殿は人気者」
「ますますわからん。神子のおまけと言われていた私のどこが……」
「…………ジュリ殿は俺達魔導士に生きる力をくれた」
「へ?」
「俺もシルヴィ殿もファル殿もトルディア殿もジュリ殿と出会った頃は魔導士として落ちこぼれだった」
「落ちこぼれ?かなり優秀だったと思うけど……」
「俺達は貴族の出じゃない。全員平民出身。平民出身は能力があっても『落ちこぼれ』と呼ばれる。一生貴族出身の魔導士の下で独楽鼠のように働かされる。そんな俺達にジュリ殿は希望をくれた。血筋重視から実力重視にしてくれた。だから俺達のような平民出身の魔導士はジュリ殿に感謝している」
トールの説明に私は首を傾げる。
初めてこちらの世界に来た時、私に魔力属性があるということが分かり(牢屋生活-神子の力は見受けられないので神子に危害を加えない為にと牢屋に入れられていた-3日目にして突如神殿に呼ばれて検査をしたら発覚した)、憧れの魔法(こっちの世界では魔術と呼んでいる)を使ってみたくて初級から習っていたら1~2年で全属性の上級までマスターしてしまい、宮廷魔導士の人達に驚かれた。
普通は1~2個の属性を10年くらいかけて取得していくものらしい。
全ての属性を扱える人はほとんどいないとか……
なんというチート。
上級を完全網羅した頃(楽しくて全力で取り組んだら全部取得してしまった)、協会に登録している半数以上の能無しが偉そうにしているのが我慢ならなくて、『神子』に愚痴をこぼしながら魔導士同士の模擬戦を提案して意識改革(?)をしただけだ。
異世界から来た私よりも実力がない(初級魔術しか使えない)奴らが私が『神子』ではない事を貶し、他人の功績を自分のモノにして胡坐をかいて踏ん反り返って命令しているだけの奴が許せなかっただけである。
ただの自己満足に過ぎない。
血筋だけに頼って努力をしていなかった奴ら(初級の魔術しか扱えなかった人達)を模擬戦でボッコボコにして文句を言えなくなるまで叩きのめした。
模擬戦後、上位貴族のお坊ちゃん嬢ちゃん(血筋に驕っていた人達)には相当恨まれたが『文句あるなら私に勝ってからにしなさい』と意図的に挑発して何時でも挑戦を受けていたら魔導士全体のレベルが上がり国王に喜ばれたのは内緒だ。
これだけ聞けばチートに聞こえるが、私も私なりにかなり努力していたんだよ……
誰も信じてくれないけどね……トホホ……
それに、頼れる人もいなかったしね。
魔導士協会の内部改革はかなり苦労した。
協会のトップ連中はこれまた能無しの高位貴族で占められていたからだ。
その中で一番若く実力が伴っていた人を味方に付けて改革が完了するのに3年ほど費やした。
それが最初に召喚された北国での出来事の一つ。
一応協会と名乗っていたが組織としては機能していないも当然だった。
魔導士協会は本部は中央国にあり、各国に支部が設けられていたが各国とのネットワークはなかった。
私もそこまで頭が回っていなかった。というか思いつきもしなかったので各国との連絡網など皆無。
どの国も召喚に巻き込まれた時は同じような状態だった(ネットワークがないので他国の協会内部の情報は入ってこないらしい。政治的な事はバシバシ入るらしいが……)ので全部の国で改革をしちゃいました。
最初の北国ではものすごく苦労したけど、どの国も似たり寄ったりだったので東、南、西は楽に改革が出来た……と私は思う。
実際苦労したのはその国の底辺にいた優秀な魔導士たちだからね。
私はいろいろと口出し(アドバイス)しただけに過ぎない。(ほとんどが二次元世界の受け売りだが)
自分たちの地位を確立したのは他ならぬ魔導士たち本人である。
そしてその功績を神子様のものになる様に働きかけたのはお約束である。
私は目立つのは嫌いだし、神子様の功績にした方が後々いいのである。
私のおかげと正面切って言われても正直困るのであった。
一部、訂正しました。(2015.3.7)